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青い海のナギ 潮のゆりかご  作者: 村松希美


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21/23

21 海岸沿いの通学路とひみつの麦茶

青とナギの高校生になってからの再会を掘り下げて書いてみました。




1.夕凪の並走、通り過ぎた曲がり角



 美浜村みはまむらから自転車を漕いで三十分ほどのところにある、隣町の県立高校。そこからの帰り道は、常に太平洋のダイナミックな潮騒が二人の伴走者だった。


 五月の夕暮れ。水平線はすでに淡い茜色に染まり始めており、波打ち際できらめく光が、アスファルトの上を走る西浜青にしはまあおの視界をチカチカと刺激していた。青は学ランのボタンを一番上だけ外し、通学用自転車のペダルを一定のリズムで踏み込む。


 高校を卒業したら、進学はせず、美浜村の漁師になる。それは青の中でとうに決まっていた未来だった。

 小学二年生の時、漁師だった父親を海難事故で亡くしている。普通なら海を憎んでもおかしくない境遇だった。だが青には、防波堤の先で天国の父親に語りかけ続けた日々があり、何より、父親の跡を継ぐように気さくに声をかけてくれる二十代の漁師・一平いっぺい兄ちゃんや、海の厳しさと八百比丘尼やおびくにの伝説を教えてくれた近所のじっちゃんという、頼もしい道標があった。


 だからこそ、青は勉強を疎かにしなかった。気象のメカニズム、水産の流通、これからの漁師に必要な知識を真面目に蓄えることこそが、海で死んだ父親への、そして自分を育ててくれた母親への誠意だと信じていたからだ。

 けれど、青の心の奥底には、誰にも言えないもう一つの、そして最も切実な「漁師になる動機」が眠っていた。


(海で働いていたら……いつか、あいつに会えるんじゃないか)

 あいつ――小学五年生の秋の満月の夜、引き裂かれるように海へと帰っていった人魚の少女、ナギ。


 別れ際、防波堤の上で抱きしめ合った時、自分の頬を伝った涙の熱さを、青は一日たりとも忘れたことはない。もう二度と会えないと自分に言い聞かせ、鍵をかけて仕舞い込んだはずの初恋の記憶。それが、海を見つめるたびに、潮騒にのって青の胸を揺さぶりに来るのだった。


 カチャ、と自転車のチェーンがかすかな音を立てる。その時、前方の防波堤のそばで、同じ高校の女子自転車が速度を落とすのが見えた。

 長い、見事な黒髪が、海からの夕風にしなやかに揺れている。

 この春、同じ美浜村の中に引っ越してきて、クラスメイトになったばかりの入江凪沙いりえなぎさだった。


 彼女はいつも不思議な空気をまとっていた。授業中は静かにノートを取り、休み時間は窓の外の海をじっと見つめている。その横顔には、触れれば消えてしまいそうな透明感があった。青が並ぼうとした、その瞬間だった。


「――西浜君」

 鈴の音を転がしたような、けれどどこか懐かしい響きを持つ声が、潮騒を突き抜けて青の耳に届いた。青は無意識にペダルを踏む足を緩め、彼女の自転車と速度を合わせた。並んで車輪を転がしながら、不思議そうに凪沙の横顔を見る。


「入江さん? どうしたんだ、急に声をかけてくるなんて」

 凪沙は、自転車のハンドルをきゅっと握りしめた。その指先がわずかに震えているのを、青は気づかない。

 凪沙の胸の奥は、張り裂けそうなほどの歓喜と緊張で嵐のように波打っていた。


 海の女神になることよりも、人間として青のそばに生きることを選んだ代償。それは「青が二十六歳になるまで、自分がナギだと知られてはならない」という人魚の厳しい掟だった。


 あの日から、彼女の心は一瞬たりとも青を忘れたことはなかった。人間界で暮らすため、かつて尾っぽまであった長い髪をカニさんに肩の上まで短く切ってもらった子供時代。そして、小学生の時に優しく迎え入れてくれた大好きなオババが高校生になる前に亡くなってしまい、身寄りのない人間のフリをして、美浜村の「空き団地」を見つけて一人暮らしを始めたこと。


 すべては、もう一度青の隣を歩くために、彼女が一人で耐え抜いてきた孤独の道のりだった。毎日同じ教室で青の背中を見つめ、こうして同じ村へと帰る道すがら、愛しさが募って仕方がなかった。正体を明かせないもどかしさが、彼女の胸を小さく抉る。


