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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第12話:管理者の書斎と、異世界の「ログイン」

王宮の地下深く、忘れ去られた備蓄庫の奥に、その入り口は隠されていた。



俺の脳内に浮かんだ地図に従い、埃を被った古い石壁の一部を適当に押すと、音もなく隠し扉がスライドする。



「……信じられない。王宮にこんな場所があったなんて、第一王女の私ですら知らなかったわ」



エリザベートが松明の炎に照らされた通路を、警戒と好奇心が混ざった瞳で見つめる。



「カイト殿、ここから先は空気が違う。……古代の魔力というよりは、もっと無機質な、冷たい気配を感じる」



シルヴィアが聖剣を抜き、俺を背後に庇うようにして歩を進める。

彼女の騎士としての勘は、ここが「剣と魔法の世界」の常識から外れた場所だと告げていた。



長い階段を降りた先に広がっていたのは、石造りの通路ではなく、白い金属に囲まれた広大な空間だった。



「……何これ、壁が光ってるニャ。触ると冷たいニャ」



ミアが恐る恐る壁に触れると、彼女の指先に反応して青い光のラインが走り、天井の照明が次々と点灯した。



そこは、まるでSF映画に出てくるようなハイテクな施設だった。

中世ヨーロッパ風の地上からは想像もつかない、あまりに異質な光景。



俺たちは吸い寄せられるように、部屋の中央にある巨大なモニターとコンソールへと向かった。



「カイト、これを見て。……また、貴方の国の言葉じゃないかしら?」



エリザベートが指差したモニターには、青い背景に白い文字が浮かび上がっていた。



『システム・エラー:特異点「カイト」の干渉により、確率操作エンジンが過負荷状態です』



『管理者ログインを待機中。生体情報をスキャンします……』



その文字を読んだ瞬間、コンソールから一本の細い光の束が伸び、俺の全身をなぞった。



『――認証完了。管理者権限レベル5:高木海斗様を確認。おかえりなさいませ』



無機質な音声が部屋中に響き渡り、目の前の大きな壁がゆっくりと左右に開いた。



その先にあったのは、驚くほど「普通」の部屋だった。

使い古されたソファ、山積みにされた漫画本、そして――見覚えのある大学生向けの参考書。



「……俺の、部屋?」



俺が呆然と一歩踏み出した時、部屋の隅にあるデスクに座っていた人影が、ゆっくりとこちらを振り向いた。



「ああ、やっと来たね。……いや、『おかえり』と言うべきかな、カイト君」



そこにいたのは、昨日塔の上で見かけた、あの男だった。

彼は手元のスマートフォンを操作しながら、親しげな笑みを浮かべて立ち上がる。



「貴様……! 何者だ、主から離れろ!」



シルヴィアが弾かれたように飛び出し、男の首筋に聖剣を突きつける。

だが、男は微塵も動じず、スマートフォンの画面をスワイプした。



カキィィンッ!



「……っ!? 剣が、動かない……!?」



シルヴィアの聖剣が、見えない壁に阻まれたように、男の数センチ手前で完全に停止していた。



「無駄だよ。ここは『管理者の書斎』だ。僕の許可なく物理的な干渉はできない。……落ち着いてよ、騎士のレディ。僕はただ、同郷の彼と話がしたいだけなんだ」



男は俺を見つめ、少しだけ悲しげな瞳で言った。



「僕は神崎カンザキ。君と同じ大学に通っていた、ただの不運な4年生さ。……君が『幸運値MAX』で転生したその裏で、僕がどんなステータスでここに来たか、想像できるかい?」



「神崎……? まさか、お前も……」



「そう。僕のステータスは『不運値:測定不能エラー』。……この世界に来た瞬間、僕は死ぬはずだった。でも、この『システム』が僕を拾った。不運を逆転させるための、『管理者』という役割を与えてね」



神崎がスマートフォンを俺に向ける。

そこには、俺たちのこれまでの冒険が、まるでゲームのログのようにすべて記録されていた。



「君の幸運は、この世界の確率を歪めすぎている。カジノを壊し、領主を自爆させ、王女に愛され、聖剣を引き抜く。……すべてが君にとって都合よく回りすぎているんだ」



神崎の声が、少しずつ熱を帯びていく。



「このまま君が幸運を使い続ければ、この世界の『バランス』が崩壊する。……君が幸せになればなるほど、この世界の誰かが、致命的な不運を肩代わりすることになるんだよ」



「……そんな、嘘ニャ。カイトは皆を助けてくれたニャ!」



ミアが男に牙を剥くが、神崎は首を振った。



「たとえば……君たちの王様。彼の呪いは、カイト君がこの国に来た日から始まった。違うかな?」



その言葉に、エリザベートが息を呑む。

確かに、国王の不運が始まった時期は、俺がこの国に現れた時期と重なっていた。



「カイト。君は、自分の幸運のために、周りの人間を不幸にしてもいいと思っているのかい?」



神崎の問いかけが、重く俺の胸に突き刺さる。



俺の「幸運」は、誰かの犠牲の上に成り立っているのか?



沈黙が部屋を支配する中、エリザベートがゆっくりと俺の隣に並び、俺の手を力強く握った。



「……ふん、馬鹿げた理屈ね。カイトが幸運なのは、カイトがカイトだからよ。誰かの不幸を吸っているなんて、そんな安っぽい呪術のような話、私が信じると思う?」



「王女殿下……」



「カイト、前を見なさい。この男が何を言おうと、貴方の運がこの国を救い、私を救ったのは事実よ。……それに」



エリザベートは神崎を真っ直ぐに睨みつけた。



「もしカイトの幸運のせいで世界が傾くというなら、私が王家の力ですべて支えてみせるわ。……貴方ごときに、私たちの旦那様を惑わさせはしない!」



「……ふふっ。いい信頼関係だね。うらやましいよ」



神崎は寂しそうに笑い、スマートフォンの電源を落とした。



「でも、警告はしたよ。……次に会う時は、僕も『仕事』をしなきゃならない。システムの管理者として、この世界の確率を正常に戻すためにね」



神崎の体が、霧のように薄くなっていく。



「カイト君。君の幸運が、いつまで君の大切な人たちを守れるか……見せてもらうよ」



男が消えた後、部屋には再び無機質な静寂が戻った。



「カイト殿、気にするな。あの男の言葉は、貴方を揺さぶるための罠だ」



シルヴィアが励ますように肩に手を置く。



だが、俺はモニターに表示されたままの、日本語のメッセージから目を逸らすことができなかった。



『イベント:最終試練「幸運の代償」がアクティブになりました』



俺の幸運値MAXの力。

その本当の意味と、この世界に隠された真実。



俺たちは、自分たちの存在そのものを問われる、最大の戦いへと足を踏み入れようとしていた。


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