27 西浜家の事件簿ー消えた特製ハンバーグの謎ー
美浜村の初秋。心地よい潮風が西浜家のリビングに吹き抜け、庭の金木犀の香りがふわりと鼻をかすめる。
しかし、平和なはずの西浜家に、今、ただならぬ緊迫した空気が漂っていた。
「……ない。ないぞ、航太!」
リビングのちゃぶ台の前に仁王立ちした父・青は、額に青筋を浮かべながら頭を抱えていた。その視線の先にあるのは、ラップが綺麗にかけられた空っぽのお皿である。
「えっ、父ちゃん、マジで? さっきまでそこにラップして置いてあったよね?」
長男・航太は小学三年生。持っていた漫画本をパタンと閉じ、慌ててちゃぶ台へと駆け寄った。
弟の小学二年生・櫂も、キッチンからトコトコと走ってきて、空のお皿を覗き込み、目を丸くした。
「ほんとだ……! 母ちゃんが夕食用に一生懸命こねて、焼いてくれたあの特製の特大デミグラスハンバーグが……消えてる!」
「一体、誰がこんなひどいことを……!」
航太は名探偵気取りで顎に手を当て、鋭い視線をリビングの隅々へと走らせた。
時は少し遡のぼる。今日の昼下がり、母・ナギは「夕方、商店街の特売に行ってくるから、これだけは絶対に触らないでね」と念を押し、丁寧に焼き上げた極上のハンバーグをちゃぶ台の上に鎮座させ、出かけていったのだ。
その完全密室(?)とも言えるリビングから、主役であるハンバーグだけが忽然と姿を消したのである。
「おい、航太、推理してみろ。これは密室の怪事件だぞ」
青が真剣な顔つきで長男に迫る。航太はゴクリと唾を飲み込み、頭をフル回転させた。
「ふふん、父ちゃん、任せといてよ! こういうときは、まず『犯行現場に残された痕跡』を調べるのが名探偵の基本さ!」
航太はしゃがみ込み、ちゃぶ台の周りの畳を徹底的に捜索し始めた。
鋭い洞察力を持つ航太の目には、すぐにとある「決定的な証拠」が飛び込んできた。
「見てよ、これ! ちゃぶ台の脚のところに、茶色くてテカテカしたソースの染みがある! それに、床には微量のパン粉が散らばっているぞ……!」
「おお……! さすが俺の息子、名探偵の勘だ!」青が感心したように声を上げる。
「待って、にぃに、こっちにも何かある!」
櫂がリビングの端、縁側の窓ガラスの下を指さした。そこには、ガラスにべったりとついた、濡れた鼻の跡と、小さな肉球の形がくっきりと残されていた。
航太はすっと立ち上がり、事件現場と窓の跡を結ぶ線を頭の中で引いた。心臓がドクンと大きく鳴る。
──母ちゃんは人魚の過去を持ち、自分たちはウミガメを助けて竜宮城へ行き、盆踊りでは時を超える青年と出会った。この美浜村で起きる不可思議な事件の数々。
ならば、今回の密室トリックも、きっと常識を超えた恐ろしい怪物の仕業に違いない。
「まさか……村の裏山に住むという、あの幻の怪物……いや、海底から這い上がってきた『肉食の魚人』の仕業じゃ……!」
航太が青ざめた顔で震えると、櫂も「ひいい、食べられちゃうよぉ!」と航太の背中にしがみついた。
「いや、ちょっと待て、お前ら」
その時、リビングの隅のマットの上で、丸くなってすやすやと眠っていた「ある存在」が、ふっと薄目を開けた。
我が家の愛犬、二代目シロ――真っ白でふわふわの柴犬である。
シロはのそのそと立ち上がると、何食わぬ顔で大きく伸びをし、「ふあぁ……」とかわいらしくあくびをした。その口の端から、ほんのりと芳醇なデミグラスソースの香りが漂ったような気がした。
航太はビクッと体を硬直させ、ゆっくりとシロに視線を固定した。
「……まてよ」