「ううん、ちょっとね……西浜君とお話ししながら帰りたくて」

 凪沙は精一杯の「普通の女子高生」を演じながら、ふわりと微笑んだ。

 その笑顔を見た瞬間、青の胸の奥がドクンと妙な高鳴りを見せた。夕陽の悪戯だろうか。彼女の微笑みが、かつて自分が命をかけて海へと返し、そして二度と会えないと絶望した、あのナギの面影と狂おしいほどに重なって見えたのだ。


「……入江さんってさ」青は無意識のうちに、心の中にずっと鍵をかけて仕舞い込んでいた言葉をこぼしていた。「俺が昔、よく知っていた女の子に……すごく似てる気がする」


 凪沙の心臓が跳ね上がった。掟の刃が首元に触れたような錯覚を覚える。必死で動揺を抑え、悪戯っぽい光を瞳に宿して見せた。

「へえ、そうなの? ……じゃあ、その女の子のお話、私に聞かせてくれない? 私とその子、どこが似てるのかなって、ちょっと気になっちゃって」

 凪沙の言葉は、二人がそれぞれの自転車を並べて帰るための、完璧な「ひみつのきっかけ」となった。




2.過ぎ去った曲がり角と、初恋の記憶



「え、いや、そんな大した話じゃないんだけど……」

 青は照れくさそうにハンドルを握り直しながらも、凪沙の隣でゆっくりとペダルを漕ぎ続けた。


 これまで、あの夏の人魚の記憶を誰かに話したことはなかった。周囲に話せば子供の妄想だと笑われるのがオチだし、何より、あの別れの夜の痛切な痛みを、他人に安っぽく汚されたくなかったからだ。

 けれど、同じ美浜村の海を見て育っている入江凪沙という少女には、なぜか不思議と「話してもいいかもしれない」と思わせる包容力があった。


「小五の夏だったんだけどさ」青はぽつりぽつりと、語り始めた。「岩場の空洞で、女の子を見つけたんだ。相棒のシロって犬が最初に見つけてさ。名前は『ナギ』って言った。すごく気が強くて、でも、海を誰よりも愛していて……。最初は三田さんの畑のアヤメを勝手につもうとしたり、小川のトノサマガエルを見て俺に飛びついてきたり、本当に目が離せない奴だったんだ」


 隣で自転車を走らせる凪沙は、静かに耳を傾けていた。青の口から語られる「ナギ」の思い出。それは、彼女自身が何よりも大切に抱きしめてきた記憶そのものだった。トノサマガエルが怖くて青のTシャツを必死に握りしめたこと、アヤメの代わりに白い白詰草を三本、お礼にプレゼントしたこと。青が自分のことをそんな隅々まで覚えていてくれたことが、嬉しくて、愛おしくて、涙が溢れそうになる。


「俺、その子と色んな話をしたんだ。人間界のこととか、あいつのトト様やカカ様のこととか。二学期になったら、学校の帰り道に『胸がざわざわする』って相談されてさ……。俺を特別に思ってくれてるからだって気づいた時、本当に嬉しかった。……でも、ある日突然、あいつは海へ帰らなきゃいけなくなって。別れ際に、防波堤の上で強く抱きしめ合って……それっきりさ」


 青の言葉の端々に、初恋に似た切ない感情がにじんでいるのを、凪沙は敏感に感じ取っていた。

 忘れてない。青くんは、あの日流した一筋の涙のまま、ずっと私を心の中に置いてくれていたんだ、と胸が熱くなる。


「素敵な女の子ね」凪沙は優しく声を絞り出した。「その子はきっと、今でも西浜君のことを海のどこかで見守っていると思うな。……あ、それで、私とその子は、どんなところが似てるの?」


「うーん……」青はペダルを漕ぐ足を少し緩め、隣を走る凪沙の顔をじっと見つめた。夕陽を浴びてきらめく瞳。潮風に揺れる黒髪。そして、何よりも海を見つめる時の、切なげで、けれど深い愛情がこもったその眼差し。「……眼かな。海を見つめる眼が、すごくそっくりんだ。あいつがアヤメを見て、海の一番きれいな青色に似てるって言った時の眼に」

「ふふ、私はただの入江凪沙だよ? 人魚じゃなくて、普通の女の子」


 そう言われて、凪沙はいたたまれなくなって、クスッと笑って胡麻化した。

「分かってるよ! 変なこと言って悪かった」青は顔を赤くして、再び前を向いて自転車を漕いだ。

 しかし、話に夢中になりすぎていた。


 美浜村に入り、海岸沿いの本道から青の自宅へと続く狭い中道の方が、帰りのルートとしては先にあった。いつもならそこで「じゃあな」と別れるはずだった。一平兄ちゃんがよく缶ジュースを飲んでいる坂道の手前だ。


