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リーニア継承戦争1

 アルティラス暦377年8月28日 リーニア王国 王都フレンディア ()()


 大聖堂の鐘は王都の空へ重低音を放っていた。

 石造りの巨大な身廊には、朝の陽光がステンドグラスを通して差し込み、高い天井の下では聖歌隊の声がゆるやかに響き、香炉から立ち昇る白い煙がゆっくりと空間を漂っていた。

 左右には王国の諸侯が整然と並んでいた。辺境伯、騎士、古くから王家に仕える大貴族。だが、その顔には祝祭の浮き立つような表情はほとんど見えない。


 この王冠が、血の上に置かれるものであることを誰もが知っていたからだ。


 ローデン辺境伯アンリ・ウィレは列の後方に立ち、祭壇の前に進み出る男の背中を見つめた。彼はゆっくりと歩み、祭壇の前で止まった。


 新しい王ーーいや、まだ王ではない。今日、この場所で王となる男、フリードリヒ・ベルゲ・リーニアだ。


 その姿は堂々としていたが、肩には戦争の重さが残っているようにも見えた。王国を二つに引き裂いた戦争が終結したのは、ほんの数か月前のことだった。

 王位継承権第二位であった兄のフリードリヒ・カール・リーニアは戦死した。

 この大聖堂にも、彼の名を讃える声が満ちているはずだった。


 祭壇の前で老いた大司教が一歩前に進み出た。彼は両手を上げた。聖歌が止み、広大な大聖堂が静まり返った。


「ここに立つ、この者を王国の王として認めるか?」


 数秒の沈黙の後、貴族たちの列から声が上がった。


「認める」


 一人、また一人と声が続く。やがてそれは大聖堂全体に広がった。しかし、その声の中には、熱狂よりも覚悟に近い響きが混じっていた。


 大司教は頷き、再び口を開く。


「汝は誓うか? 神と民の前に。王国を守り、正義を行い、弱き者を護ることを」


 王となる男はゆっくりと片膝をついた。その動きには迷いはなく、静かだった。


「誓おう」


 その声は大きくなかったが、石壁に反響して確かに響いた。

 大司教は銀の器を取り、聖なる油を指に取ると、王の額へと触れた。


「神の祝福が汝とともにあるように」


 侍従が前に進み出る。深紅の布の上に置かれていた黄金の王冠が大司教の手に渡された。

 それは古い王冠だった。

 幾人もの王がそれを戴き、王国の歴史を見守ってきた王冠。


 だが今日、その王冠は兄ではなく、弟の頭に置かれる。


 大司教は王冠を高く掲げた。光が宝石に反射し、大聖堂の中できらめいた。


「見よ、これが王冠である」


 誰もが息を止めた。やがて王冠は、ゆっくりと降ろされていく。黄金の輪が王の頭に触れた。

 その瞬間、外の鐘が一斉に鳴り響いた。


 扉の向こうから民衆の歓声が押し寄せてきた。


「王万歳!」


 誰かが叫ぶ。


 やがて騎士たちが剣の柄を打ち鳴らし、諸侯も声を上げた。


「王万歳! 王万歳!」


 歓声は波のように広がり、石の壁に何度も反響した。新しい王はゆっくりと立ち上がった。その頭には確かに王冠がある。


 その瞬間、アンリ・ウィレは思った。あの戦いがなければ、この王冠は別の頭に置かれていたはずだったと。



 リーニア王国 マリーラ村 ()()


 レッドストームの基地は爆発で消滅した。二週間後、時間警察はマリーラ村とマリーニ街にある進の店『キールの雑貨屋』の二箇所に活動場所を移した。数人が爆発に巻き込まれて死亡。ゲートも爆発に巻き込まれて破壊された。

