臆病者
毎日更新する。って書いていたのに、一日開きましたすみません。
もう少し計画的に書いていこうと思います。
ご迷惑をおかけしました。
……誰かがこっちに向かってきている……?
俺は2人以外の気配を探る為に神経を研ぎ澄ませた。
……この気配は……まさか――
「そこにいるのは誰だい?」
暗闇の中から声と共にコツコツと足音が近付いてきた。
「……はっ……!! まずっ!!」
ハルは逃げようと俺たちの手を掴んで駆け出そうとするが、目の前に道を塞ぐように土壁が現れた。
「逃がさないぞ! こんな時間にこんな場所で何をやっているのかな〜?」
声の主であるノアは、光魔法であたりを照らしてそう言いながらニコニコとしていた。
だが、目が笑っていなかった……
「ノ、ノア先生……」
ハルは顔を引きつらせながら手を離した後振り返り、ノアの方を見た。
「こら! 消灯時間は過ぎているんだよ?」
「す、すみません……」
俺達はノアに向き直り、頭を下げて謝罪した。
「はい! まあ、僕も夜中に古い校舎に行きたい気持ちは分かるけどね……」
ノアはそう呟いた後、恥ずかしそうに頬をポリポリとかいていた。
「まあでも! 反省文をちゃんと書いてくるんだよ?」
「はい……」
俺達は、自分たちが悪いことをちゃんと理解していたのでノアの言葉に頷いた。
ふと2人の方をみると、シルがじっ……とノアの顔を見つめていた。
ノアの顔に何かついているのか? と思いノアの方に目をやるが、それらしき物は顔についていなかった。
「そういえば、先生は何故ここに?」
ハルは顔を上げノアに尋ねた。
「ああ……もうすぐでここの校舎取り壊すだろう? 昔、ここの校舎で思い出があってね。壊される前に見て回っておこうと思ったんだ」
ノアの言葉に納得したのかハルは「なるほど……」と呟きながら頷くが、すぐにハッとして異変が起こったことを思い出した。
「あ、あの……!! ここから下に降りる階段が無くなったんですよ!!」
ノアはハルの言葉に首を傾げた。
「……え? 僕が来る時は普通にあったけど……」
「「えっ」」
2人は驚きながらも声が揃った。
ラト教団の奴らの何かしらの魔術はアーミラを倒した衝撃で無くなって、この校舎は元に戻ったのだろうか。
俺が思考を巡らせてるのと同時にノアも何かを考えていた。
「ノア先生〜?」
シルに名前を呼ばれたノアは首を横に振りながら答えた。
「いや。何でもないよ。……じゃあ、もう帰ろうか!」
ノアは指をパチンと鳴らし、土壁を解除した。
すると、大きな音を立てて土壁は崩れて行った。
そういや、解除した魔術って時間が経つと自動的に消えるから便利だよなあ……
俺は崩れて行った土壁を見つめながら魔術の便利さを改めて感じ取っていた。
「ユウー! 行くぞー」
「はーい!」
俺はハルに呼ばれ3人のもとへ走り出した。
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暫く歩いて階段の元へ行くとノアの言う通り、階段は何事も無かったかのように元通りになっていた。
「本当だ〜……階段が元通りになってるよ〜」
シルはそう呟きながら一瞬ノアの方に目をやった。
「そういえば、ここの校舎にはとある都市伝説があるんだよね……」
「都市伝説?」
俺はノアの言葉に首を傾けた。
「うん。半月の0時に中に居た者を気絶させて目を覚ました時に、校舎に居る独りぼっちで死んだ女の子の霊が現れて、ずっと友達でいようね。って言われて、迷い込んだ者は永遠に帰れなくなるんだよ……」
ノアは光魔法の灯りを顔の下から照らしながら「ふふふ」と言いたげな顔をして笑っていた。
ふと窓の方を見ると、確かに今日は半月で0時を過ぎているようだった。
「ち、因みに半月っていうのは何故……?」
ハルは恐る恐るノアに尋ねた。
冷や汗をかきながら顔を引きつらせている……こんな企画を楽しそうにしていたのに、実は怖いものが苦手なのか?
「ああ……その女の子が死んだ日の夜が半月だったからだよ……」
「ま、マジですか〜……」
「? ハル、怖いもの苦手なの〜? 今日、この校舎に行こう。って行ったのはハルじゃなかったっけ?」
シルはハルの顔を見ながらキョトンとしながらハルに尋ねた。
「あー……普通なら夜に旧校舎に行っても何も起きないだろ……? 怖い雰囲気が好きなだけなんだ。でも、何かが起きて自分が実際に怖いことを体験するのは苦手なんだよ……本当に階段無くなったし、気絶したし。で。怖がらない方がおかしいだろ?」
なるほど……実害があるものは苦手な感じか。
「なるほどね〜! 確かに怖かった〜……」
シルは胸を撫で下ろしながら呟いた。
「とにかく、早く帰ろうか! 明日もいつも通り授業があるからね!」
ノアはそう言って階段を降り始めた。俺達は返事をした後ノアについて行き、旧校舎を出て寮の前まで来た。
「じゃあ、今後こんなことしないようにね!」
ノアは2人の肩に手を置き、念を押していた。
「それと明日、反省文提出も忘れないようにね! おやすみなさい」
「はーい……」
2人はノアに会釈をした後、扉を開けて寮の中へと入って行った。
月が曇で隠れ、春の陽気な暖かい風とは裏腹に冷たい夜風が吹き抜けた。
扉の前で立ち止まり夜風が髪の毛をなびかせる中、俺は振り返りノアの方を見た。
「あんな都市伝説なんてないよな」
「うん」
「どうして旧校舎に居たんだ?」
俺がそう聞くと、夜風が一瞬強くなった。
ノアは後ろに束ねた長い髪の毛を風で揺らし、ポケットから紙を取り出した。
「僕もラト教団について調べていたんだよ」
ノアがそう言いながら俺に渡してきた紙には、ラト教団について様々なことがまとめられていた。
「その紙は君にあげるよ」
「そうか。有難う」
俺はノアの好意に甘え、情報が書かれた紙を貰うことにした。
「異質な魔力を感じ取ったから様子を見に来て見れば、外側からは謎の魔力結界が貼られていて安易に近付くことが出来なかったんだ。君が内側から破壊してくれたおかげで入れたんだよ」
なるほどな。あの建物全体に魔力結界が……って……魔力結界?
