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最弱職の魔法戦士  作者: 悠久ヒロ
第一章
22/25

あの頃の夢

今回は少し短めです。

「――くん!悠宇くん!」

 誰かに名前を呼ばれ、瞼を開くとそこには、昔よく見ていた学校の庭が広がっていた。


 そして上を見ると、そこには優香の姿があった。


「どうしたの? 悠宇くんが本を開きっぱなしで無防備に寝てるなんて珍しいね」

 にっこりと無邪気な笑顔で優香はいつもと変わらず笑っていた。


 下の方を見ると、俺はベンチに座っていて春の暖かい風が本のページをぺらぺらとめくっていた。すると、自然にぽたぽたと涙が零れ落ちた。


 ……ああ。これは夢だ。


 俺はそう確信した。


「……いや、何でもないよ。少し寝不足だっただけ」


 俺はあくびをした振りをして涙を拭き取り、昔の頃と同じように返したつもりだったが、俺の顔を見た瞬間優香は口を開けていた。


「……今日の悠宇くん、何だかいつもより色気があるね……!!なんだか、ドキドキしちゃうなっ……」

 優香はにひひ。と照れ笑いを浮かべていた。


「そう? いつも通りだよ」


「えーっ! そうかなぁ……?」

 優香が首を傾げながら呟いているのを見た俺はクスクスと笑いながら頷いた。


「ふふっ……!! 今日の悠宇くんいつもより楽しそう!」


「そんなことないよ」


 優香と他愛もない話をしながら笑い合える日常……この頃に戻りたい。俺はもう、ずっとこのままでいい。


 そう思っていると、後ろから足音が聞こえた。


「よお。葛西、早乙女」

 二度と聞きたくないと思っていた低くて耳に残る声がした。


 俺はすぐに立ち上がり、優香の前に出た。


「おいおい。そんなに警戒すんなって……」

 声の主である……芝崎は笑いながら手をひらひらとさせた後、ある本を俺たちに見せた。


「これ、返して欲しいだろ? なあ、早乙女」

 いつの間にか芝崎の手には、俺が母親から貰った本が握られていた。


「要らない。今の俺には必要ない。優香、行こう」

 俺はそう吐き捨てて、この場を立ち去ろうと優香と手を引っ張った。だけれど、優香は全く動こうとしなかった。


 優香は無言で俯いていた。


「……優香……?」


 俺はもう一度優香の手を引っ張るが、全く動く気配がなかった。


 ……おかしい。男の俺が強く引っ張ってもビクともしない。


「優――」


「――ねえ、悠宇くん」

 優香は俺の声を遮るようにして、顔を上げて涙を流した。


「どうしてもっと早く助けに来てくれなかったの?」

 優香の頭から血が流れ出していく。


「悠宇くんがすぐに助けに来てくれなかったから私、死んじゃった」

 次第に優香は血で真っ赤に染まっていった。


「……っ……ごめん……本当にごめん……」

 俺は優香を胸に抱き寄せた。すると、俺の目から自然と涙が溢れ出した。


 優香から次第に力が抜けていったことに気付いた俺は優香を地面に寝かせ、制服を上から被せた。


 俺は涙を吹いた後立ち上がった。


「……なあ、葛西。俺が憎いだろ? その包丁で俺を殺してみろよ」

 芝崎は俺の右手を指さした。


 俺は自分自身の右手をみると、そこにはいつの間にか包丁が握られていた。


 俺は何も言わず駆け出し、芝崎に向けて包丁を刺そうとした。


 だけれど、あともう少しの所で包丁を握りしめた俺の手は止まってしまった。


「……っ?!……どうして……」


 殺したい。殺したいほど憎んでいるのに、何故手がこれ以上前に進まないんだ。


「どうした? ほら。殺してみろよ」

 芝崎は両手を広げ、殺れるものならやってみろ。と言わんばかりの顔をして笑っていた。


「……っくそ!!!」

 包丁を持つ俺の手は震えていた。


「……どうしてそいつを殺してくれないの?」

 ふと、後ろから優香の声がした。


 振り返ると、優香はこっちを見ながら涙を流しながら喘ぐように言った。


「……ねえ。悠宇くん……どうして……?」

 優香の悲痛な顔を見た俺は、手に持っていた包丁を落としてしまった。


「お前に俺は殺せねぇよ」

 耳元でそう投げかけられ顔をあげると、いつの間にか真っ白な空間の中に居て、周りには誰も居なくなっていた。


「……ここは……」

 辺りを見渡していると、ふと後ろから声がした。


「ねえ。なんで殺さないの?」

 その声は冷たく俺の耳に響いた。


 俺は、後ろを振り返った。そこには俺が1番よく知っている俺自身が居た。正確には昔の俺……葛西悠宇の声だった。


「……っ……俺は……」

 俺は俯いて言葉を失っていると、右の方から白くて長い髪が垂れ落ちてきた。


 いつの間にか、ユウ・アルティスの身体に戻っていたようだった。


「君は、今の身体の記憶に影響されすぎてるよね」

 コツコツと足音を鳴らしながら昔の俺は、俺の元に近付いてきた。


「分かるよ? みんないい人だもんねえ……人を愛するのには充分かもしれないね」

 昔の俺はそう言いながら笑っていたが、目は笑ってはいなかった。


「でも、それとこれとは関係ないよね……ねえ。あいつらは悪なんだよ? 君が中途半端に逃がしているせいで、他の人達が傷付いているんだよ?」

 真面目な表情になり昔の俺は俺の近くまで来ると足を止め、俺の肩の上に手を置いた。


「――これ以上優香を裏切るつもりなの?」


 そう囁かれた俺は顔をあげると、そこには怯えながら地面に手を付き後ずさる芝崎の姿があった。


「躊躇わず殺せ。……もう、何も失いたくないだろう?」


 耳元でそう囁かれた俺は再び右手に握りしめられていた包丁を芝崎に向かって振り下ろした。


 ズシャッという音が響いた後血飛沫が飛んできて、俺の白い髪が赤く染っていった。包丁を引き抜くと頬にピシャッと血が飛んできた。


 俺は、血で汚れた包丁と両手を交互に見ながら気付いた。


「なんだ。分かってるじゃん」

再び昔の俺の声が耳元で聞こえたと思ったら、俺はいつの間にか飛び起きていた。


 視界には、見慣れた自分の寮の部屋が映っていた。窓の方を見るとまだ日は出ておらず、薄暗い状態だった。


「……なんで俺、今まで躊躇っていたんだろうな」


 俺は汗を大量にかきながら、肩で呼吸をしていた。そして自分の手を見て拳を握りしめた後、顔を上げた。


「……優香、ごめん。……もう俺迷わないから」


 俺が窓の外の空を見ながらそう呟くと日が出始め、雲がかかった空が次第に晴れていった。


 今の俺は、とても清々しい気分だった。

 これで第一章は終わりです。ここまでお付き合い頂き有難う御座いました。


 次回は番外編です。そして、その次からは第二章です。


 もしかしたら、番外編が短めなので2話同時投稿になるかもしれません。


 今後ともよろしくお願い致します。

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