 だが青は、完全にその曲がり角を通り過ぎてしまっていた。気がつけば、その少し先にある、凪沙の住む空き団地へと続く中道へと二人の自転車は進んでいたのだ。


「あ……! 悪い、俺、自分の家への中道、完全に通り過ぎてた!」

 慌てて自転車を止める青を見て、凪沙は自転車にまたがったまま、声を立てて笑った。人間の女の子としての、心からの弾けた笑顔だった。あの小学校の坂道で、一平兄ちゃんを誤魔化すために青がスラスラと嘘をついた時、後ろでクスッと笑ったあの時と同じ笑顔。


「ふふ、本当に夢中だったんだね。……ちょうど良かった。ここ、私の住んでる団地への道なの。ここまで来ちゃったんだし、そのまま帰るのももったいないよ。……ねえ、うちに上がって、冷たい麦茶でも飲んでいかない?」


「……じゃあ、一杯だけ、ごちそうになろうかな」

 青は照れくささを隠すように愛車のスタンドを立て、少し寂しげな外観の空き団地へと、凪沙の後を歩いていった。




3.ひみつの麦茶と既視感デジャヴ



 凪沙の部屋は、驚くほどすっきりとしていた。一人暮らしの団地の一室。飾り気はほとんどないが、窓が大きく開け放たれており、美浜村の波の音が心地よく響いてくる。まるで海の上に浮かぶ小舟の中にいるような、不思議な空間だった。オババが亡くなって以来、一人でこの静かな部屋にいるナギの孤独が、部屋の隅々にほんのりと漂っている気がした。


「はい、どうぞ。冷たいよ」

 凪沙が差し出してきたのは、水滴がびっしりとついたガラスのコップだった。中には、透き通った茶色の麦茶が並々と注がれている。


 オババの家で初めてもらった、あの冷たい麦茶と同じ、香ばしい匂い。

「サンキュ」青は一気にそれを飲み干した。喉を鳴らして滑り込んでいく冷たさが、火照った身体に染み渡る。「ぷはあ……美味い。なんか、生き返るわ」


「良かった。おかわりあるからね」

 凪沙は自分の分のコップを両手で持ちながら、畳の上に上品に座った。


 その姿を横目で盗み見ながら、青はふと、激しい既視感に囚われていた。初めて入った部屋のはずなのに、なぜか心から落ち着く。小学生の頃、秘密の入景でナギと過ごしたあの時間に、空気感が驚くほど似ていた。


「入江さんはさ、一人で寂しくないの?」青は素朴な疑問を口にした。遠くの街から、こんな寂れた漁村の空き団地に一人で引っ越してきたという彼女の境遇が、どうしても気になっていた。「オババ様が亡くなってから、大変だったろ」


 凪沙はコップを見つめたまま、少しだけ視線を落とした。「……時々ね、すごく寂しくなるよ。遠い場所から、大切なものを全部置いてここに来たから。……でもね、寂しくなったら、海を見るの。そうすると、世界中の海は全部繋がっているから、一人じゃないって思えるの」


 その言葉は、人魚としての本音だった。けれど、青には「孤独な少女の寂しさ」として伝わっていた。

 青の胸の奥に、彼女を守ってあげたいという、男らしい小さな責任感が芽生えた。


「もし、また寂しくなったらさ」青はコップを置き、真っ直ぐに凪沙を見た。「俺に言ってよ。美浜の海なら、俺、誰よりも詳しいから。面白い場所、たくさん教えてやるよ。じっちゃんから聞いた人魚の隠れ根の話だって、一平兄ちゃんしか知らない穴場スポットだってさ」


「……うん! ありがとう、西浜君」

 凪沙の瞳が、一瞬で歓喜に染まった。本当は誰よりもその海を知っている人魚なのに、青が自分のためにそう言ってくれたことが、ただ涙が出るほど嬉しかった。




4.二人のローテーブル、重なる季節



 その日を境に、二人の距離は急速に縮まっていった。


 放課後になると、どちらからともなく予定を合わせ、あの茜色の通学路を、それぞれの自転車で並んでお喋りしながら帰るのが二人の「日課」になった。そして、季節はまたたく間に巡り、じりじりと照りつける太陽が美浜の海をエメラルドグリーンに染める、夏休みがやってきた。


 高校二年の夏休み。漁師を目指す青にとっても、この夏は重要だった。一平兄ちゃんの船に乗せてもらい、実際の網の引き方や、海の状況を読む実戦的な手伝いが増えていたからだ。


