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君は僕の福の神  作者: 悠木 源基


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第13章


「そもそも私の存在は、王太子殿下の女除けで、あえて言うなら、貴女のために殿下との噂を態と払拭しなかったのよ。

 だって殿下は十二歳の時に貴女に恋をして、貴女以外とは婚約しないと言い張っていたんたから。無理矢理に他の誰かと婚約させられるくらいなら、廃嫡された方がいいって。

 でも、殿下を廃嫡してあの第二王子を王太子にするわけにはいかないでしょう? 

 

 でも、肝心の貴女はなかなか見つからないし、そのまま婚約者を決めないでいると、国内外から王家に申し込みが殺到して面倒なことになるでしょ。

 そんな時にたまたま、私がレイモンド殿下の婚約者候補の筆頭だという噂が、まことしやかに流れたのよ。

 公爵家にはたまたま年齢的に釣り合う年頃のご令嬢がいなかったから、筆頭侯爵家の私なら適任だと思われたんだと思うわ。

 でね、王家にとっても私にとっても都合の良い話だったので、態とそれを否定しなかったの」

 

「申し訳なかった」

 

 王太子が神妙な顔をして頭を下げた。エルディアも困惑した顔をしたが、それでもこう尋ねた。

 

「でも都合が良かったとはどういうことですか? ジョンスタット様という想い人がいたのに」

 

「それは僕のためなんだ。実は僕にもね、王位継承権があるんだよ。祖父が元王弟だったので。

 まあ祖父は公爵家に婿入りしたから、みんなの意識にはあまりないとは思うんだけど。

 今王族の数が減っているだろう? だから普通なら考えられない僕まで可能性が出てきてしまったんだよ。

 本来第二王子がまともだったら、なんの問題もなかったんだけどね。

 

 しかも第一王子が命の危険に晒されているという話も漏れ聞こえてきて、我が家も他人事じゃないと思ったんだ。とにかく目立たないようにしないとって」

 

 と、ジョンスタットが言った。

 いやいや、普通にしてても目立っていますよ。その銀髪碧眼は! 

 そう言えば髪はともかく、その碧眼は王家の色ですね。レイモンド王太子とよく似ているし、とエルディア達生徒会メンバーは思った。

 

「つまりジョン(ジョンスタット)が筆頭侯爵家の私と婚約してしまったら、まるで彼が王太子の座を狙っているみたいでしょ?」

 

「だから僕達は素知らぬ顔をしてたんだよ。殿下もね。

 僕とセナ(セリーナ)は早くレイモンド殿下の想い人が見つかるようにと、誰よりも願っていたよ。そうじゃないと、僕達は学生時代に恋人として付き合えないで終わってしまうからね」

 

「大変なんですね、王家や高位貴族って」

 

 ジョンスタットとセリーナの話を聞いたエルディアが心底同情するように言った。すると、セリーナがムッとした。

 

「他人事みたいに言わないで。そもそも貴女のご両親が王命に背いて貴女のことを秘匿したから、貴女を見つけられなかったのよ。

 私達と同年代の子を持つ貴族は、秘密裏に聞き取り調査をされていたはずなのに。いくら娘が可愛くて王家に知られたくないからって」

 

「それは違います。両親は意図的に私のことを隠したわけではないと思います。

 何故なら私の両親は、私が外へ出かける時にリュックサックを背負っていたことも、薬やタオル、ましてパチンコを持ち歩いていたなんて知らなかったんですから。

 そもそもカーニバルに出かけていたことも。両親は私達子供のことなんてまるで関心がなかったんですから。

 もちろん私のせいで、お二人には辛い想いをさせてしまったことは大変申し訳なく思うのですが……」

 

「執事や侍女長はご令嬢の報告をしなかったのかな」

 

「ジョンスタット様、うちの使用人の者達は皆優秀で真面目で、きちんと職務を果たしています。

 しかしその報告書を両親が読むとは思えません。彼らは研究資料以外のものには関心がないので。

 不敬なお話ですが、王室からのお手紙さえ目を通していないかもしれません」

 

 みんなは沈黙した。

 

 エルディアの話を聞いた王太子は思った。確かにメディット伯爵は明確な犯罪は犯していない。それ故彼らを罪には問えないが、どう考えても彼らがしてきたことは育児放棄で、自分の両親より酷いと。

 国王夫妻は息子を立派な国王にしたいという願いがあったからこそ、甘やかさず厳しくした面がある。しかし、伯爵夫妻は自分達の好きな仕事に夢中で子供を放置したのだ。子供達には全く関心を持たず。

 エルディア達姉妹が素晴らしい令嬢になったのは、使用人がたまたま立派だったおかげで、彼らは運が良かっただけだ。

 

 王太子はメディット伯爵に嫌悪感を抱いた。そもそも彼らが、きちんと貴族として王族に恭順の意を表していれば、自分はもっと早くエルディアに逢えたし、多くの者達を巻き込むこともなかったのだ。

 彼らには彼らに相応しいお礼をしなくてはなるまい、その時王太子はそう決心した。

 そして横を見ると、親友のランスが冷えた笑いを浮かべていた。どうやら彼も自分と同じく意地の悪いことを考えているのだろう。そう王太子は確信したのだった。

 

 

 暫く沈黙が続いたが、セリーナが上品な咳払いを一つしてからこう言った。

 

「そもそもエルディア様って本当に鈍いですわよね。殿下の想いに気付かないなんて。殿下なんてあんなにあからさまに嫉妬しまくりでしたのに」

 

「殿下が私のことを覚えていて下さってるだなんて、思ってもみませんでした。

 それに殿下が私のために嫉妬するだなんて。

 こんなチビで丸っこい子供みたいな私が、殿下ではなくても誰かに恋愛感情を持たれるだなんて、普通思わないですよ?」

 

 エルディアは最近背が急に伸びてきたので、もはやチビではない。しかも元々太ってはいない。

 確かに少し前までの彼女は、ポケットがたくさんついている特殊なドレスを着て、そこに色々な物を収納していた。

 それ故にシルエットが丸く見えて、まるで茶色の愛くるしい梟に見えなくもなかったが。

 

 エルディアの言葉に生徒会役員達はみんな深いため息をついた。

 あまりの彼女の自覚の無さに、王太子殿下が心配過剰気味になる理由がわかった気がした。

 

「貴女は『幸福の梟令嬢』ですからね、たとえ恋人や想い人がいる者でも、貴女をよく知ってしまうと、思わずクラっとしてしまうんですよ。それも男女関係なく」

 

「ジョンスタット様、それって浮気じゃないですか! 

 それに嫌ですよ、もし私のせいで恋人や婚約者達の仲が引き裂かれでもしたら。それじゃまるで私は悪女じゃないですか!」

 

 本当に冗談じゃない。人の恋路を邪魔するだなんて、馬に蹴られて死んでしまう。

 エルディアは興奮してしまったので、セリーナがこう呟いた言葉を聞き漏らしてしまった。

 

「浮気っていっても、互いに同じ人を想ってしまったなら相手を責められないけれどね」

 

 ✽

 

 そして王太子とランスが卒業してから一月後、生徒会には新たなメンバーが加わった。それはラミレと新入生の男女が一人ずつだ。

 この一年の二人は、なんと既に婚約者持ちで、大人びたしっかりした生徒だった。

 

「この生徒会、婚約者がいないのって、私だけなのよ。異常よね」

 

 エルディアの護衛見習いでもあるラミレが、意味有りげにニヤニヤしてこう言ったのだった。

 読んで下さってありがとうございました!

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