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五話 ♢ パラプロトコックス?

「それでは早速ですが作戦を共有します」

 地面を軽く整え、杖を創って図を描きだす。ゴーレム、私、ジオラス、そして試験に使われる演習場の範囲を模した円。ゴーレムを挟んで反対側に私達をそれぞれ配置する。



 どっかと座り込んで鼻を鳴らすグロリオに習ってベロニカも座った。気になるのか、ジオラスがちらりと二匹を見て、私に顔を向けた。



「まず、ゴーレムを倒す気で挑みましょう」

 不細工に口をあんぐり開けるジオラスに人差し指を立てて見せる。

「一つ、普通に逃げても逃げ場を無くします」

 ジオラスは納得したのか口を閉じた。今度は中指も立てて、2のサインを作る。



「二つ、私は最高成績を取るつもりです。あなたもそうでしょう?協力してもらいます」

 今度のには眉間にシワを寄せた。視線を落として図を見ながらボソボソとなにかを呟いている。



 グロリオが鼻を鳴らすの聞こえた。



 はぁぁああ、実に不愉快だ。これだからこういうタイプの女は、ダメだって言ったのに。本当に、耐えられない。いや、こんなことしてる場合じゃない。



 ベロニカがちらりとこちらをみて咎めるような視線を向ける、が無視する。



 杖で新たな絵を加えた。ゴーレムの前方にいる私が囮になる。そこで派手に炎を出す。爆炎火球が妥当だろう。炎が少し止んだところでジオラスの水か氷魔法。ゴーレムを温度差で割る。蹴って装甲を破壊、出来る限りの魔力を核(コア)に注ぎ込む。魔力が足りると良いのだが。できる限りのことをやれば良いだろう。



「私……」そこまで説明し終えると俯いていたジオラスが顔を上げた。「で、出来ません」

「何と、言いました?」首が内側で絞められているような嫌な感覚のまま、言葉を発する。ジオラスの眼の色を見ようとして瞳孔が小さくなるのを見つめた。



「出来ないです。わ、私の魔法はっ、ゴーレムになんて届かないん、です……」消え入るような声で呟くのを見て、なんとも言えない負の感情がひやりとした氷水のように体の内で流れ、なのになんだか他人事に感じている私がいる。



「……ない」考える前に言葉が喉を通っていた。「出来ないじゃない」

 ジオラスに背を向け距離を取る。振り返って魔力を手に集めていく。



「やってみせて」

 魔法陣が手首でクロスさせた私の手から広がる。横で私達を黙ってみていたエリカが何か叫んだけど私の耳には届かなかった。



 両腕を開くのと同時に足を踏み込んで走り出す。ジオラスも慌ててぱっと立ち上がった。



 ――なんで私はジオラスに魔法を放っているんだろう。

 心の何処かでぽつりと呟いている。無気力で、滑稽で、阿呆らしい呟き。



 ジオラスの周りが炎で囲まれていく。振り返って壁と炎に閉じ込められたのに気がついたジオラスが自分の足につまずいた。自分で自分を追い詰めてどうする……



 ――あれ、私何考えてるんだろう。

 体は抜け殻のように力が入らなくて、動いている感じがしない。でも、私は立っているのだ。魔法を唱えているのだ。



 グワン。首元に鋭い痛みが走る。視界が揺れて地面も揺らめく。

 ――ドサッ

 支えられるように前のめりに倒れこんだ。




♢♢♢




「だいじょうブ?」落ち着いた校医の声。

 慌ててガバっと起き上がる。柔らかいシーツ。寮の自室。窓の外では真っ赤に燃える夕日が見えた。

「2時間寝てたんダ。レンテンも心配してタ」



 レンテン?あぁ、あの魔法実技理論学の教師のことか。

「ご迷惑をおかけしました」

 またやってしまった。後悔だけが残る。悪い癖だ。直さなくては……。



「ジオラスはどうなりましたか?」

「赤髪の彼女ナラ、レンテンが。大きな怪我はないヨ」

「そう、ですか」



 あの娘(ジオラス)にも悪いことをした。流石に手加減するべき、もっときちんと教えてあげないといけなかったのかもしれない。さっきのはただの虐めだ。



「それじゃあボクは帰るからネ。ソノ紅茶とチョコを食べておいてネ」

「……わかりました」



 サイドテーブルに置かれた箱を指さして、薬草の入った箱を持つ校医。素直に私が頷くのを確認して部屋を出ていく。

 ぼふっと背中を倒す。何故だか疲れてしまった。



 カツンカツン。もう一度起き上がる。窓を見ると淡い茶の鳥が窓をで叩いている。ライチョウ、父様の精霊だ。



 慌てて窓を開けてライチョウを中に入れると嘴(くちばし)に咥えていた手紙を離す。

「ヘザー」父上似の淡い茶色の瞳で上目遣いに私の顔を覗き込んだ。「顔色が悪いぞ」



「大丈夫です」

「嘘だな」ふんと鼻を鳴らす。「試験か」



「っ……」見抜かれたことに息を飲むと、俯いて唇を噛んだ。「父上には」

「分かってる」悲しそうな顔で口を挟む。

「ただ私は、スコットは……」ライチョウはそう言いかけて首を振った。



「くれぐれも」部屋に背を向けて最後に言う。「無理しないように」

 そのまま飛び去っていくライチョウを見送ると窓を締めて、ベッドに腰掛け中を読んだ。




♦♦♦




前略 筆記試験はどうだったか。

私の子だ、きっと造作もないことだったろう。



実技試験の報せを聞いた。

パートナーがジオラス男爵家の娘で、試験内容はゴーレムとの戦闘だそうな。

家格や相性に左右されず、最善を尽くすのがヒースレイの矜持。

私はお前の実力を信じている。当然、最優秀の報せを待っているぞ。


ヒースレイの名にかけて。


草々




♦♦♦




 そして紙の端にスコット・ヒースレイと刻印されている。



 父上……。先程してしまったことを思い出した。駄目だ。自分より弱いものを乱暴に傷つけようとするなんてあってはならないことだ。



 手紙がカサリと手の上で音を立てる。息を吐いて天井を見上げた。



 そう、私はヒースレイの娘。ちゃんとしななければ、駄目だこんな様子では。ヒースレイの名を背負う者。これ以上の失敗は絶対に許されない。







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