奇貨おくべし③
宜しくお願いします。以前書いていた話ですが、前の作者ページにログイン出来なくなってしまったので、推敲しながら再投稿。話が変わった部分もあります。
宜しくお願いします。
御簾が上がると椅子に腰掛けた帝と眼が合った。輝きのない何も読み取れない瞳。
「直視を許した覚えはない」
その言葉に我に返り、膝をつき頭を下げた。
「ナハトラの息子達よ、名を言え」
答える事は出来ない。
「面倒な事だ、直答を許す」
「ナハトラの長男がヒックス、陛下に拝謁いたします」
「ナハトラの次男がリリック、拝謁いたします」
「ナハトラはどこだ」
足音が聞こえ、声が先程より近くなっている。帝が近づいてきている。
「父ナハトラはいずれ参ります。高齢ゆえ先陣は我らが」
「先陣とは? 帝都へ攻め寄せる為のものか?」
鞘から剣を抜く音。
「恐れながらそうでございます。陛下の国を害す佞臣を取り除かんが為」
「佞臣と申したか、それは余の不明を非難しているとは思い至らぬか?」
ヒックスは答えない。頭上からチャッと剣を構える音、斬られると思えばヒックスは帝を斬る。リリックは口を開いた。
「陛下の不明かは解りません。しかし民は疲弊し、善政がなされていると思いませぬ。政をなすは臣下の勤めでございます」
「民の疲弊。それが故というのか? つまらぬ男だ」
足音が遠ざかっていく。
「其方たちの言う佞臣は斬った。であれば、もう用はないであろう。ナハトラが来たら参内するように伝えよ」
しばらくして、リリックは顔をあげた。同じようにヒックスも顔を上げている。
ヒックスがこちらを見て、腰の剣に手を伸ばすと鞘を2回叩いた。
リリックは首を振り立ち上がると、ナハトラの到着はまだかと声をかけた。
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ヒックスとリリックに先行されたが、ライリーにとっては計画の一つが消えただけに過ぎない。
内城に突撃していく両軍を見ながら自軍には出立の用意をさせて天幕に戻った。城への攻撃中に脱出しようとした皇子を捕まえた。帝の確保で無理をせず、次の展開を有利に進めた方が良い。
ナハトラの城を落とした者が跡取りという言葉も、遅れをとった自分には用をなさない。
天幕に拡げた地図には、いくつかの都市に書き込みがされている。
ヒックスかリリックが帝を擁立する或いは簒奪したとして、それに抗えうる他力のある地方の中心都市は六つ。何処が自分にとって良いのか、そして、各領主を抑え込み自分が実権を握れるか。
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リリックは言いようのない疲労感に襲われていた。帝の目には何もなかった。あそこで首を振らなければヒックスは帝を斬ったかもしれない。しかし、ヒックスは己で決めてしまえば、リリックの了解を取る事もなく斬ったはずだ。ヒックスも理解が及ばなかったのであろう。
「ユナチは着いたか?」
ユナチを呼ぶ。オリバーが武の支え。ユナチが智の支え。ただユナチは高齢な女性であるために前線には立たせない。しかし、状況を見て動いているはずだ。
「ここに」
直ぐにユナチが入ってきた。リリックが幼い頃に妙齢の女性であったが、成長した今でも外見は変わっていない。それに戦場でも屋敷でも変わらない装い。ユナチの穏やかな眼差しがリリックを落ち着かせた。
「父はどうだ?」
「ナハトラ様は入城されています。ただ、ご様態はかなり厳しく、ご自身では身体を起こす事も出来ません」
「帝が父に会いに来いと言っている。行かねばならぬが、父はそれどころではないな。ユナチよ、私がやるべき事を教えよ」
「おそれながら、致しかねます。私の企図することをリリック様は選びませぬから」
「ユナチよ、既に終わった話しだ。私は王者たる器ではない」
「帝はただ帝。自身の思いが妨げられる事を知らず、民にとってどうであるかなど考えもしない。自身が相応しくあろうと努めるリリック様こそが立つべきなのです」
穏やかな眼差しのままのユナチ。ただこうなればユナチが言を引くことはない。
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