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君は僕の福の神  作者: 悠木 源基


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第12章 華やかな人々  


 王太子は王立学園の生徒会室のことを安心安全な場所と称した。それが何故かというと、書籍棚で隠されていた壁の穴の奥は、なんと王族の影達の控室になっていたからだ。

 しかもそこから王室関係者専用の部屋まで繋がっていたのだ。

 

 試しにエルディアもそこの通路を通って食堂へ近道をしようとしたが、愛用の袋を持ったままだとつっかえてしまったので諦めた。

 エルディアはとても気が弱い令嬢だったので、袋無しでは歩けなかったからだ。たとえ学園内だろうと、いつ不測なことが起きるかわかったもんじゃない。いくら周りに影がいようともだ。

 

 あのカーニバルの日だって、影達が王太子の周りに待機していたのだろうに、己の主が命を狙われていることにすら気付けなかったのだから。

 しかも犯人は彼らの身内の男だったし。その時の影や護衛はその後再教育を受けて別の部署へ移動になり、彼らより優秀な者達がレイモンド王太子の護衛についたとエルディアは聞いた。

 おそらく学園に忍んでいる者達もかなりの腕を持つ者達なんだろう。

 将来自分もお世話になるのだから、彼らを信用しなくてはいけないと頭ではわかっている。それでもエルディアはなかなか不信感が拭えなかった。

 

 そもそも学園の独立制とは一体なんだったのか。内部に王家の影の控え室があるだなんて! 

 いや最初から王族専用室があった時点でどうなんだとエルディアは思わないでもなかったが。

 しかし実際のところ、学園の力だけで王族を守れるかと言われれば不可能なんだろう。ならば仕方ないのかもしれない。

 そして、これから自分も准王族として扱われるのかと思うと、正直気が重いエルディアだった。

 

 

 ✽✽✽

 

 

 そして例の断罪が全て終わって暫くして、王太子とランスが学園を卒業した。

 そしてそのランスはエルディアの姉マルティナとすぐに結婚式を挙げた。

 生徒会書記のホーランドは婚約したばかりの令嬢とともに参列したのだが、

 

「あんなに豪華絢爛で、素晴らしい結婚披露宴に参加したのは初めてだよ」

 

 と言った。

 

「大袈裟ね。ただの伯爵家と男爵家の結婚式よ。しかもうちは見栄とか体裁など気にしない家だから、お金なんかかけてないわよ。愛情はかけたけど」

 

 エルディアはそう言って笑った。確かに無駄なお金は使ってはいなそうだったが、手作りの優しさが籠もった素敵な披露宴だった。

 ホーランドが豪華絢爛と言ったのは、そのパーティー会場にいた人達のことだ。

 なんたってかつての王立学園のトップスリーが揃っていたのだから。しかもその彼らのパートナー達がこれまた凄い。

 

 花嫁は眩い金髪でスタイル抜群、その上優しげで愛らしい女伯爵。結婚前の先月に父親から爵位を継いだばかりだ。

 花嫁の妹はあの『幸福の梟令嬢』と呼ばれている、皆に愛され慕われている伯爵令嬢。しかも彼女は王太子の婚約者で、二年後には王太子妃になる。

 そして新郎の生徒会の友人。艶やかな赤毛のそれはそれは華やかで美しい侯爵令嬢。同じく新郎の生徒会の友人であり、婚約者でもある公爵令息と共に参列していた。

 

 花嫁以外は見慣れた人物達のはずなのに、生徒会室で見ていた彼らとは全く違う華やかさだった。衣装が豪華とかに関係なくだ。

 それにしても、こんな豪華絢爛な結婚式が来年も再来年もあるのかと思うと、目眩を起こしそうになったホーランドだった。

(彼は自分の結婚式もそうなるであろうことを失念していた。彼は自分がその豪華絢爛のお仲間だという自覚がまだなかった…)

 

