19 われは海の子、潮風の歌
じりじりと照りつける夏の太陽が、美浜村の海をエメラルドグリーンに染め上げていた。
波打ち際では、白く弾ける波しぶきがダイヤモンドのようにきらめいている。
「おーい、航太! 櫂! あんまり遠くへ行くなよ!」
浜辺に置いたパラソルの下から、青が手をもごもごと動かしながら声を張り上げた。その手元には、例のレゴブロックがある。今日は「砂浜でお城を作る」と言ってわざわざ数個のパーツを持ってきたのだ。大人げなく熱中し始めた夫の姿に、隣に座るナギがくすくすと鈴を転がすように笑う。
「大丈夫よ、青くん。海は今日も優しいから」
水色のサマードレスに身を包んだナギは、愛おしそうに海を見つめた。
その視線の先では、5歳になった航太と、4歳になった櫂が、文字通り「海の子」として水とはしゃいでいた。
「にぃに、みて! お魚さん、いっぱい!」
小さな膝まで波に浸かった櫂が、ぽちゃぽちゃと水面を叩く。その小さな足元を、数匹の小さな稚魚が恐れる様子もなく、むしろじゃれつくように泳ぎ回っていた。
「本当だ! よし、櫂、あっちの磯まで探検だ!」
航太が櫂の手をひき、慣れた足取りで岩場へと歩いていく。
二人の肌は、夏の太陽をいっぱいに浴びて健康的な小麦色に輝いていた。毎日、潮風を吸い込んで大きくなった子どもたちだ。美浜村の海は彼らにとって、ただの遊び場ではなく、大きなゆりかごのようだった。
岩場に到着すると、二人は小さな潮だまり(タイドプール)を覗き込んだ。
「あ、ヤドカリさん。お引越し中かなぁ」
櫂が指差した先で、小さな貝殻がせっせと動いている。
航太は、少し深い水をじっと見つめていた。すると、不思議なことが起きた。航太が水面にそっと手を浸すと、ざわついていた潮だまりの水が、ピタリと鏡のように静まり返ったのだ。
「……ねえ、にぃに。海がなんか言ってる?」
櫂が小首をかしげると、航太は嬉しそうに目を輝かせた。
「うん。お魚たちがね、『今日は波が静かだから、奥までおいで』って言ってる気がするんだ」
人魚の掟が解け、人間として生きることを選んだナギ。けれど、彼女が海を愛する心と、海から愛される特別な力は、確かに二人の息子たちの中にも息づいていた。彼らが海に入ると、不思議と波は穏やかになり、海の生き物たちは彼らを歓迎するように集まってくるのだった。
「われはうーみのこー、しーらなみのー♪」
航太が、保育園で習ったばかりの歌を口ずさみ始めた。
「つーみしろたえのー、なーみのうえー♪」
小さな櫂も、覚えたてのメロディを一生懸命に追いかける。二人の幼い歌声は、心地よい潮騒の音と綺麗に重なり合い、まるで海そのものが一緒にハモっているかのように優しく響き渡った。
その時、少し離れた深みから、一際大きな波が「ザざん」と音を立てた。
普通の子供なら驚いて泣き出してしまうかもしれない距離だったが、航太と櫂は顔を見合わせてニッコリと笑った。
「わあ、大きな波のすべり台だ!」
二人は怖がるどころか、寄せては返す波のタイミングに合わせて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。まるでイルカの兄弟が波間で遊んでいるかのようだった。
「こらこら、二人とも。楽しそうなのはいいけど、お洋服がびしょ濡れだよ?」
いつの間にか歩み寄ってきたナギが、困ったように、でも溢れんばかりの笑顔で二人を見下ろしていた。
「あ、母ちゃん!」
「かぁちゃん、海ね、すっごく楽しいよ!」
二人が水しぶきを上げながらナギに抱きつく。ナギの水色のワンピースの裾が濡れて濃い青色に変わっていくが、彼女は全く気にせず、二人を愛おしそうに抱きしめた。
遅れてやってきた青は、首にタオルをかけ、頭にサングラスを乗せた夏の漁師スタイルで、あきれたように笑った。
「まったく、誰に似たんだか。手がつけられないくらい海が好きだな」
「ふふ、青くんに似たのよ? 毎日飽きずに海に出て行く、大好きな漁師さんにね」
ナギが茶目っ気たっぷりにウインクすると、青は「そりゃ、俺の仕事だし……」と照れくさそうに頭をかいた。
「とうちゃん、わかづくりー!」
「なんばー!」
都会へ行く日に覚えたセリフを、航太と櫂がここぞとばかりに叫ぶ。
「おい、その『若作り』と『ナンパ』はもう忘れてくれって言っただろ!」
青のツッコミに、浜辺には弾けるような4人の笑い声が響き渡った。
夕暮れ時。
美浜村の海は、昼間の青から、燃えるような茜色、そして深い紫色のグラデーションへと姿を変えていた。
たくさん遊んでお腹がいっぱいになった航太と櫂は、リビングの大きな窓から海が見えるソファの上で、すやすやと眠りについている。二人の小さな手には、青が今日砂浜で完成させた、少し歪だけど立派な「レゴブロックの灯台」がしっかりと握られていた。
窓から吹き込む潮風が、眠る二人の前髪を優しく揺らす。
その寝顔を見つめながら、青はナギの肩をそっと引き寄せた。
「航太も櫂も、いい男になるな。きっと、俺よりいい漁師になる」
「ええ。この海が、きっとあの子供たちを優しく育ててくれるわ」
ナギは青の胸に頭を預け、静かに目を閉じた。
海の女神としての掟を捨て、人間になる道を選んだあの日。何も後悔はなかったけれど、こうして自分の血を引いた愛しい子供たちが、優しく力強い海に見守られながら生きている姿を見るたび、胸の奥が温かい涙で満たされる。
窓の外では、夜の海が穏やかに、どこまでも優しくきらめいていた。
それは、海の子らを見守る、もう二度と離れることのない、家族の海の色だった。
西浜青とナギの息子たち、航太と櫂の物語です。
YouTubeのピアノ曲の線路は続くよどこまでもを聴いていたら、航太と櫂の物語を作ってみようと思いました。
まずは、線路……の前に、美浜村の海のわれは海の子のピアノ曲を聴いてからにしようと思いました。
アイデアを出してAIが書きました。




