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君は僕の福の神  作者: 悠木 源基


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第10章 第二王妃のシナリオ  

 この章は王家の事情の話です。


 誰も信じないお粗末な嘘のシナリオを作ったのはなんと第二王妃自身だった。

 彼女はその悪意まみれの脚本を元に、配下の貴族の娘達に嘘をばら撒かせ、公衆の面前でセリーナ嬢に罵詈雑言を吐かせていたのだ。

 そして最終的にはこの内容で小説や芝居にまでしようとしていたらしく、その原稿が第二王妃付きの侍女の部屋から押収された。

 

 婚約者のランスからそのシナリオのあらすじを聞いたメディット伯爵令嬢マルティナは、怒り心頭になった。


「恋愛小説を馬鹿にしてるのかしら! そんな○○な内容の小説を誰が読むのよ。

 あの顔だけの能無し第二王子を、才色兼備で淑女の鑑のセリーナ様が好きになるわけないじゃない! どこぞの馬鹿な侯爵令嬢じゃあるまいし。

 そもそも王太子殿下とあの男じゃ月とスッポン、天と地、そもそもライバルにもなり得ないじゃない!

 そんな現実味が全くない話に誰が共感するのよ! 読者を馬鹿にするなだわ!

 駄目駄目な男主人公が美女に好かれるなんていう、男目線の男の妄想ダダ漏れの気持ち悪いご都合主義小説なんて、誰が読むものですか!(二度目)

 お金の力で出版なんかしたら、それこそ資源の無駄遣いよ!」

 

 姉の感想はもっともだとエルディアも心の底からそう思った。そしておそらく殆どの人もそう思ったのだろう。

 第二王妃の命令で流されたそれらの噂は全く以て流行らなかったのだから。

 世事に疎いから知らなかっただけなのかと最初のうちエルディアは思った。しかし、直接目の前で言われ続けていたセリーナ以外、生徒会役員は誰も知らなかったし、一般の学生達にもほとんど広がってはいなかったのだ。

 

 そしてマルティナの怒声はまだまだ続いた。

 

「それにそもそも恋愛要素が全くなかったのに、何故恋愛の話にしようとしたのかしら?

 レイモンド殿下はエルディア一筋だったし、セリーナ様は公表されていなかっただけでジョンスタット様と婚約していたし。あのクズが王太子になりたくてセリーナ様を利用しようとしていただけでしょ。

 それなのに逆恨みでセリーナ様を陥れるためだけに、何故あんな意味不明なシナリオを作る必要性があったの? 

 もし単に恋愛小説を書きたかったのなら、むしろ自分をヒロインにして書けば良かったのよ。

 

 ただしその自虐ネタを小説にするだけの度胸があったらの話だけど。もしそれを書けていたのなら、読んであげても良かったのにね!

 発売していたら案外売れていたんじゃないの! 悪役王女物として」

 

 元第二王妃が自伝、もしくはそれを元にしてノンフィクション小説を書いていたら、確かに売れていたかも知れない、エルディアも思わずその意見に賛同したくなったのだった。

 それが何故かというと……

 

 

 そもそも元第二王妃は、自分の兄の結婚式に参列していた現在のこの国の王にひとめぼれをして、第二王妃でも構わないからと無理矢理に結婚を申し込んできたのだ。

 金髪碧眼で鍛えられた体躯をしたライディン国王は、黄金の若き獅子と異名を持つ美丈夫だったからだ。

 

 しかし当時国王は、長年婚約していた想い人とようやく結婚できて幸せの絶頂にいた。それ故に当然その場でそれを断った。

 相手国との力関係は同等だったので、それは何の問題もないはずだった。

 

 ところがライディン国王より七つほど年上だった隣国の国王は、強引でかなり好戦的な性格の持ち主だった。

 しかも末の妹に甘いのか、なかなか引き下がらなかった。そして最終的には脅しをかけてきたのだ。国境の守りを強化させるつもりでいると。

 たとえ戦争になっても負けるとは思わなかったが、国民を無意味な争いに巻き込みたくはなかった。

 そしてその国境を守る辺境伯は王妃の実家であったために、国王はその縁談を無碍にはできなくなった。

 

 国王は隣国の第三王女を第二夫人として迎えることにした。しかし、それは形だけのものにするつもりだった。王女が諦めるのを待つ算段だったのだ。

 しかし初夜に最低限の会話をしようとした国王は、第二王妃となった元王女によって襲われてしまった。

 いくら護衛を付けていたとしても、無臭の秘薬を焚かれてしまってはどうしようもなかった。

 

 国王は激怒して第二王妃を一室に閉じ込めた。そして二度会わないと宣言した。そして国の決まりに従って、いずれ子を成さないことを理由に離縁すると告げた。

 ところがだ。運が悪いことに第二王妃は初夜のその一回で身籠ってしまった。正妃の懐妊に大喜びしていた国王並びに重臣達は急転直下絶望のどん底に突き落とされた。

 