 そう。来年は現在学園で生徒会長をしている、ヴァートマン公爵家の嫡男のジョンスタットと、書記をしているガードナー侯爵家のご令嬢、セリーナの結婚式だ。半年前に二人が婚約した時には本当に驚いたものだった。

 

 二人は幼なじみで幼い頃から想い合っていたらしいが、そんな雰囲気や素振りは全くなく、ただの生徒会の仲間という感じだったからだ。

 そもそも二人はとても人気があって非常にもてていたので、まさか想い人がいるとは思わなかったのだ。

 しかし、二人のことがわかった時エルディアがこう言った。

 

「以前、『纏わりつく女性をどうにかしたいんだ。想い人に誤解されると困るから』ってジョンスタット様は言っていましたよね。あの想い人ってセリーナ様のことだったのですね」

 

「まあね。君が色々な物を貸してくれたおかげで、迷惑なご令嬢達を追い払えてずいぶんと助けてもらったよね。ありがとう。

 その中でもあの虫除けならぬ虫寄せスプレーの効果は抜群だったよね」

 

 滅多に笑わないジョンスタットがくすくす思い出し笑いをしたので、ホーランドはどんな効果があったのかと尋ねた。

 

「どんなに迷惑で嫌だったとしても、一応僕も紳士の端くれだからね、普段は我慢強くご令嬢の相手をするようにと心掛けてはいるんだよ。

 だけど抱きついてくる破廉恥なご令嬢にまでは紳士的には扱えないだろう? 

 そんな令嬢には、背後からスカート部分に虫寄せスプレーを吹きかけたんだよ。もちろんドレスに染みなんかはつかないよ。するとね、すぐにそのご令嬢の周りに色んな虫が寄ってくるんだよ。蝿や蚊や蛾、蜂に虻にカメムシ、それにゴキブリなんかもね」

 

「ウエッ!」

 

 ホーランドがそれこそ苦虫を噛み潰したような顔をした。しかし、ジョンスタッドはクールな面差しに笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「虫が寄って来るとね、当然ご令嬢達は僕などに構っていられなくなるんだよ。だから僕からすぐに離れてくれるんだよ。本当にエルディー様々だ」

 

「ねぇ、それってエルディー嬢が作ったんだよね? 虫除けスプレーはわかるけど、なんで虫寄せスプレーなんかを作って持ち歩いていたの?」

 

 ホーランドの質問はもっともである。

 

「あのスプレーは野菜や果物の受粉のために作ったの。それで園庭の植物で実験しようと持っていたのよ。まあ失敗作だったけどね」

 

「えっ? なんで? 素晴らしいじゃないか。うちの果樹園でも使いたいくらいだよ」

 

「ああ、ホーランド様の家って領地で果樹園を経営してるのよね。だから興味があるのね。

 でもね、実は私の作ったその虫寄せスプレーは、不必要な害虫まで寄せてしまうのよ。それでは意味が無いでしょう? だから今改良中なの」

 

「ねえ、それが完成したら、うちの果樹園で試させてくれない?」

 

「まあ、それは助かるわ。その時はよろしくお願いします」

 

 エルディアは嬉しそうに笑った。その笑顔を見て一瞬ドキンとしたホーランドだったが、王太子に睨まれて、それを誤魔化すように別のことに思考を切り替えた。

 そういえばホーランドのせいで、話題が虫になってしまった。彼は焦った。この虫の話の後で二人の関係を尋ねるのはまずいような気がしたのだ。

 ところがなんとエルディアは、そんなことを気にすることもなく話を戻した。

 

「あっ、話が逸れましたが、お二人は生徒会室では恋人同士どころか幼馴染だという素振りも見せなかったですよね。あれは演技だったのですか?」

 

 と言った。しかし当然ながら彼女は二人にこう突っ込まれていた。

 

「自分だって王太子殿下との関係を隠してたのだからお互い様でしょ」

 

 と。

 読んで下さってありがとうございました!


 誤字脱字報告ありがとうございます。

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