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君は僕の福の神  作者: 悠木 源基


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第11章 断罪の後


 そして今回の断罪劇で、唯一公の場で裁かれた者がいた。それは五年前のカーニバルの日、王太子殿下を毒を塗った吹き矢で暗殺しようとした男だった。

 男は、ラミレの父親の直属の部下で、第二王妃の監視をしているうちに男女の仲になり、彼女の命令通りに動いていたらしい。ミイラ取りがミイラになったのだ。

 

 あの時エルディアがパチンコでぶつけたウルットの実は、吹き矢の筒を咥えていたあの男の口元に当たっていた。

 しかし深いマントを被り、髭面だったために、マントを脱ぎ、髭を剃れば、赤い染みは顔にはあまり残らなかった。髭をまた伸ばせば隠すことができる程度だったようだ。

 しかしその顔に触れた左の手の平に付いた赤い染みは、いくら洗っても取れず、彼はその左手に態と火傷を負って赤い色を誤魔化していた。

 

 そして彼を馬車に招き入れた第二王妃も、彼のフードを脱がす手伝いをした時にウルットの実の赤い汁を両手の指に付けてしまったそうだ。手袋をしていたがその内側にまで染み込んでしまったらしい。

 そしてその指先が赤く染まってしまったために、人前では必ず色の濃い手袋をしていたようだ。

 

 国王夫妻や宰相を始めとする大臣や重臣達が全員で、この二人にウルットの実の赤い染みがついていることを確認した。

 彼らは色々と言い訳をしたが、どこでどうやってそのウルットの実の赤い汁が付いたのか、その真っ当な理由が答えられなかった。

 そりゃあそうだろう。ウルットの実なんてそう簡単に手に触れる物じゃないのだから。

 

「せっかく君がはっきりとした犯罪の証拠をあいつらに付けてくれたのに、正式な裁判で処罰できなくてごめんね」

 

 エルディアはそう王太子に謝罪されたが、王家のゴタゴタが世間に晒されて、王太子の足元が危うくなるくらいなら、致し方ないと彼女は思った。

 それに、おそらく殿下の治世になれば、きっと犯罪は裁判所で正しく裁かれるようになるに違いない、とエルディアはそう確信していた。

 それに今回だって、罪を犯した人達は皆見逃されずに、その罪に見合った罰を与えられていたし。

 

 王家を守る一族だったにも関わらず、その主の妻と愛人関係になり、主の子を暗殺しようとした影の罪は計り知れないほど重い。

 彼の一族はそれを恥とし、全員が命を絶とうとした。たとえ温情を加えられても、王家の秘密を全て知る彼らが平民となり、市井に解き放たれるわけなどないのだから。

 

 しかし国王はそれを是としなかった。国史の始まりと共に長きに渡ってこの国に忠義を尽くしてきた一族を、たった一人の愚かな不忠義者のために失うわけにはいかないと。

 

 かつて影だった男は本来の名前に戻って王室で裁かれた。彼はこの国で孤独な思いをしている第二王妃に同情したのだと主張した。決して邪な思いを抱たわけではないと。

 しかし実際に男のしたことは、勝手に想い人の気持ちを忖度して、第二王子のライバルだと思い込んで第一王子を亡き者にしようと、何度となく殺害しようと試みた。

 それは国家反逆罪とも呼ぶべき、この国において最も大きな罪であった。それ故に男は城門の前で公開処刑となったのだった。

 

 国王の命によって兄弟や親類までがその咎を負うことはなかったが、それでも影としてではなく親としての責任感から、父親はその職を解かれた後で人知れずその命を断った。

 

 そしてその男の直属の上司だった男は、監督不十分だったという理由でその職を解かれたが、やはりその子弟にまで類が及ぶことはなかった。

 それを聞いてエルディアはホッとした。なんの罪もないラミレや彼女の兄弟達にまで何かしら不利益があったらどうしようと思っていたのだ。

 もっとも彼女がラミレ達に対する温情を王太子に嘆願したら、

 

「彼らは今回の王宮の害虫駆除の功労者の一人だ。報奨はされることはあっても罰則があるなんて有り得ないよ」

 

 と笑顔で言われたので、安心はしていたのだが。

 

 その後ラミレのすぐ上の兄は王立学院を首席で卒業すると、王城の官吏になった。見所のある若者として周りからの評価も高いらしい。

 家の仕事に就くかどうか、兄はもうそれには拘らず、ただ国のために働くと腹を括ったらしい。

 しかしラミレの方は意外にも、諦めていた家の仕事に就くことを決めたと言った。

 

