異世界の過去
アルティラス暦486年12月22日 リーニア王国 コッザウ
タイムマシンは人目のつかない森の中の空地に着陸した。揺れが収まる。シートベルトを外して後部ハッチが開くと冷たい風がなだれ込んだ。
めまいと吐き気が同時に襲った。
外に出た俺はホルスターからUSPタクティカルを引き抜いて、銃口を周囲に向けつつ、見渡した。外は夜だ。ちらつく雪、雪が積もった地面。危険は確認できない。USPタクティカルを下げて言った。
「危険は確認できない。行くぞ」
隊員達が一斉に外に出た。周囲を警戒する。
「本当に過去に……うっ」
タイムマシンから出てきたシオリが顔をそむけた。自分で自分に治癒魔法をかける。
「この状態異常ってーー」
シオリが言いかけて、治癒魔法で全員を即座に回復させた。
「ありがとう、シオリ」
和彦が言った。
「本当に過去に着いたのですか?」
シオリが尋ねた。
「ああ」
俺は答えて、無線機の送信スイッチを押した。タキオン回線で本部に連絡する。
「ギフ1から本部へ、異世界の過去に到着。オーバー」
「こちら本部、受信良好。了解した。アウト」
彰人がタイムマシンを見つけられないように存在を消した。俺は探時機を取り出した。探時機上面にある電源スイッチを押し込み、起動した。測定を開始する。
「それは何ですか?」
シオリが尋ねながら、黒い探時機を覗き込んだ。
「離れろ。これは歴史改変の測定に使われる装置だ。数値が高いほど周辺で大規模な改変が行われたことになる」
数十秒後、測定が完了した。結果は周辺で小規模な改変が行われたことを示している。
俺は本部に報告した。
「ギフ1から本部へ、小規模な改変を確認。これより調査を開始する。オーバー」
「小規模な改変を確認、了解した。アウト」
「全員、集まれ」
俺は命じた。ポケットから折りたたんだ地図を取り出した。コッザウはリーニア王国西部にある都市の一つだ。
「ここからコッザウに向かうーー」
任務の確認を行う。
任務は当時からアレクサンダーを確保し、レッドストームを排除すること。部隊は雪が降る中、事件の起きたコッザウの公園へ向かった。
リーニア王国 バルトライプス山脈 レッドストーム秘密基地 現在
拓馬たちを見送った俺は自分の部隊のクレ部隊とハリマ部隊、臨時で編成された佐藤進を隊長とするタジミ部隊の共同で現在のムー世界にいるレッドストーム工作員の捜査を開始した。マリーラ村で活動していた工作員を尋問するため、レッドストーム秘密基地の場所を覚えた魔法使いの転移魔法でマリーラ村へ移動した。
転移魔法陣についてリンに訊くとこれから調べる予定だったと答えた。
マリーラ村は片付けと復興に追われていた。
俺達はユーゼフを尋問するため、役場の部屋を借りた。ダークエルフの警部、リンが同じ警察組織の警官に尋問の準備を命じた。アイザックと呼ばれた警官はイエスマムと答えてどこかへ去っていった。
エルフのベルと魔法使いは保護した人たちを何回か往復してマリーラ村に送った。
「俺は悪い警官、お前はいい警官」
役場の廊下を歩きながら、淳が言った。俺と淳は、いい警官と悪い警官を演じてリン警部立会いのもと情報を引き出す。
淳が乱暴にドアを開けた。部屋にはユーゼフが座っている椅子と机が一つ、誰も座っていない椅子が一脚ある。
俺は親切にして情報を聞き出す。ユーゼフの向かい側の椅子に座った。淳は横で立ったまま、腕を組んでユーゼフを睨みつけた。
「腹が減った」
ユーゼフがボソッと言った。
「これが終わったら、何か食べ物と飲み物を持ってこさせよう」
俺はなるべく普通の声で言った。
「まずは、本名を聞こう」
「私の名前はアンソニー・メイソンだ。治療してくれて、ありがとう」
アンソニーは答えた。
「拓馬隊長が殺しに来る前にすべて話せ」
淳が不機嫌な声で言った。すでに自分が答えを知っている質問から会話を始めた。
「君は、レッドストームの工作員で俺達の仲間を殺した。間違いないね?」
アンソニーは答えなかった。
「さっさと答えろ!」
