三話 ♢ 空心模様コントラスト
――ジオラス, アモネ
そうだ、誰でもいいのだ。だが何故ここまでの実力差を?学園側は何を考えているんだ?
教師を睨むと彼はこちらを向いてニッコリと笑う。おちょくっているようだ。
自分の胸に手を当て――きっと教師自身を指している――足元へ指先を向け――立場か学園、ということだろうか――私の方を示し、更にその指先をぐるりと何処かへ向けた。
指先をたどるとアモネ・ジオラスが青い顔で紙を二度見している。私の視線に気がついたのか顔を上げ、目が合う。視線を戻すと、教師が自分の両手をぎゅっと握ったポーズをして、最後に親指を立てた。
もう一度〝え〟と言うべきだろうか。こめかみをおさえるしかなかった。
もしこの一連の意味が『自分が君たちのペアを組んだよ!ミス・ヒースレイならたとえミス・ジオラスと一緒でも頑張ってよね!』だとしたら私は教師に呪いをかけるだろう。
横からウィンに話しかけられる。「ヘザー様のパートナーがアモネ・ジオラスってどういうことですか」
「それは私が聞きたい」紙をもう一度一瞥して二人のパートナーが子爵家の息子と侯爵家の娘なのを確認した。バランス重視ってわけだ。
エリカはこのシステムに不服なようだった。
「信じられませんわ!ゴーレム!二人一組!わたくし彼のことをあまり好ましく思っていませんの!」
「エリカ」私は軽く頭を左右に振って辞めるように合図する。
目を丸くして口をパクパクさせたエリカは私の目を見て固まり、諦めたのか大人しく座り直した。
いつものベルが授業時間の終わりを告げ、生徒たちは昼食のためにカフェテリアへ急いでいく。私は生徒たちが荷物を片して出口へ向かうのを少し待ち、二人に先に行くように手で合図すると教壇へ、ブーツをコツコツと鳴らす。
「おや、ミス・ヒースレイ」試験用紙を箱にしまって教師は微笑んだ。「僕のハンドサインは伝わらなかったのかな?」
「教授」呑気な教師に冷ややかな目を向ける。「結局何をおっしゃりたいのですか?」
「うーん。僕としてはこれを機に考えてみてほしいですねぇ」
わざとらしく人差し指で顎に触れ、首を傾げて、考える真似をする教師。私はジリジリとブーツを2、3歩進める。
「どういう意味ですか?いくらなんでも彼女はだめです。足手まといになります」
「だからこそです」顎につけていた人差し指を私に見せるように立てる。「歩み寄ってみて欲しいんだ。彼女をみてほしいんだ」
私が何かを言うより速く教師は箱を積み重ねて持ち上げた。「ほら、何か食べないと午後の試験も頑張れませんよ?」
目線で出口へ促して、私の一歩前を行く。
「やぁ、ミス・テトラリクスにミス・ウレックス。待たせましたか?」
「そうですわね。ほらレディ、行きましょう。わたくし栄養を使い切ってしまいましたわ」エリカがふいと教師に背を向け私の方へ来る。
ウィンは教師に会釈といえるかすら微妙な程にカクンと頭を傾けると、私の左側に小走りで付く。
「そう、そうね。考えても仕方がない」
放課後に試験のために特訓しよう。
どこからともなく現れた私の下位精霊がちょこんと肩に乗る。
「私がお手紙運ぼうか?」
「えぇ」
手に魔力を込めると小さな手紙を持たせてを澄み渡る空に放つ。光りながら茶色の尾を引き、あっという間に小さくなる鳥を薄目に眺めた。ジオラス宛。それを見て二人も精霊を送ったようだ。
さて、今日の昼食もしっかり食べて午後に備えよう。私たちはいつものテラスへと向かった。
昼食の後は天文学の試験。はぁ、私は天文学が好きじゃない。だって宇宙なんだもの、無限だ。分かる箇所と分からない箇所、正しいかどうか分からない箇所の境界線が曖昧で更新も早い分野だ。それに将来に直結しない。勉強する意味があまり感じられない。
とはいえ羽ペンを試験時間の半分も経たずに置く。この時間も嫌いだ。不合理極まりない。
「試験時間が終わりました。羽ペンを置いてください」
試験監督の教師は今日も真っ赤なリップを塗っている。手はインクまみれでろくに洗いもしないのに。
いつものように面倒くさそうな教師の声が音声拡張の魔道具から響いた。今回も教師が手を挙げると試験用紙が宙に浮かび、回収されていく。
教師は不満を幾つかこぼし、課題を幾つか与え、次の章について幾つか教え、ようやくベルが鳴って不満そうに生徒たちを帰した。私達は一番乗りに教室を出て寮へと急ぐ。
ウィンが鍵を開けて私達は部屋に入った。今日も(試験期間だからそこまで多くはなかったけど)課題を素早く終え、制服にローブから動きやすい演習着に着替える。使えそうな魔導書をポーチに入れ、エリカとウィンを連れて第五演習場へ向かう。
いつもはそこまで人が集まらないのだが、何故か生徒たちが群がっていてとてもうるさい。ブーツで土を踏み、一睨みすると外野は潮が引くように静まり返る。良かった。ジロジロ見られるのは好きではないが、静かになればそれでいい。
「リオ」
名前を呼んだ時には、私の精霊であるグロリオが隣を歩いていた。
尻尾を揺らして後ろ足で土を蹴り、魔力を集めているのを感じる。
広い演習場の中心あたりでコートを脱いでポーチから魔導書を開く。本を開くと適当な字を見つけて手を止める。
「主、俺はいつでもいけるぞ」
「広範囲に、ね」
釘を刺すと不機嫌そうに鼻を鳴らした。