 しかし、どれだけ漁の手伝いで身体がクタクタになっても、青は勉強を怠けないよう、必ず参考書とノートを入れたカバンを自転車の荷台にくくりつけ、凪沙の団地へと向かった。


「お邪魔します」

「いらっしゃい、西浜君。暑かったでしょ」

 風が通り抜ける団地のリビング。そこには、二人の勉強机代わりに、小さなローテーブルが置かれていた。


 青は汗を拭いながら、数学の分厚い問題集を開く。

「よし、今日は微分積分を終わらせる。一平兄ちゃんも言ってたんだ。海に出るにしても、これからの時代は潮の満ち引きをデータで計算したり、色んな知識が必要になるって。親父の跡を継ぐなら、中途半端な漁師にはなりたくないからな」


 ノートに数式を書き込んでいく青の横顔を、凪沙は顎を引いて、うっとりと見つめていた。

 実は、凪沙にとって人間の高校の勉強など、人魚の卓越した頭脳をもってすれば一瞬で理解できるものばかりだった。教科書を一読すれば、すべての数式も英語の長文も完璧に頭に入る。勉強なんて、本当は一秒ですらする必要はなかった。

 けれど、凪沙はわざとペンを止め、困ったような顔をしてノートを青の方へと差し出す。


「ねえ、西浜君。この問題、どうしてもやり方が分からなくって……教えてくれる?」

 わざと分からないフリをする、ナギの可愛い嘘。

 そうすれば、青が「どれどれ?」と顔を近づけてくれるから。少しでも長く、この静かな団地の一室で、大好きな青と同じ空間を、同じ時間を共有していたいから。


 二人の距離が、わずか数十センチに縮まる。

 青の体から漂う、夏の太陽と、ほのかな潮の香り。それが凪沙の肌をくすぐるたび、彼女の心臓は激しく波打った。人魚の掟のせいで、抱きつくことも、本当の名前を呼ぶこともできないけれど、この至近距離で彼の体温を感じられるだけで、胸の奥がじんわりと甘い痛みで満たされていく。


「これはさ、この単語が後ろの文章を修飾してるんだよ。……ほら、ここ」

 青が一生懸命説明する。

「ふふ、分かりやすいよ。西浜君の教え方、私、大好き」

 凪沙がニッコリと笑うと、青はまたしてもドキリとして、視線をノートへと戻した。


(ダメだ、最近、入江さんの前だと調子が狂う……)

 青はペンを握り直しながら、自分の胸のざわつきを必死に抑え込んでいた。小学生のあの二学期、ナギが「胸がざわざわする」と言った、あの感情の正体が、今度は津波のように青の胸に押し寄せていた。




5.一途な動機、引き裂かれる胸



 夕方になり、勉強の手を止めた二人は、団地のベランダに出て、冷たいスイカを口に運んでいた。

 目の前には、昼間の青から、少しずつ紫がかった深い紺色へと姿を変えつつある、夏の美浜の海が広がっている。


「なあ、入江さん」青がスイカの種を庭に飛ばしながら、ぽつりと言った。「俺がさ、なんでこんなに必死に勉強して、何が何でも漁師になろうとしてるか……本当の理由、話してもいいか?」


 凪沙はスイカを口に運ぶ手を止め、じっと青を見つめた。「うん。聞きたいな」

「親父の跡を継ぎたいってのも、一平兄ちゃんたちへの恩返しってのも、全部本当なんだ。でも……それ以上に、俺にはどうしても諦めきれない理由があるんだ」

 青はベランダの欄干(らんかん)をぎゅっと握りしめ、遠い水平線の彼方を見つめた。その眼には、底知れない決意と、過去の重い傷跡が宿っていた。


「小五の秋、ナギを海に返した時……俺、あいつに酷いことをたくさん言ったんだ。『ナギがいたら俺が辛くなる』って、スタスタ防波堤まで引っ張っていって、無理やり海に帰した。あいつ、泣いてたよ。……でもさ、あれ、嘘だったんだ」

 凪沙の息が止まった。スイカを持つ手が、かすかに震える。


「あの時、うちの母ちゃんが重い病気で倒れてさ……。じっちゃんから聞いた『八百比丘尼の伝説』を思い出しちまったんだ。人魚の肉を食べれば、どんな病気も治って不老不死になるっていう、あの恐ろしいおとぎ話。……情けないことに、俺、ほんの一瞬だけど頭をよぎっちゃったんだよ。もしナギの血肉があれば、母ちゃんを助けられるんじゃないかって」