 当面の間、マリーラ村の北東にある廃鉱山のゲートを利用する事に。


 マリーラ村の役場、二階の会議室のテーブルの上に立てかけられたタブレットに後藤局長の姿が映った。一瞬映像が乱れる。

 画面の向こうにいる後藤局長が言った。


「君と進の報告書は読んだ。ムー世界の概要も」

「どうでした?」

「素晴らしいよ、俺もそっちの世界に行きたいね」

「進が案内しますよ、俺よりムー世界に滞在しているから適任でしょう」

「まぁ、多分、冗談抜きに一度はそっちの世界に訪問しなくてはならないだろう。博士に変わってくれ」


 俺が横に移動すると博士がタブレットの前に立った。


「仲間のことだが……」


 博士は肩をすくめた。


「どうしようもありません。爆発で皆、即死しました。離れた場所にいた私と何人かの仲間は治癒魔法で助けられました」


 ノックの音がした。

 振り向くとドアが開いて、進、和也、淳、三人の隊長が会議室に入ってきた。

 最後に入ってきた進がドアを閉めた。


 タジミ部隊、クレ部隊、ハリマ部隊、そして俺のギフ部隊の隊員達は待機している。


「博士、傷の具合は?」


 和也が訊いた。


「かすり傷すら消えた。魔法なんて信じていなかった。あるのは科学だけだと思っていた……。だが、他の仲間は……」

「すまない」

「いいんだ」


 和也が言うと博士は答えた。


「ゲートを拡張できませんか?」


 進は博士に尋ねた。


「今は、武装タイムマシン一両で対応してもらうしかない」

「それは?」


 淳が机の上に置かれた魔力小銃のレーナを示した。


「チェルガン帝国の魔力小銃だ。名前はレーナだ」


 俺は答えてから、進に顔を向けて尋ねた。


「キールの雑貨屋は問題ないよな?」

「問題ない。マノ、マモル、ハンスが表向き従業員として手伝ってくれている。文句があるとしたら地下室を秘密基地にされたことぐらい」

「壁に飾った銃はいい眺めだろ」


 進は答えなかった。


()()は飾らないのか?」


 和也が訊いた。


「さっき受け取ったばかりだからな」


 アンソニーから得た情報を基に秘密裏に捜査を開始した。各地にいる工作員を掃討するため、リーニア王国の警察が動き出した。それに合わせて我々時間警察も動いた。

 今日までに12名の工作員を逮捕した。タイムマシンは動いていない。動いたらすぐに出動できる体制を整えている。


 アンソニーが証言したリーニア中東部にあるソレッチの森にある倉庫の場所を調べているが、特定には至っていない。警戒されているのか、目立った動きはない。


「タジミ、クレ、ハリマ部隊が対応する。ギフ部隊は奴らが過去に行った時に後を追ってくれ」


 和也は言った。


「武装タイムマシンは一両しかないし、こっちのデータベースは使えない。君たちが頼りだ」


 淳が付け加えるように言った。


「もちろんだ」


 俺は和也と淳に言った。


「奴らのタイムマシンを完全に破壊するかーー」

「そうなったら、奴らは、またタイムマシンを造る」


 俺は進を遮って言った。


「いや、無理だろう。今のムー世界でタイムマシン建造に必要な部品を再現できるとは思えない」


 和也は言った。


「俺もそう思う。元の世界を行き来しない限りはな」


 淳が和也に同意した。



 役場から出た俺と進は中央広場に向かった。シオリたちと合流するためだ。歩きながら、周囲を見回した。村は確実に復興している。

 中央広場にいるシオリとマノに歩み寄った。世間話でもしているのだろう。シオリが俺に気付いた。近づいてくる。マノもシオリに続く。


「どうでしたか?」


 シオリが尋ねた。


「最悪な状況だ」

「私たちは彼らの工作員を排除し続ければいいの?」


 マノが訊いた。


「今のところはな」


 進は答えた。


「ゲートの拡張はできないから、俺達だけで対応しなければならない。ところで、進、四号戦車K型とパンテル(ツヴァイ)はどうした?」

「修復部隊が片付けた」

「あの無能連中は俺を苦しめることしか考える事しか頭にないのか」

