20 航太と櫂の線路は続くよどこまでも
美浜村をのんびり出発した西浜家のワゴン車は、阪神高速を走り抜け、神戸市のあるホテルへと到着した。
実は昨日、夫婦2人きりで繁華街へ出かけた青とナギは、ちょっとした大事件に遭遇していた。
人混みの中で中学生の少年にバッグをすられかけたのだ。
しかし、漁師仕込みの俊足で青が少年を捕まえ、ナギは怒るどころか、かつて海の世界にいた「寂しい目をした子」を重ね合わせ、塩レモンキャンディを手渡して少年の心をそっと溶かしたのだった。
別れ際に少年が「姉ちゃん、ワンピース似合ってるよ」と言い残し、青がほんの少し都会の空気にヤキモキしたのも、今では温かい旅の思い出だ。
——そして、明けた翌日の朝。
すっかりハッピーな気持ちで仕切り直した西浜家一同は、今度こそ家族4人揃って都会を満喫するため、ライナーのとある駅のホームに立っていた。
「うわあ……! きたきた! お顔がガラスの電車だ!」
5歳の航太が、高架のホームに滑り込んできた白い未来的な車両を見つけて目を輝かせる。4歳の櫂も「でんしゃ! でんしゃ!」と青のジーンズの裾を引っ張って大はしゃぎだ。
プシューと扉が開くと、運良く最前列——運転席のない、全面ガラス張りの特等席が空いていた。
「航太、櫂、あそこに座れ!」
青が声をかけると、二人は弾かれたようにステップを駆け上がり、特等席にちょこんと並んで腰掛けた。
すぐ後ろの座席には、昨日少年が「似合ってる」と褒めてくれた水色のワンピースとは違い真っ白なワンピースを着たナギと、お気に入りのあずき色のバッグ、そしてナギの手をそっと頼もしく握りしめる青が並んで座る。
扉が閉まり、ポートライナーは静かに高架線を進み始めた。
「動いたーっ!」
航太と櫂は、同時にフロントガラスにピタッと顔をくっつけた。鼻の頭がガラスで丸く潰れているのも気にしない。
目の前には、どこまでも、どこまでも真っ直ぐに伸びる2本のコンクリートの軌道が、吸い込まれるように続いている。
「せんろはつづくーよー、どこまでーもー♪」
航太が興奮のあまり、保育園で習った大好きな曲を歌い出した。
「のーをこえー、やまこえー、たにこえてー♪」
櫂も、にぃにの真似をして、座席の上でお尻をピョコピョコと揺らしながら合唱する。
ライナーは高い高架の上を走るため、野や山ではなく、巨大なビル群の間をすり抜けるようにぐんぐんと進んでいく。まるで空を飛んでいるようなその景色に、子供たちは夢中だ。
「にぃに、あっちに海が見えるよ! おっきいお船!」
櫂が叫んだ。
列車が人工島を離れ、海の上にかかる真っ赤な「神戸大橋」へと差し掛かったのだ。
視界が一気に開け、左右には一面の神戸の海が広がる。そこには、青がいつも乗っている漁船とは比べ物にならないほど巨大な外国のコンテナ船や、真っ白な観光遊覧船がいくつも浮かんでいた。
「すごいなぁ……。同じ海なのに、美浜村の海と全然違うや」
航太は目をきらきらと輝かせながら、どこまでも続くレールの先を見つめた。
美浜村の海は、自分たちを優しく包み込んでくれる「お母さん」のような海。だけど、ここ神戸の海は、世界中の遠い国へとレールのように繋がっている「冒険」の海に見えた。
「二人とも、前を見てごらん。もうすぐ三●の駅だ。ビルの中に電車が入っていくぞ」
後ろから青が身を乗り出して、二人の肩をポンと叩いた。
ライナーにはトンネルはない。その代わり、都会の空中を突き進み、大きなビルが立ち並ぶ三●駅の高架ホームへとダイレクトに吸い込まれていくのだ。
「出発進行、しゅったつしんこうー!」
「しんこーう!」
おかしな掛け声を上げる息子たちを見て、ナギが昨日までの緊張をすっかり忘れたように、口元を押さえて「ふふっ」と笑った。
「ねえ、青くん。都会の線路って、どこまでも繋がっていて、昨日出会ったあの子の未来にも繋がっているみたいね」
ナギがそっと囁くと、青は優しく微笑んでうなずいた。
「そうだな。あいつの未来も、この子たちの未来も、どこまでも真っ直ぐ続いていけばいい」
お昼過ぎ、三●での楽しい買い物を終えた一行は、再びライナーに乗ってホテルへの帰路についていた。
たくさん歩いてクタクタになった航太と櫂は、座席の上で、お互いの頭をくっつけ合うようにして、すでにすやすやと眠りについている。
窓から差し込む優しい夏の陽光が、眠る二人の小麦色の頬を照らしていた。
その寝顔を見つめながら、青はナギの肩をそっと引き寄せた。
「昨日はどうなるかと思ったけど……今日は最高の家族旅行になったな」
「ええ。この子たちが大きくなったら、またみんなで来ましょうね」
ナギは青の胸に頭を預け、静かに目を閉じた。
海の女神としての掟を捨て、人間になる道を選んで本当に良かった。自分の大好きな「青い海」のような夫に守られながら、愛しい子供たちがこうして都会の新しい景色に目を輝かせ、たくましく育っていく。
「どんなに遠くへ行っても、俺たちのいる美浜村の海が、あの子たちの帰る場所だからな」
青の言葉に、ナギは幸せそうにうなずいた。
車窓の外では、神戸の街並みと、遠く広がる穏やかな海が、昨日よりもずっとキラキラと、家族4人の未来を祝うように優しくきらめいていた。
YouTubeで線路は続くよどこまでものピアノ曲を聴いていたら、航太と櫂の物語を思いつきました。
アイデアを入力してAIが書きました。
AIも中々やると思いませんか?