 それでも彼らは微かな希望を持っていた。子供が国王の子ではないのではないかとか、もし本当に国王の子であったとしても王女であってくれと。この国の王女には王位継承権がないので、第二王妃並びに隣国と無闇な争いをしなくても済むと思ったのだ。

 

 しかし運命は残酷だった。 

 

 正妃が国王に瓜二つの第一王子を出産した二月後、第二王妃が子どもを出産した。それも、第一王子同様に国王に酷似した男の子だったのだ。

 国王夫妻を始めとして重臣達は皆これを嘆き、将来を愁いたのだった。

 

 子供が生まれても国王は第二王妃に一切関わらなかった。それにも関わらず、彼女は国王を諦めなかった。

 隣国の兄の援助を受け、金をばら撒いて王城の中で第二王妃の勢力を作り上げ、何かと国王に接触をしようとした。そしてそのためには王の怒りを買うことも厭わずに、正妃や第一王子に嫌がらせをしたりもした。

 

 後にガードナー侯爵家のセリーナがしたという虐めや嫌がらせは全て、かつて第二王妃が正妃に対して行ったことだったのだ。

 

 しかし正妃は見かけは可憐な花のような嫋やかな女性だったが、彼女は辺境伯の娘で、厳しい環境で生まれ育ったために心身ともに強かった。温室育ちの元王女の虐めなど、痛くも痒くもなかった。それを知っていた国王もまた正妃のためにとたとえ脅されても、第二王妃に構うことはなかった。

 

 ただ国王夫妻のこの態度は、彼らには良くても、息子である第一王子にとってはいい迷惑だった。

 人は皆彼らのように強くはないのだ。まして子供だった第一王子にとって、第二王妃の嫌がらせや虐めは辛いものだった。しかも、命まで危機に晒されて。

 エルディアが最初の暗殺者を排除して危険を知らせなかったら、レイモンドの命はどうなっていたかわからない。

 

 レイモンドが命の恩人のエル以外の女性とは婚約しないと言った時、そしてようやくエルディアを見つけて婚約したいと言った時、国王夫妻がそれをすぐに許可したのは、自分達に疚しい気持ちがあったからだ。

 エルディアがいなかったら、大切な一人息子はこの世にいなかったのかも知れないのだから。

 

 そう。国王夫妻に徹底的に無視された第二王妃は、次第に彼女の全ての感情を国王によく似た二人の息子にぶつけるようなったのだ。

 自分が産んだ第二王子には溺愛を……

 そして、正妃が産んだ第一王子には憎しみを……

 

 国王は確かに、国のために誠心誠意尽くし、己のその役目を立派にこなす君主だったかも知れない。しかし、親として自分の息子達にももっと目をかけて注意を払うべきだった。

 第一王子には心身ともに休める環境を。第二王子には甘やかす母親と適正な距離を取らせて心身を鍛える環境を。

 もしこの国の安寧を本気で考えていたのであれば。

 

 そして王妃もまた知るべきだった。誰もが己と同じように身も心も強いわけではないことを。ましてそれが子供ならばなおさらに。

 厳しさだけでは真に強い国王、いや人間にはならないのだということを。

 

  ✽

 

 確かに第二王妃の話を小説にした方がまだマシだったかも知れない。愛し合う夫婦にゴリ押しで割り込んで、薬を使って夫を襲い、正妻の子を殺し、自分の子供を次期国王にしようとした。

 まあ典型的な悪女ものだが、愛しても愛されない女の足搔きや虚しさ、切なさにはリアリティーがあるとエルディアも思った。


 しかし、それにしたって自分のことを棚に上げて、よくもまあ、あんな嘘っぱちの噂を流せたのものだと、やはり元王妃には一欠片の同情もできなかったエルディアだった。

 


「あんなリアリティーゼロで気持ち悪い噂を態々流して、自ら不敬罪になりたい人なんているわけないじゃない。

 私だってあの噂は知ってはいたけれど、報告書に上げるのさえ馬鹿らしくて書かなかったもの」

 

 第二王妃側の流した噂が広がらなかった理由を、以前ラミレもこう言っていた。

 その時なるほどとエルディアは思ったものだった。やはり噂を流行らせるためには、嘘の中にも多少は本当のことや真実味のある内容を、そこに混ぜ込ませないと駄目なんだと。

 第二王妃の作ったシナリオには真実が何一つなかったのだなと理解した。

 

 結局噂は広がらなかったわけだが、王太子を謂れない噂で侮辱し、ガードナー侯爵令嬢を意図的に陥れようとした罪は重い。

 それ故に噂を流していた令嬢達は、第二王妃派の親と共に財産没収の上国外追放となったのだった。

 読んで下さってありがとうございました!

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