第四十六譚 勝利の宴
戦いが終わった日の夜、大樹通りにて宴が行われた。
宴の会場には、王族なども参加し、身分など関係なしに飲んで歌って騒いでいる。
宴に参加した妖精族の数は十万を軽く超し、二十万近くまでになった。
妖精と高位妖精が肩を組みながら笑い合い、半妖精と高位妖精が仲良く踊り、会場は大いに盛り上がっていた。
「凄いよね、つい昨日までは妖精が高位妖精がーって言っていたのに、今は身分なんて元々なかったかのように笑いあってさ」
ジオが宴の様子を見ながら呟く。
「俺はそれを今日まで知らなかったから何とも言えないけど、この光景を見てると仲悪かったってのが信じられなくなるな」
「だろうね。僕だって未だに信じられてないもの」
「そりゃ俺が信じられるわけないな」
笑いながら話すジオに釣られ、俺も思わず笑みがこぼれる。
俺達が座っているのは、“大樹通り”から少し離れた高台。
ここからだと、宴の全体が良く見渡せる。絶好のビューポイントだ。
俺とジオは、その場所で世間話みたいな会話を続けていた。
「……ありがとう」
「いきなりどうしたんだよ?」
突然の感謝の言葉に、俺は少しだけ驚く。
「君がいなければ、エルフィリムは滅んでいたかもしれない。だから、お礼を言いたくてね」
「いやいや、そんな事無いだろ。アザレアとお前がいれば何とかなったって。ほら、アザレアの魔法。何だよあれ化け物だろ」
南の戦場で見たアザレアの魔法。
炎系の魔法だったと思うんだけど、威力が半端じゃなかった。
正直言って、魔族以外であんな威力の魔法を使う奴初めて見たぞ。
いや、周りに魔法使いがいなかったから、そういうの見る機会がなかっただけかもしれないけど。
「でも、アザレアには弱点があってね……。すぐに魔力を空にしちゃうんだ」
「そんなに魔力少ないのか?」
「ううん。魔法の使い方がね、下手なんだ。魔力って意外と節約できるものでね? 凄い魔法使いなんかは通常の半分以下の消費で魔法を発動できるらしいんだよ」
魔力消費半分以下で魔法を使えるなんて凄いな。
五十年前はそんな事無かったのに……。
俺は改めて、時間の流れというものを感じた。
「なんでアザレアはその節約ができないんだ? 下手って言っても少しぐらいはできるんだろ?」
俺の言葉に、ジオは苦笑する。
「……何て言うかな、その……馬鹿なんだよ。アザレアは……」
「大変なんだな、お前も……」
俺は一瞬で理解した。
ジオの気持ちはよくわかる。
俺にも昔、脳みそ筋肉の仲間がいてだな。
そいつの頭の悪さと言ったらもう世界が崩壊するレベルでな……。
作戦立ててもそいつがぶち壊すから作戦立てる意味が無くなったし、色々とやらかすし。
それでも、本当に大事な時はしっかりしてたんだよな。
「それにしても、セレーネちゃん遅いね? 何かあったのかな?」
「いや、多分怪我人見つけて治療してるんだろ。あいつはそういう奴だからな」
セレーネは数十分前に買い出しに出かけたまま。
元々は俺が行くはずだったんだけど、セレーネがどうしてもと聞かないから変わってもらったんだ。
「……ちょっと探してくる」
「うん、行ってらっしゃい」
確かに少し遅い気がするな。
何かあったのかもしれないし、少しだけ探してみよう。
俺は階段を下り、“大樹通り”に出る。
しかし、妖精族で溢れたここを通るのはかなり厳しく、普通に歩いていたら一時間かけても数十歩しか歩けない。
もしかしたらこれのせいで戻ってこれないのかもしれないな。
だからと言って探すのも至難の業だし、さてどうするか……。
そんな時、俺の腕が何かに捕まれ、グイッと路地へ連れ込まれる。
「えっ!? 何事!?」
「アタシよ、アタシ」
「……アザレア? 一体どうしたんだ?」
俺の腕を掴んでいたのは、この国の次代女王であるアザレアだった。
「ちょっと話しましょうよ」
そう言うと、アザレアは俺の腕を離し、手招きをしながら奥へと歩いていく。
俺は不思議に思いながらもアザレアに着いていった。
□■□■□
「ここは……」
アザレアに着いていった俺は、フェアリーレイクの畔に辿り着いた。
月明かりが何にも遮られず、この畔を眩しく照らしている。
湖に映し出された月は幻想的で、とても綺麗だった。
「この場所なら誰にも邪魔はされないからどんな話でもできるわよね?」
「まあ、そうだな。だけどこんな場所に連れてきてまで話したい事ってなんだよ?」
俺は疑問に思っていたことをアザレアに問いかけた。
なぜアザレアがこんな場所まで連れてきたのか、なぜ二人きりじゃないといけないのか。
俺はそれがわからなかった。
何か言われるようなことはしてないし、されてもいない。
こんな場所に連れてきてまで話したい事って一体なんだ?
……まさか、告白か。
いや、そうに違いない。絶対そうだ。
うわぁ、どうしよう。遂に俺にも春が来たという事ですか。
生まれてこの方、異性と一度も付き合った事も無ければ告白された事も無い俺が遂に――いや待て落ち着け。
平常心だ、平常心。
こういう時こそ冷静でいなくては。
「ねえ、アルヴェ――」
「ああっと、待ってくれ。君が言いたい事はわかる。わかるよ。だけどな、俺はまだ君の事をよく知らない。だから君の申し出を受けることはできないんだ」
「……はあ!? 何よそれ!? なんで答えられないのよ!?」
アザレアは怒りのこもった声で怒鳴った。
いや、俺は嬉しいよ? だけど、今じゃないと思うんだ。
言った通り、俺はアザレアの事をよく知らない。
知ってるのは、次代女王という事と、魔法が化け物という事ぐらいだ。
「だからね、君の告白を受け入れられないんだ」
「だから、アンタの正体を教えなさいって言ってんのよ!!」
「え?」
「へ?」
俺の言葉とアザレアの言葉が重なる。
「……俺に告白って話じゃなくて?」
「……なんでアンタに告白する話になってんのよ!?」
俺は少しだけ微笑み、背を向いて顔を手で覆った。
死にたい。
盛大に勘違いした。俺はバカか? バカだよな、わかってるよ。
冷静に考えたら告白なんてありえないよ。
だって、告白するときの乙女の様な顔してなかったもん。殺し屋の様な目してたもん。
「……もういいや、さっさと事を済ませたかったんだけどな」
「……アザレアさん?」
アザレアの声音が急激に変化する。
それはまるで機械のように冷たくて、不気味な声音だった。
「アタシと決闘しろ」
「……は?」
畔に冷たい一陣の風が吹いた。