航太の脳裏で、これまでのすべてのパズルピースがカチリと音を立てて噛み合った。
「密室トリック……。誰も窓を開けていない、鍵もかかっていた。外部からの侵入者の痕跡はない。だが、ちゃぶ台の高さは、人間の子供なら届くが、人間の大人が盗むにはあまりにも不自然な低い位置……。そして、あの窓ガラスの鼻の跡の高さは……!」
航太はシロの前に歩歩み寄り、指を突きつけた。
「犯人は……お前だ、シロ!!」
「ワン!」
シロはまるで「え、僕ですか?」とでも言いたげに、小首をかしげて尻尾をパタパタと振ってみせた。その演技派な態度に、青は思わず「おいおい、まさか……」と絶句する。
「動かぬ証拠があるんだぞ! 見ろ、口の周りがほんのり茶色いじゃないか!」
航太が指摘すると、シロは「ぺろっ」と自分の鼻先を舌で舐めた。その瞬間、隠しきれなかったデミグラスソースの風味がリビング全体に広がった。
「シロ……お前、あんなにいい子にしてたのに、魔が差したんだな……!」
櫂はショックを受けたように、崩れ落ちるように膝をついた。
そこへ、玄関の引き戸がガラガラと開いた。
「ただいまー! 特売でお魚が安かったから――って、あら? みんなして、そんなところでどうしたの?」
買物袋を両手に下げたナギが、不思議そうにリビングを覗き込んだ。
青が深々とため息をつきながら、空っぽのお皿を指さした。
「ナギ……すまん。俺たちがちょっと目を離した隙に、その……特製のハンバーグがだな……」
ナギは空のお皿を見て、一瞬きょとんとしたが、すぐにリビングの隅で申し訳なさそうに耳をペコンと畳んでいる白い影に気づいた。そして、すべてを察したように、ふっと優しく微笑んだ。
「……もしかして、シロが食べたの?」
「うん、名探偵航太の推理によると、窓ガラスの鼻の跡と、口元のデミグラスソースの証拠から、犯人は間違いなくこいつだ!」
航太が胸を張って言うと、ナギはクスリと笑ってシロの前にしゃがみ込んだ。
シロは「クゥーン」と甘えるような声を出し、ナギの膝に前足をちょこんと乗せた。
「もう、シロったら。あれは人間用のスパイスが入っているから、ワンちゃんにはちょっとしょっぱいのよ。ダメでしょ?」
ナギが優しく叱ると、シロは反省したように耳を垂れ、しょんぼりと丸くなった。そのあまりの可愛さに、さっきまで怒っていた青も、悔しそうに笑いながら頭をかいた。
「はあ、まったく……。名探偵の推理は大正解ってわけか」
「うう、シロの演技力、恐るべしだぜ……」
航太が頭を抱えていると、ナギは立ち上がり、二人の息子たちの頭を優しくなでた。
「でも、二人とも、お家の中の異変にすぐに気づいて推理してくれたのね。さすが私の自慢の息子たちだわ」
「へへっ、これくらい当然さ!」航太は照れくさそうに鼻をこすった。
櫂も「シロ、次からはちゃぶ台に飛びついちゃダメだぞ!」と、シロの頭を優しくポンポンと叩いた。シロは「ワン!」と元気に返事をする。
「さてと、犯人も分かったことだし、お肉の代わりに、今夜は特別に美味しいお魚のホイル焼きを作りましょうか。もちろん、シロには味付けなしの別のお肉をあげるからね」
ナギのその言葉に、航太と櫂は「やったあ!」と飛び跳ねた。
事件はこれにて一件落着。
夕暮れの美浜村の空には、温かい家族の笑い声がいつまでも優しく響き渡っていたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
またまた西浜一家の物語を思いつきました。
今度はほのぼの推理ものです。
既成の原稿とアイデアを入力してAIが書きました。