「宮廷貴族出身の学生は寮に入れないから、今は仕方なく家にいるけど、本当は鬱陶しくて仕方ないの。

 毎日三人のお母様達がお父様を囲んでバチバチ火花を散らしているんだもの。

 でもまあ、近頃はあんまり煩いと義姉(長兄の妻)に全員が屋根裏部屋に追い払われるようになったから、勉強の邪魔はされなくなったけどね。

 とにかく官吏になって早くお兄様達のようにあの屋敷から出て行きたいわ」

 

 ある日ラミレがそう言った。そこで、

 

「屋敷に居辛くて官吏になりたいのはわかるけど、何も家の仕事に就かなくても、貴女ならどこの部署でもやっていけるんじゃないの?」

 

 とエルディアが口を挟んだ。

 すると、なんとラミレはとんでもない話を暴露した。

 

「いや、実は私、王太子殿下から直接スカウトされちゃったのよ。王太子妃のお側付きになってくれって。

 まあ、内実は影よね。私なら安心してエルディアを任せられるって。

 

 ほら、忘れ物が多いという欠点も、エルディーがデザインしてくれたポケット一杯のベストで解消できたし。

 必要最低限の物はこうして全部身に着けるようにしたからもう安心よね」

 

 ラミレはワンピースの上に羽織ったベストをポンポンと叩きながら笑顔で言った。

 

「ここにない物をたとえ忘れたとしても、それは代替が利くものだと考えれば、慌てる必要もないってこともわかったしね。

 そもそもエルディーが側にいてくれれば、何でも持っている『福の神』なんだから、なんの心配もいらないよね〜 

 やっぱり官吏になるなら王太子妃の側付きが一番いいよね」

 

 ラミレは本当に嬉しそうに、愛らしいその顔には似合わない豪快な笑いをした。

 

 エルディアはあの突然の王太子からの抱擁から間もなく、正式な付き合いやデート無しですぐに王太子殿下の婚約者になってしまった。

 いくらなんでもこんなに早急に婚約を申し込むなんていけません。もっとよく考えてからにしましょう、と何度もエルディアは提案したが、王太子は聞く耳を持たなかった。

 

「どうせ僕達が結婚する未来は決定しているのだ。ならば婚約は早い方がいいではないか! 

 僕達は五年以上前から互いに思い合ってきたんだ。それでもう十分だろう? 

 それにのんびりしていたら、君を狙う奴らに掠め取られてしまうではないか!」

 

「殿下、こう言っては甚だ失礼ですが、私なんぞを欲しがるのは殿下くらいですよ!」

 

「いや、そんなことはない。君は無自覚過ぎるぞ。君はみんなに『幸福の梟令嬢』と呼ばれているのを知らないのか!」

 

「いやいや、それはみんな私を単に便利な人間だと思っているだけでしょう!」

 

「違う! 便利だからとか、必要な物を与えてくれるからって皆が君を慕っているわけじゃない。

 君の天使のようなかわいい笑顔が、君の女神のような優しい言葉がみんなの心を癒やしてくれるからだ」

 

「エーッ!!」

 

「あの安心安全な生徒会室に居る時だって、君を奪われやしないかと心配でたまらないんだ。

 僕が卒業して君と離れ離れになったら、君のことが気になって、もう政務に身が入らないかもしれない……

 だから、僕の心に安らぎを与えるためだと思って、今すぐに婚約して!」

 

 超絶美形でありながら、普段は凛々しい王太子が、珍しくしょぼくれた顔でこう言うので、エルディアは胸ががキュンとしてしまった。

 エルディアは二人姉妹の妹で、見た目は小柄で可愛らしくて、甘えたがりに見える。

 だが、口を開けばあけすけで、気が弱い割には人に媚びたりしない。そして基本的に姉さん気質で、世話焼きで面倒見が良い。

 つまり人から甘えられたり、頼られたりするのと弱いのだ。

 

 王太子はエルディアより二つ年上で、しかも才色兼備と言われる男前の王太子だ。

 それなのに他の人には絶対に見せないであろう情けない顔でお願いしてくるのだ。エルディアに断れるはずがなかったのだった。

 

 しかも政務に身が入らないとまで言われたら、一国民としてエルディアは頷くしかなかった。

 王太子殿下にはこれから国の歪みを正すために、色々と改革をしてもらわなければならないのだから。

 読んで下さってありがとうございました!

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