「あの人たちと何があったのですか?」

「お前らが知る必要はない」

「その人たちを露骨に避けているわよね?」


 マノが訊いた。


「奴らのタイムマシンが爆発に巻き込まれたからって、俺の武装タイムマシンを使わせろとさ、上の連中はクソだ」

()()を束縛させる気か?」


 俺は進を睨んだ。その時、トランシーバーが鳴った。


「ーーギフ(ワン)、ギフ(ワン)応答せよ」

「嫌な予感がする」


 言って、ラジオポーチからトランシーバーを抜いて、応答した。


「こちらギフ(ワン)、タイムマシンが動いたか?」

「その通りだ。今すぐに役場に来てくれ」


 和彦の声が言った。


「了解、すぐに向かう」


 トランシーバーを収めながら、俺は言った。


「タイムマシンが動いた。行くぞ」


 役場に入ると和彦が報告した。


「隊長! アルティラス暦377年8月28日だ」

「その日はリーニア継承戦争が終結して、フリードリヒ・ベルゲ・リーニアが正式に即位した日よ」


 和彦の横にいるリンが付け加えた。


「隊員達は?」

「すでに会議室に集まっている」


 階段へ向かった。シオリとマノ、進、和彦、リンも後に続く。二階の会議室に入ると隊員達の他にベルがいた。


「なぜ、ベルが?」

「この時代の歴史を知っているから、私が選抜した」


 リンが答えた。


「歴史家は必要でしょ?」


 ベルが言った。


「ああ、そうだな。で、奴らの目的は何か分かるか?」

「リーニア王国が弱体化した時を狙って、クーデターを起こすつもりね」

「我々の戦力を分散させるのも目的の一つだろう」


 彰人は言った。


「五分で衣装を準備できる?」


 美香は訊いた。


「ああ、それなら」


 と和彦が答えた。


 部隊は武装タイムマシンが隠されている森へ向かった。武装タイムマシンはマリーラ村と廃鉱山、その間にある森の中に農場に偽装した木造の納屋に隠してある。

 その納屋に入って、整備中の武装タイムマシンの横、保管庫に入りながら、和彦が言った。


「衣装と装備品の保管庫だ。二週間で可能な限り集めた。どんな時代にも対応できるはず」

「いつの間に集めた?」


俺は訊いた。


「君たちが仕事に集中している間に。リン、村人たちが協力してくれた」


 和彦は答えた。


「準備がいいのね」


 ベルが和彦に言った。


「使わなくても、必要な時になくて困るよりはいい。この任務がじきに終わるとは思えないしな」


 和彦は続けた。


「装備品もすぐに持ち出せるようにした。必要なものがあれば申請してくれ」

「対戦車レールガンは?」


 俺はダメもとで尋ねた。


「超重戦車アポカリプスでも投入されない限り、本部の許可は下りないかと」

黙示録(アポカリプス)?」


 ベルが頭を傾げた。


「長砲身152ミリ連装砲の奴か」


 英一が言った。


「もし投入するとして()()()()戦うつもりだ? ランクⅩの魔法使いがレオパルト1だとしても()()()()()()


 彰人が言った時、リンがいないことに気づいた。


「リンはどこに行った?」


 俺が言った直後、保管庫にリンが入ってきた。


「当時のお金と冒険者カードよ」


 リンがそう言って、俺に硬貨の入った袋と全員分の偽造された冒険者カードを渡した。

 俺達は冒険者の衣装を着て、装備を身に着けた。異世界の過去へ行く準備を整える。部隊はベルとシオリを加えた。


「トリープフリューゲルのパイロットになった気分だ」


 俺は言って、技術者、整備士が離れていった武装タイムマシンに歩み寄った。後部ハッチから乗り込む。シオリとベルのシートベルトの装着を手伝った後で自分のシートベルトを装着した。

 操縦席にいる彰人が言った。


「目的地を設定した」


 タイムマシンが動き出した。振動する。数秒後、揺れが激しくなると周囲の空間がグニャリと歪んでムー世界の過去へ向かった。

読んでいただきありがとうございます。

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