虚をつかれた。
放課後、俺はユマが居ることを期待しながら水分補給用の飲み物を手に、練習場に向かっていた。
だけれど、練習場に近付いてもいつものように木刀が空気を斬る音が聞こえない。
「これは居ないかな……」
案の定、練習場の扉を開けてもそこにユマの姿はなかった。
仕方ないので礼を言うのは明日にしよう。と思いながら扉を閉めた。
自室に戻ったあと、ベッドに深く腰をかけた。
「さて……今日は教団について調べることにするか」
最近、盗賊が出た。という情報などは聞いてはいないが、何か手掛かりになるようなものは無いだろうか?
「……!そうだ!」
閃いた俺はベッドから立ち上がり、カバンに黒いローブとメモ用紙とペンを突っ込んだ。
この都市の冒険者ギルドに行こうと思う。
ギルドには依頼掲示板というものがあって、そこになら王都のギルドだし、教団に繋がる情報もあると思う。
学園生がギルドに無断で出入りなんてしてたら大変なことになるからギルドに入る時は制服を脱いでローブを身につけることにする。
俺はカバンを片手に学園の外へ出た。夜7時までは外出自由だったはずだ。
今の時刻は15時10分……3時間半ほど余裕がある。
3時間半もあればギルドまでそう遠くないから脚力を使えばすぐに着く。
問題が何も起こらなければ門限までには帰れそうだな。
俺は念の為仮面をカバンの中に入れて置いた。これを使う事がなければいいのだが……。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
俺はローブを身につけ、ギルドの扉を開けた。
中は酒を飲んだり、食事を取ったりする者も居れば、依頼をしに来ている者もいる。
俺が想像した通りの冒険者ギルドだった。
だが、少し違うのが建物が予想以上に大きい上に掲示板がでかく、依頼内容がいくつもあったことかな。
「これは探すのに苦労しそうだな……」
俺はそう呟きながら、ポケットからメモ用紙とペンを取り出しラタ教団に繋がりそうな情報を探し、書き込んだ。
盗賊討伐の依頼がいくつもあり、それを全て記入するのには時間がかかった。
「冒険者だったら依頼を受けに来ればいいだけだから楽なんだろうなあ……」
俺は取り敢えずラト教団に繋がりそうな情報を全て記入し終えたあと、ギルドを出ようとした。
「みなさ〜ん!耳寄りの情報がありますよ〜!ドラゴンの情報や、盗賊の情報。あ、あとラト教団の情報もありまっせ〜!いかがですか〜?」
振り返ると、ちょび髭を生やしたおっちゃんが大声で呼びかけていた。
見た所、情報屋か何かだろうか?
「ラト教団の情報を聞きたい」
少しでも情報を手に入れたかった俺は、おっちゃんの元へと近寄って尋ねた。
「――はいよ!ここじゃ話せないから外に行きましょうか!」
俺は頷き、おっちゃんと共に外に出た。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
外に出ると、暫く歩かされた。
そして、徐々に人気のない所へと連れていかれた。
「おい、どうしてこんな人気のない所まで――」
「情報を別のやからにただで漏らす訳にはいきませんからね」
俺の質問にそう返すと、おっちゃんは更に人気のない所に行った。
物凄い嫌な予感がする。念の為仮面を付けておくか。
数分後、おっちゃんは足を止めた。
「ここならもういいでしょう!ラタ教団の情報ですね?いくつかありますから順番にお話しましょう!」
おっちゃんはそういった後、順番にラト教団の情報について話してくれた。
1つ目は、ラト教団は教団の中で7つに分けられていてその7つそれぞれに役割があるということ。
2つ目は、ラト教団は幹部が7人いてそいつらは全員魔人の中でも強い部類に入る上位魔人だということ。
3つ目は、トップが竜魔人で誰も逆らえないということ。
4つ目は、教団は、より質のいい生贄を必要としているため10代の男女を攫うことが多いということ。
疑って申し訳ないな……これは。結構しっかりと話してくれる。
「続きを聞きたければ、代金をお支払いくださいな」
「そうだな」
おっちゃんの言う通り、金を払うためにカバンから財布を取り出そうとしているとおっちゃんは首を振った。
「金じゃありませんよ。代金は…………お前の体だ」
おっちゃんはそう囁いた後、俺に向かって短剣を振りかざしてきた。
俺はその短剣をすかさず避け、おっちゃんの腹に一発入れた。
「ぐはっ……!!!な、何故……っ!!」
「やっぱり裏があったか。そんな隙だらけの攻撃じゃ俺は倒せない」
俺はそういった後、地面に膝をつけたおっちゃんにかかと落としを食らわせた。
ドゴッ…と鈍い音が響いておっちゃんは動かなくなってしまった。
「……やりすぎたか?」
まあ、死んではいないだろう。
倒れたおっちゃんを置いて、俺はその場を立ち去ろうと後ろを向くと猛烈な殺気を感じた。
その場から逃げ、先程自分がいた所を見ると地面に大穴が開いていた。
そしてその近くには、角が生え牙が目立ち、血管が浮き上がった魔人がいた。
「……魔人多すぎるだろう」
そう俺が呟くと魔人は俺を指さした。
「お前モ……生贄になレ……!!!」
魔人はそういった後、魔術を放とうと呪文を唱えはじめた。
「よく呑気に魔術なんか唱えていられるな。」
俺はそう呟いた後剣を抜き、魔人の心臓を貫いた。
「ガハッ…!!!」
心臓を貫かれた魔人は地面に音を立てて倒れた。
魔人が動かなくなったのを確認すると、俺は剣についた血を振り払った後懐に収めた。
「本物の魔人は呪文を唱えたりはしないはず。こいつも元々は人間か」
生贄……って言ってたってことは、こいつもラト教団の一味か。
教団は人間を魔人に変え、それを使役する力を持っている。ということか。
……油断出来ないやつらだ。
魔人は、徐々に体が煙となって消え始めた。
すると魔人の服だけが残り、その服のポケットに鍵と地図が見えたので俺は、それを取りだした。
「これは……」
ラタ教団と関係があるのだろうか?