淳が脅すように言った。俺は左手を上げて淳を抑えた。
「ああ、そうだ」
アンソニーは答えた。
「拓馬と進の生け取りを命じられたそうだな」
「栗原大佐の命令だった」
「そうか、目的は?」
「分からない」
「悪魔の森、村の廃鉱山を調べていた理由は?」
「あんたらに、この世界に閉じ込められたのだと」
「俺達はそんなことはしない。やったのは22世紀の時間犯罪者だ」
「おい、和也、こんなクズに教える必要はないだろ」
「そうかもしれない。この世界にいるレッドストームはリーニア王国の弱体化を狙っているね?」
「なぜ、それを?」
「佐藤進、君が殺そうとした仲間が教えてくれた」
俺は全て知っているように振舞った。
「君が殺そうとした進は生きている。君の任務は失敗した」
「拓馬が殺しに来る前に情報を全ては吐け!」
淳が声を荒げて机を叩いた。アンソニーがビクッと身体を震わせた。
少したってからアンソニーは答えた。
「マリーラ村の戦いは廃鉱山を調べるための陽動だった。私は拓馬と進の生け取り……可能なら廃鉱山、ゲートの情報の入手を命じられた」
「レッドストームと盗賊団ブラッククロスの関係は?」
「我々は自分の手を汚さずに彼らを操って利用したんだ」
「それで?」
「目的は異世界の情報収集している間、レッドストームの存在を秘匿するため。そして戦力の確保するためだった。傭兵みたいなもんだ。元の世界の武器を提供して武装させている」
続いて、仲間の場所、保有兵器を尋ねた。
「元の世界、元の時代へ帰れるのなら」
と、アンソニーは言った。
すでに機密じゃないと信じ込ませる。アンソニーは無意識かつ無警戒で情報を話した。
ムー世界にいるレッドストームの部隊の規模、保有兵器、武器、司令官、工作員の活動拠点の情報だ。
「他に役に立つ情報を言え」
淳は言った。
「リーニア中東部にあるソレッチの森に倉庫がある」
「他には?」
「元の世界への帰還と合流もある」
アンソニーは付け加えた。
「それだけか?」
淳が言った。
「それしか知らない。本当だ」
アンソニーは答えた。
「核兵器は保有は?」
淳が訊いた。
「そんな恐ろしい物は持ちたくない」
アンソニーは答えた。
「タイムマシンだって恐ろしい物だろ」
淳は言った。
「この世界で使用できるタイムマシンの保有台数は?」
俺は訊いた。
「一台は、この世界で使えるように改造しているはずだ」
「その一台はこの世界の過去へ行った」
「ということは、秘密基地を襲撃したんだな」
「その通りだ。だが、何人かは逃げた」
「転移魔法を使える魔法使いがいる」
「理想の世界など存在しない。妄想するだけ無駄なんだよ」
淳が冷たく言い放った。
尋問が終わった後、廊下を歩きながら、俺は言った。
「ハンス・シャルフになった気分だ」
「尋問のやり方、教えて」
リンが言った。
「時間がある時に」
俺は答えた。階段を降りてる時、リンが言った。
「彼はどうなるの?」
「我々に引き渡してくれ。牢屋に入れる」
俺が言うとリンは踊り場で立ち止まった。
「元の世界に戻れても、自由の身だとは言ってない」
淳が振り向いて、答えた。
アルティラス暦486年12月22日 リーニア王国 コッザウ
僕は今、過去にいる。
プロポーズ直前、強盗にサラを撃たれてしまう過去を変えるためだ。
法律で禁止されている過去に行ける機械の開発に全てを捧げた。だが、解決のできない高い壁に阻まれた。そこへレッドストームと名乗る連中が協力を申し出た。
僕は自分の持っている技術を提供。過去に行くという共通の目的のために、親友のアレクセイ・マリシュキンを拉致させて、秘密裏にタイムマシンを完成させた。
僕は過去に行くという目的のためだけに親友を裏切ってしまった。だが、それ以上に恋人の死を変えたかった。
彼らの敵に襲撃を受けたものの、何とか完成させたタイムマシンに乗り込んで過去に向かった。
僕は当時着ていた服、防寒着を着込んで準備を整えた。妙な装備、武器を身につけたレッドストームの四人と別れた僕は公園へ急いで向かった。
これから過去を変えるのだ!
