第四十五譚 妖精族(エルフ)
「助けに来たわよ、二人とも!」
俺達の目の前に現れたのは、唯一この状況を知っていたアザレアだった。
「アザレア!? どうしてこんなところに!?」
ジオが声を上げる。
「なんて声出してんのよ……」
「なっ!? だって君がこんなところにいるから!」
確かに動揺しすぎてもの凄い表情してるな。
怒ってるのか驚いているのかよくわからない。
「アンタら二人じゃ頼りなかったからよ。だから全員で助けに来たの」
「頼りないって……! それにこんな数、どうやって集めたんだい!?」
「驚いた? あの中にはね、妖精も高位妖精も半妖精もいるのよ」
自慢気に話すアザレアは、ジオに近づいて人差し指を突き立てた。
「妖精族の問題は妖精族で解決しなきゃいけないのよ。妖精も高位妖精も半妖精も関係なく、一つの種族として、ね」
ジオは未だに驚いたまま、アザレアを見つめていた。
俺は二人から少し距離を取り、辺りの状況を確認する。
聖王軍は突然の襲撃に大混乱。
妖精族はその隙にどんどんと聖王軍を追い込んでいく。
「妖精族の力を知るがいい!」
「妖精族を舐めるな!」
「妖精族の力、御覧あれ」
なぜかはわからないが、皆が妖精族の部分を強調している。
高貴な服を着た妖精族も、普通の兵士の恰好をした妖精族も、全員が妖精族を強調している。
その凄まじい気迫に、聖王軍は臆しているようだった。
「ははっ……。凄えな……これ……」
俺はこの光景に少しだけ感動していた。
不謹慎かもしれない。戦闘中なのに。
でも、何と言っていいかわからないけど、凄いんだ。
なんというか、妖精族が一つになっているかのような、まるで妖精族が一つの生き物のような一体感が。
「て、撤退です! 全員、撤退してください!」
エネレスの声が辺りに響く。
聖王軍はその声を聞き、すぐさま撤退を開始した。
それは一瞬の出来事だった。
妖精族が奇襲をかけてものの数分。
一日と半日続いた戦闘は今、終わりを迎えた。
「追わなくていいわ! この戦い、我ら妖精族の勝利よ!」
大きな歓声が森の中に響く。
妖精族は各々剣や杖を天に掲げ、嬉しそうに声を上げている。
鼓膜に響くほどのもの凄く大きい歓声。
これほどの妖精族が集まる瞬間なんて、後にも先にもこれぐらいじゃないか?
そう思えるほど、この光景は凄いものだった。
言葉にできない感動と、戦い終えたという達成感が俺の心を支配していた。
戦いの後にこんな事を思ったのは本当に久しぶりだ。
いつ頃だったか、その時の事も忘れてしまうほどに長らく感じていなかった感情。
この感情を、俺はしばらく忘れることはないだろう。
「帰るわよ! 我らの国へ。我らの愛する家に!」
こうして、妖精族と聖王軍の戦いは幕を閉じた。
□■□■□
戦いが終わり、俺達はエルフィリムに帰還した。
入り口の橋前にはたくさんの妖精族が兵士達の帰りを待っており、兵士達はそれぞれの家族のもとへ向かって行った。
さらに、そこには俺の天敵でもありジオとアザレアの母である女王も待っていた。
「ああ! グラジオラス! アザレア! よく頑張ったわね……!!」
ジオとアザレアを見つけた女王は、今にも泣きそうな顔で向かってくる。
ジオ達も女王のもとへ歩いていき、二人は女王に抱擁された。
「母様、すみません。ご心配をおかけしてしまって」
「本当に馬鹿な息子ですよ……。アザレアが教えてくれなければどうなっていた事か……」
「母様もそう思います? ホンットにこの兄様はバカなんですよ」
「アザレア……。君の言い方には棘を感じるんだけど……」
女王はうれし涙を見せ、ジオは少し呆れ顔、アザレアは照れくさそうに親子で会話を続けた。
この場所に俺はいない方がいいよな。
皆家族と喜びを分かち合ってるんだから、俺がいたら邪魔になる。
「――アル様」
沢山の声が入り混じる場所に、一つの透き通った声が俺の耳に届く。
その声が聞こえた方向に振り向く。
俺の目に映ったのは、橋の向こう側で立つ綺麗な空色の髪をたなびかせる女性。
彼女は風でたなびく髪を右手で押さえ、微笑みを浮かべながら立っていた。
俺は彼女が立つ場所へゆっくりと歩き出す。
徐々に近づく距離。
橋を渡り、俺は彼女の目の前に立った。
「ただいま、セレーネ」
俺がそう言うと、セレーネはより一層微笑む。
「おかえりなさい、アル様」
そして、セレーネはその言葉と共に俺を出迎えてくれた。
セレーネの言葉を聞いた俺は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
そうか、俺にも帰りを待ってくれている人がいたんだな。
三度目の人生を歩み始めてから、俺だけが過去に置き去りにされた感じがして、ずっと一人だと思っていた。
でも、俺は一人じゃなかったんだな。
「心配、したのですよ……?」
「……ごめん」
「貴方が囮として戦ってくれていた中、残された私が何を想っていたかわかりますか……?」
「……心配かけちゃってごめんなさい。もうしません」
「違います。いえ、違いませんが。次は私も傍においてくださいね」
なぜだろう。
セレーネといるとすごく安心する。
この声を聞くだけで、セレーネが傍にいるというだけで安心するんだ。
「……死ぬかもしれないぞ?」
「大丈夫です。私の事はアル様が守ってくださいますから」
「お前なあ……。確かに守るけど――」
「その代わり」
セレーネは俺の言葉を遮り、背を向きながら“大樹通り”を歩いていく。
数歩歩いたところで振り返り、セレーネは微笑みながら人差し指を立てた。
「私が貴方の事を守りますから」
そんな彼女の言動に、俺は一瞬だけ目を奪われた。
一瞬、ほんの一瞬だったけど、その時のセレーネはとても輝いて見えた。
「あ、いえ……。勿論物理的ではなく、回復魔法で、ですが……」
気恥ずかしそうに言葉にするセレーネ。
俺はそんな彼女が、とても眩しく見えた。
ああ、そうか――
「……わかった。セレーネの事は俺が守る。だから俺の守りは頼んだぞ」
「はい。全身全霊で守らせていただきますね」
俺は、彼女に惹かれ始めているのか。