地図には印がつけられている。そしてこの鍵……
ということは、ここに何かしらの秘密があるということなのかもしれない。今日の夜、寮を抜け出して行ってみるか。
俺はそう考えながら、その場を後にした。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
暗闇の中、椅子に深く座り机の上に乗っている水晶玉に映る映像を眺めている男がいた。
「――こいつは何者なんだ……?」
男は水晶玉に映し出されている仮面の男を見てそう呟いた後、微かに微笑んだ。
「…俺の使役する魔人を2体も倒すとは……まあ、雑魚ばかりだがそれなりに力があるという事だな」
男は傍らにあった深い赤色のワインを口に運んだ。
「それに、あの地図と鍵を手にした。ということは……くくく……せいぜい楽しく舞ってくれよ?」
不敵な笑みを浮かべながら男は水晶玉の映像を消した。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
俺は寮に着き、カバンを部屋の中に置いた。
まだ夕食の時間まで余裕があった。案外トラブルはあったものの、早く終わったようだ。
そうだ。今ならユマが戻ってきているかもしれない。
そう思った俺は水分補給用の飲み物を手に、再び練習場へ向かった。
練習場に近づいていくと、今度は木刀が空気を斬る音が聞こえてきた。
これは居そうだな。
扉を開けると、ユマが汗を流しながら素振りをしていた。
「あら……ユウ!もう大丈夫なの?」
ユマは素振りをやめ、タオルで汗を拭きながら微笑んだ。
「うん!この前はお見舞いの品有難う」
俺がユマに手に持っていた飲み物を渡しながら言うと、ユマは受け取ってくれた。
「有難う……でも、礼を言うのは私のほうよ。あの時ユウに助けてもらえていなかったらどうなっていたことか……本当に有難う。貴方が無事で良かったわ」
ユマは目尻に涙を溜めながらいった。
「ううん!そんなたいしたことじゃないよ!!……それよりも、家の用事の方は大丈夫なの?」
「ええ。さっき終わった所なの。部屋でジッとしていられなかったから、トレーニングに来たのよ」
「なるほど!」
ユマの家の用事……と言ったら、やはり会議とかその辺りなのだろうか?
最近、森の魔物が妙に活発化して来ているし挙句の果てに虎の魔物まで出現したしな。
あんな危険な森に安易に人をいれさせるわけにはいかない。その対応に上の人たちも大変なんだろうな。
突然、外の方からこちらへ向かってくる足音が聞こえた。
「ユマ!忘れ物ですよー!!」
ユマを呼ぶ声と共に現れたのは、金色の髪を靡かせハーフテールにしている女生徒だった。
「お姉様……!わざわざ有難う!」
ユマは木刀を地面に置き、女生徒の元へ駆け寄った。
お姉様……ってことはミハラ王国第一王女のアリエル・ミハラ・ラーニーか。言われてみればどことなく風貌が似ている気がする。
ユマの髪色は赤なのにアリエル・ミハラ・ラーニーの髪色は金なんだな……そこの差はなんなんだろう?
まあ、俺の場合両親が茶髪に対して白色だからな……人のこと言えないな。
「――そちらの方は?」
アリエルが一瞬こちらを見ながらユマに尋ねた。
「この方は、ユウ・アルティスと言って先日私を助けてくださった方よ」
ユマがそう言った途端、アリエルはこちらへ駆け寄ってきてお辞儀した。
「私は、アリエル・ミハラ・ラーニーと申します。貴方が妹を助けてくださったんですね!どうお礼を申し上げたらいいのか……っ……本当に有難う御座います…!!」
「い、いえ!こちらこそご丁寧にどうも……!」
俺もアリエルと同じようにお辞儀をした。
「お姉様!そろそろ執務の時間じゃ――」
ユマにそう言われアリエルはハッとした後、俺に向き直った。
「このお礼はいつか必ずお返しさせて下さい」
アリエルはそう告げて、もう一度俺にお辞儀した後ユマに挨拶をし練習場を後にした。
練習場内で暫しの間沈黙が流れた。
「お姉様……とても素敵な方でしょう?賢者の職で魔術も完璧で、剣術だって扱えるのよ……それに比べて私は――」
ユマは独り言のように呟いた後、手を震えさせていた。
「ユマ……」
ユマは下に向けていた視線を、俺の方に向けた。
「気付いているのよ?…貴方のその笑顔は作りものなんだ。っていうことを。」
俺はユマに虚を突かれた。
「え?」
「――だって貴方、いつも……目が笑っていないんですもの。」