夜の公園に到着した。行き交う人々の中、見渡すとサラの姿が。目が合った。サラが自分の方へ歩いてくる。
「早いのね、珍しい」
「会いたかった」
僕は我を忘れてサラを抱きしめた。
「驚くことばかりだわ」
「大事な話がある」
「公園を歩く?」
「ダメだ」
僕は言って、過去に強盗が現れた林の方向に視線を向けた。
「通りへ出よう」
言って、サラの手を引いた。そのまま走り出す。
「アレクサンダー、何なの?」
「急いで」
通りに出た。舗装された石畳みの道、その通り歩くと僕の腕に抱きつきながら歩くサラが尋ねた。
「震えているわ、具合でも悪いの?」
「いや、僕は大丈夫だ。幸せだ。君とまた歩けて」
「三日前にも会ったのに?」
「いや、今日は特別なんだ」
「何か変よ、何があったの?」
「いや、何も。聞いてくれ、僕はもう行く。君は家に帰るんだ。後で僕が訪ねてくるから。『約束を忘れた』とか妙なことを言ってもーー気にするな。愛している。信じてくれ」
「分かった」
その場を去ろうとした時、ふっと思った。何が起きているのか正直に話そう。そう思って、振り向くとサラは消えていた。
背中に冷たいものが走った。公園の方が騒がしい……。何人かが公園へ向かう。人を捕まえて話を聞くと公園で女性が殺害されたらしいと。
嫌な予感がして公園に戻ると雪が積もった道で倒れたサラを看取った過去の僕の姿が。
どうしてだ! 僕は、さっき過去を変えたんだぞ!
「どうやら過去は変えられなかったようだな、アレクサンダー」
僕は振り向いた。出かかった言葉を飲み込んだ。レッドストームの三人が僕に銃口を突きつけていた。
「この世界で使えるタイムマシンを完成させた君は用済みだ」
レッドストームの一人が言った時、彼らの敵が現れた。
舗装された石畳みの道を西に向かって進んだ。石造りの建物にはランタンが灯されている。騒ぎになっている公園が見えてきた。
公園の出入り口の手前に銃を一人の男に突きつけた三人がいた。間違いないレッドストーム戦闘員とアレクサンダーだ。
俺がMP7A2を構えた時、走る足音ともに誰かが叫んだ。
「時間警察だ!」
「ッ!?」
目をやると戦闘員がシオリを捕まえていた。片手で拳銃を俺達に向ける。他の三人が一斉に振り向いて乱射した。
散開しつつ、ホロサイトのレティクルをシオリを捕まえた戦闘員に合わせた。トリガーを引く。放たれた4.6×30mm弾は拳銃を構えている肩に当たった。
うめき声上げつつ、拳銃の銃口が下がった瞬間、シオリが振りほどきながら、蹴りを入れた。
俺は右にある道の脇に停められた馬車の陰に隠れた。
倒れた戦闘員がナイフを抜いた。俺はその戦闘員に4.6×30mm弾三発を送り込んだ。その時、シオリの杖から魔法の矢が放たれた。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
馬車を盾にMP7A2と顔を出すと戦闘員一人に孔が開いていた。血を噴き出して倒れた。
積もった雪に血が染まる。
残った二人が右にカーブした道を後退しながら、俺達に制圧射撃を加えた。
馬車に隠れると後ろから隊員が肩を叩いた。俺はタイミング見計らって馬車を盾にMP7A2を構えた。ホロサイトのレティクルを戦闘員に合わせた。
トリガーを引く。
その戦闘員が何かを投げた。着地と同時にシューという音とともに白い煙を噴き出した。
煙幕手榴弾だ。
ヤバい!
「逃げられるぞ!」
俺はアレクサンダーの所へ走りながら、言った。
「彰人と英一、美香は奴らを追いかけろ」
一斉に了解と返答。
戦闘員の死体から銃を奪う。AK-74だ。地面に伏せたアレクサンダーに言った。
「アレクサンダーだな。お前を拘束する」
「君たちは?」
「過去を改変する者を取り締まる者だ。手を出せ、拘束する」
言って、アレクサンダーの両手をナイロン製のハンドカフで拘束した。
俺は無線機の送信スイッチを押した。
「ギフ1より本部へ、アレクサンダーを確保した。オーバー」
「了解した。アウト」
離れた場所から何発かの銃声が響いた。
「一名制圧」
彰人が無線で報告した。
人目のつかない路地へシオリ、和彦と拘束したアレクサンダーを連れていく。
五分後、無線機から彰人の声が言った。
「ギフ2からギフ1へ、一人見失った。オーバー」
「ギフ1、了解した。集合しろ。現代に戻る。アウト」
レッドストームの戦闘員三人を殺害。一人は逃がしてしまった。アレクサンダーの身柄を確保した俺達は森の中の空地へ向かった。タイムマシンを出現させる。
「なぜだ……?」
それまで黙っていたアレクサンダーがボソッと呟いた。
