最後の忠節
ナハトラの身体の中で何かが弾けている。弾けるたびに血を吐く。既に苦しみは遠くなった。自身が何をしているのかさえ曖昧であった。
「父上、帝が参内せよと」
その一言で身体の中に芯が出来た。久しぶりに身を起こすと、乾燥しくっついた唇を引き剥がし、用意せよと告げる。帝の為と思い生きていた、それはこの国に生きる臣下であるナハトラの誇りだ。至上からの命に最後の力を振り絞る。
謁見の間で膝をつく。
「ナハトラよ久しいな、顔を見せよ」
玉顔を見るのは久しぶりだ。直視を許される事は滅多になく、直々にそう言われた者などいない。
「こたびは良くやった。褒美をとらすと言いたいが侍従長がおらぬ。後程、目録にして渡そう」
「おそれながら、褒美は疲弊した者達に与えて頂きたく」
「疲弊した者とな、申してみよ」
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帝の言葉が父を覚醒させた。尊王の思いの強い父であったが、これ程までかとリリックは驚いた。
謁見の間、両脇に大勢の文官が並んでいる。この人間達は今まで何処にいたのかもわからない。その不気味さに思わず腰に手をやるが、武器は入る前に外されている。
父は杖で身体を支えながら帝と言葉を交わしているが、少しずつ声が小さくなった。
帝の問いに答えるも聞き取れない。帝の両脇にいた文官が聞き取りの為に父に近づこうとするが、帝が止め、自ら近づき耳を寄せた。
先程のヒックスやリリックへの扱いとは違う。帝と父との間にはリリックには理解し難いものがある。
帝が悲鳴を上げた。父が杖で帝を刺している。杖は隠し刀であり、帝の背中から血塗られた刃が飛び出している。父の身体が弾けた様に飛んだ、身体に数本の短刀が刺さっている。
「オリバー」
リリックは声の限り叫んだ。帝の周囲は暗部が護衛している。短刀も暗部が投げたものに違わず、ここからは父を抱えて血路を開かねばならない。
ヒックスも既に動いてる。文官の列に飛び1人を捕まえると、飛んできた短刀の盾とし、父とリリックの前に立った。
扉が弾ける様に開くとオリバーやヒックスの副官であるバーゼルが飛び込んできた。
乱戦の中、リリックの左腕に短刀が刺さる。引き抜き投げ返すが手応えはない。一直線に向かってきたオリバーが槍を振るい短刀を撃ち落とす。
「リリック、行くぞ」
ヒックスの声にリリックは父を持ち抱え、走り出した。