 青の(こぶし)が、みしみしと音を立てて白くなる。


「自分の最愛の母親を助けるために、同じくらい大好きなナギを犠牲にするかもしれない。側にいればいるほど、そんな悪魔みたいな引き算を考えてしまう自分が、本当に恐ろしかった。ナギのことが死ぬほど大切なのに、自分の醜い欲望で、あいつを傷つけてしまうかもしれない。……だから俺は、自分自身が狂っちまう前に、ナギを自分の手から守るために、大嫌いになられる覚悟であいつを突き放したんだ」

 夕闇が迫るベランダで、青の声が震えていた。


「防波堤であいつを強く抱きしめて、海に飛び込んでいく背中を見送りながら、『俺たち、もう会うことはないんだよ』って自分に呪いをかけた。あいつの命を守るために、二度と会っちゃいけないって。……でも、母ちゃんが奇跡的に病気から回復して、俺も高校生になって……やっぱり、どうしても諦めきれなかった」

 青は真っ直ぐに海を見つめた。その横顔は、もう少年のものではなかった。


「あの時は、ナギを傷つけないために手放すしかなかった。でも、今の俺はもう子供じゃない。だから、俺が本物の漁師になって、誰よりも海を愛して、毎日海の上で働いていれば、今度は傷つけるためじゃない……あいつを全力で迎えに行って、守り抜くために、もう一度会えるんじゃないかって、本気で信じてるんだよ。だから、俺は中途半端な漁師には絶対にならない。海に、俺のこの命を懸けた祈りを届けるんだ」


 青の言葉は、真っ直ぐに凪沙の胸の奥へと突き刺さった。

 切なくて、愛おしくて、胸が激しく引き裂かれそうだった。

(青くん……そんな理由で、私を帰したのね……)

 凪沙の視界が、大粒の涙で溢れる。


 あの夜、青が必死で自分を突き放した本当の理由。それは、自分を犠牲にしようとしたからではなく、自分の命を自分の醜い心から守り抜くための、あまりにも深く、狂おしいほどの愛だったのだ。ナギは、あの時の青の葛藤をすべて理解し、彼の涙の意味を、本当の意味で今、知った。


 今すぐにでも「私がナギだよ! ずっと青くんの側にいたんだよ!」と叫んで、その広い胸に飛び込みたかった。人魚の頭脳で完璧に勉強ができることも、オババが亡くなった後もこの村を離れなかったのも、すべては青のそばにいたいからだと、本当のことを全部打ち明けたかった。


 けれど――二十六歳になるまでは、正体を明かしてはならない。もし今言ってしまえば、掟によって二人は永遠に引き裂かれてしまう。

 凪沙は溢れそうになる涙を必死でこらえ、夕陽の落ちた暗い海の方を向いた。


「……そっか。西浜君は、本当にそのナギっていう女の子のことが、命を懸けるくらい大好きなんだね」

 声が震えないように、精一杯の笑顔を作って、凪沙は言った。


「あ、いや! 恥ずかしいな、高校生にもなって、こんなおとぎ話みたいなこと言ってさ!」青は自分の過去を熱く語りすぎたことに気づき、急に顔を真っ赤にして頭をかいた。「忘れてくれ! 入江さんを困らせるつもりじゃなかったんだ」


「困ってないよ」凪沙は静かに、けれど心の底からの誓いを込めて、青の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。「西浜君のその気持ち、すごく素敵だと思う。……だから、絶対に漁師になってね。毎日、毎日、海に出て。……そうすれば、絶対に想いは海に届くよ。その女の子だって、きっと、すぐ近くで……誰よりも近くで、西浜君のことを見つめてるはずだから」


「……おう! ありがとな、入江さん」

 青は凪沙の言葉に力強く頷き、再び海を見つめた。その横顔には、未来へ向かう確かな決意が満ちていた。


 まだ、青は気づいていない。

 自分が海へ会いに行こうとしている最愛の少女が、今、自分のすぐ隣で、同じスイカを食べて微笑んでいることに。


 そして、自分が二十六歳の誕生日を迎えるその日まで、このあまりにも切ない、けれど世界一温かい「ひみつのすれ違い」が続いていくことに。

 ベランダを吹き抜ける夏の潮風が、二人の髪を優しく揺らす。



 美浜村の満ちていく潮のように、二人の心は、誰にも引き裂けない深さで、確実に重なり合っていた。







アイデアを入力してAIが書きました。


何回か修正しましたが、AIがイメージどうりの物語を書いてくれました。


9月から小説家になろうもAIを使用したかどうかを表記しなければならなくなるようですね。


初めからAIを使った時は表記していて良かったです。

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