「アレクサンダー、過去は変えられないんだよ。前へ、前へ、未来へしか進めないんだよ。それはなぜかって? 後ろ向きにはすすめないからだよ」
アレクサンダーは黙ったまま、ドイツ製武装タイムマシンに乗り込んだ。後部ハッチが閉まる。
シートベルトを装着した。タイムマシンが動き出した。振動する。数秒後、揺れが激しくなると周囲の空間がグニャリと歪んで現代への帰路についた。
タイムマシンが着陸した。揺れが収まると後部ハッチが開くと暖かい風が車内になだれこんだ。シートベルトを外すとめまいと吐き気が同時に襲った。アレクサンダーのシートベルトを外して、拘束したまま外に出るとアランとリンが出迎えた。リンの横には警官二人が待機している。
リンが言った。
「無事、戻ってこれたようね」
「ああ」
それだけ言って、拘束したアレクサンダーをリンに引き渡した。リンと二人と警官がアレクサンダーを連れて行った。
「無事に戻ってこられてよかった」
アランがシオリに言った。
「過去への旅はどうだった?」
「本当に過去に行って、戻ってきたなんて信じられないよ」
シオリは答えた。
防寒着を脱いだ俺は作戦室で局長とリン警部に報告した。
念のため、修復部隊がムー世界に派遣されたが、アレクサンダーが改変した歴史はすでに自己修復されていた。
「このパソコンによると現在に戻っているようです」
和彦が局長に報告した。
「そうか、分かった」
テーブルの上、立てかけたタブレットに映る局長が言った。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわね」
リンが局長に言った。
「ああ、俺の名前は後藤俊一だ」
「彼らは野放しでタイムマシンも回収できていない。彼らがタイムマシンを使ったら連絡します」
和彦が局長に言った。
「そうしてくれ」
和彦はノートパソコンを畳んで作戦室から出ていった。
「報告書は後で送ります」
俺は言った。
「進の話も聞きたい。一度、こっちの世界に戻ってきてくれ」
「分かりました。進に伝えます」
「以上だ」
後藤局長が言うとタブレットの画面が消えた。報告を終えて、基地から出るとアランと話していたシオリが近づいてきた。
「拓馬さんの弾は私に当たっていたかも」
「俺が誤射するとでも?」
言って、自分の部隊の隊員達がいるドイツ製武装タイムマシンへ向かった。歩きながら、シオリに言った。
「報告書を書く。局長が俺と進の話を聞きたいと。一度、元の世界へ戻る」
「分かりました」
隊員達が何か会話している
「ーー基本的に歴史は変えられないのにな」
「それじゃ、俺のひいじいちゃんは?」
俺が言うと隊員達が凍りついたかのように固まり、静まり返った。
「この話はやめよう」
和彦が慌てて言った。
「まだ、話していないことがあるのですか?」
シオリが聞いた。
「お前らが知る必要はない」
言いながら、タブレットを和彦に渡した。基地の出入口に顔を向けると怪しい男が出てきた。片方の足を引きずって歩いている。
「協力者にあんな人いましたけ?」
「下がっていろ」
シオリの声を無視して言った。ホルスターからUSPタクティカルを抜いて構えた。警告する。
「おい! そこのお前、止まれ!」
男は立ち止まった。隠し持っている銃を引き抜こうとーー
俺はトリガーを引いた。直後、基地で爆発が発生した。周囲でも爆発が連続する。
リーニア王国 ソレッチの森 現在
薄暗い倉庫の中、槇枝中佐の目の前にM113装甲兵員輸送車の外観に似た武装タイムマシンが着陸した。
槇枝は思った。
栗原大佐は死んだ。元の世界への帰還、合流までの間、俺が残党の指揮を執る。持ち出せた技術、情報でT-72主力戦車をタイムマシン型へ改造を命じてある。
後部ハッチが開き、戦闘員が一人降りてきた。槇枝中佐はその戦闘員に声をかけた。
「槇枝中佐だ。おかえり」
傍らにいる整備士が武装タイムマシンへ歩いていき、整備に取り掛かった。
続けて尋ねた。
「他の者は?」
「自分だけです、中佐。タクマの部隊から何とか」
「報告はそれだけか?」
「はい」
「次の任務まで休んでいろ」
槇枝は言って、T-72戦車へ歩いていった。整備中のT-72主力戦車とこれから搭載するタキオンエンジン、その横には第二次世界大戦の時代の戦車が二両。ここは明らかに我々が造った倉庫だ。本当にここはファンタジー世界なのだろうか?
「槇枝中佐」
無線を聴いていた工作員が呼んだ。報告する。
「基地で大爆発がありました」
「よし、いいぞ。奴らを分散させるぞ」
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