魔力結界……補助魔術の初級のやつだよな……魔力のキューブが出来るやつ……
以前、俺も魔力結界についてもっといい活用法がないか試行錯誤を繰り返してみたがあまり上手く行かなかったんだよな……
それに、オリジナルの結界があるからいいや。と流していた。
「僕に聞いてくれれば魔力結界の活用法について良いヒントを上げたのになあ〜……」
ノアは残念そうに呟いた後、人差し指を立てて微笑んだ。
「でもまあ、それはまた明日。放課後にでも尋ねてくるといいよ」
「また明日にするのは、俺が夢中になって寝なくなるからか……?」
俺がそう呟くと、ノアは頷いた。
ああ……でも明日……
「悪い。明日の放課後は無理だ。夜でもいいか?」
「……えっ……」
ノアは俺の言葉を聞いた途端悲痛な顔をした。
「……あれかい……?ユマ王女と君は青春してるんだね??……いいなあ……僕も混ぜてよぅ……」
まるで、ノアは駄々をこねる子どものようだった。
……うーん……今のところユマにノアは必要ないしなあ……
俺が心の中でそう考えたのが聞こえたノアは急にしゃがみこんでしまった。
「……いいさ……どうせ僕は必要ないんだ……僕なんて……」
地面に人差し指でクルクルと弧を描いていた。
「そんなに卑屈になるなよ……ユマにとっては必要ない。俺が居るからな。だけれど、俺にとってはまだお前に学びたいことは沢山あるんだ」
「……本当かい?」
「ああ」
俺のその答えを聞いた途端、ノアは立ち上がりニコニコしていた。
「そっか! 良かった良かった!」
ノアの機嫌はもう治った様だった。
「あ、そうだ。よく眠れて、目覚めがよくなる魔術をかけてあげようか?」
「いや。あの二人にはかけていないだろ? 同じ状況で俺だけかけてもらっても不公平だろ。だからいい」
俺はそう言いながら首を振った。
「律儀だねえ……君は……」
ノアは俺の肩をぽんぽん。と叩きながら感慨深く呟いた。
「確かに1人だけ……って言うのも不公平だもんね」
ノアは納得したように頷き、手を振った。
「じゃあ、明日も早いからね。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
俺も手を振り返した後ドアノブに手を伸ばし、自室に戻った。
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俺は着ていた制服を脱いだ後、電気を消してベッドの上に寝転び、今日あったことを思い返していた。
あのアーミラっていうエルフの女は幹部の直属の部下って言っていたよな……
最近だと、あのマルクと呼ばれていた魔人化してしまっていた男が呼んでいた【バザール】という男も何か関係あるだろうか……?ラト教団に関わっている人間は殆ど魔人化していたしな……
俺はさっきノアから受け取った紙を取り出して内容を再確認した。
・幹部は7人いて全員強力な魔人だということ。
・全員、誰でも魔人化させることが出来るということ。
・人を攫って生贄にし、ラト復活の為に捧げているということ。(生死は問わない)
・ラト教団のトップは竜魔人で、誰も逆らうことが出来ないということ。
下の方には1/3と書かれていた。つまり、まだ他にもノアが知っている情報があるということなのだろう。
……あの髭のおっちゃんが言っていた事も含まれているな。これは割と知られている内容だったりするのか……?
それとも、あの髭のおっちゃんは実は操られていたけれど自我がある内に自分で集めた情報を流していた……とか……?
だとしたら人を操って無理矢理魔人化させてる。っていうことになるな……人を攫う上で魔人化させる必要はあるのだろうか……?
……ラト教団は不可解過ぎる
「ノアとも、ラト教団について共有しないとな……」
俺はそう呟いた後、持っていた紙をしまい瞼を閉じた。
……俺は何故、人に向けて魔術を使う時に力を抑えてしまうのだろうか……あの時だって、風の咆哮で致命傷を負わせないようにしていた。
何度か盗賊に出くわした事があったが、毎回気絶させるか肩に魔術を掠らせる程度だった。
例えそれが敵だとしても、やはり殺せない。
「――臆病者」
俺は目を少し開いた。それは自分に向けて自分で発した言葉だった。
……分かっている。
俺は再び瞼を閉じ、そのまま意識が遠のき眠りについてしまった。
そして俺はその日、昔の夢を見た。




