今も語りかける墓
リアナは森の中の二つの墓のことが頭から離れなかった。
宿屋の主人にそこへ連れて行かれて以来、二人の間に何かが変わった。
もはや「宿屋の主人」と「馬小屋で働く娘」という関係ではなかった。
もっと静かで、もっと深い何かが。
まるで二人が同じような重荷を背負っていることを知っているかのように。
その日の午後、宿屋の主人に頼まれた軽い雑用を終えたリアナは、宿屋の奥で一人、森を見つめている主人を見つけた。
彼女はそっと近づいた。
「座ってもよろしいでしょうか?」
宿屋の主人は彼女を見ずに頷いた。
リアナは彼の隣に木製のベンチに腰を下ろした。
しばらく沈黙が続いた。
そして宿屋の主人が、低くかすれた声で話し始めた。
「妻の名前はミラだった。」
リアナは背筋が凍るような感覚を覚えた。
ミラ。
彼女の友人と同じ名前だった。宿屋の主人は続けた。「彼女は強かった。
多くの点で、私よりも強かった。
彼女とエララ…私の娘…は冒険者だった。
私が二人を訓練した。
私が知っていることをすべて教えれば、二人を守れると思ったんだ。」
彼は長い間沈黙した。
荒れた、傷だらけの手が固く握りしめられた。
「ある日、二人は依頼を受けた。
遠い村から、キャラバンを襲う下級のドラゴンを退治してほしいという依頼だった。
私は二人に行かないように言った。
危険すぎるからと。
しかし、二人は…自分たちだけでできることを証明したかったんだ。」
リアナは口を挟まずに耳を傾けた。
「そのドラゴンは下級ではなかった。
姿を変えた古代の獣だった。
最初にミラを殺した。
エララは彼女を守ろうとした。
最後まで戦った。
仲間たちが私を殺される前に、なんとか私を引きずり出してくれた。」
宿屋の主人は自分の手を見つめた。
「俺は生き残った。
奴らは違った。」
彼の声はかすかに震えた。「それ以来…冒険者をやめた。
持ち物全てを売り払い、この宿屋を買った。
ここに留まって、二度と剣に触れなければ、痛みは消えると思ったんだ。」
リアナは涙がこみ上げてくるのを感じた。
「でも、消えなかった…」
宿屋の主人は首を横に振った。
「ああ。
ますます重くなるばかりだ。
君のような若くて強い人を見るたびに…エララを思い出す。
訓練から帰ってきた時の彼女の笑顔。
『お父さん、いつか私があなたを守るから』って言ってくれたこと。」
彼は沈黙した。
リアナは自分の罪悪感が彼の罪悪感と混じり合うのを感じた。
「私も…私のせいで大切な人を失ったの。
見て。
村の友達。
私が存在したせいで、彼女は死んだ。
私の中に、制御できない何かがあったせいで。」
宿屋の主人は彼女を見つめた。
「じゃあ、君は分かっているんだな。」
リアナは頷いた。
「ええ。」
宿屋の主人はぎこちなく手を伸ばし、彼女の肩に触れた。まるで、どう慰めたらいいのか分からないかのように。
「同じじゃない。
でも、同じように辛いんだ。」
リアナは涙がこみ上げてくるのを感じた。
「どうやって生きていけばいいんですか?」
宿屋の主人は森の方、墓の方を見た。
「立ち上がるんだ。
訓練を続けるんだ。
ここにいる人たちを守り続けるんだ。
たとえ辛くても。」
彼はしばらく黙っていた。
「リアナ。」
「はい?」
「もし、もうこれ以上耐えられないと思ったら…私に言ってくれ。
君には私みたいになってほしくないんだ。」
「ただ…君に生きていてほしいんだ。」
リアナは心の中で何かが崩れ落ちるのを感じた。
しかし、それは痛みではなかった。
安堵だった。
初めて、誰かが彼女を責めることなく、彼女の罪悪感を理解してくれたからだ。
そして、誰かが彼女に生き続けるように言ってくれたのだ。
「やってみます」と彼女は囁いた。
宿屋の主人は手を引っ込めた。「やってみるな。ただやるんだ。」
彼女は立ち上がった。
「訓練は明日から再開します。」 「もっと強く。」
リアナはうなずいた。
「わかった。」
宿屋の女将は戸口で立ち止まった。
「リアナ…」
彼女は顔を上げた。
「あなたを誇りに思うわ。」
リアナは涙がさらに溢れ出るのを感じた。
しかし、今回は涙を隠さなかった。
なぜなら、今、彼女には自分を見てくれる人がいたからだ。
そして、逃げ出さなかった人が。
ここまでリアナの物語を読んでくださり、ありがとうございます。
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秘密はもう彼女だけのものではない…そして、それはすべてを変える。




