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第四十四譚 背中を預ける


 死体の山を越えながら、俺はどんどん南に進んでいく。

 

 南に進んでいくにつれ、死体の量も多くなっていく。

 辺りの木々にも戦闘の傷跡が残っていて、大きく削られた木々が目立つ。


 しかし、ここまで来ても戦闘している気配が感じられない。

 本当にこっちで戦ってるのか?

 いや、もしかしたらもう終わったのかもしれない。


 ジオの実力は結構なものだから、あっさりと勝っちゃったのかもな。

 すれ違いになったのか? なら北に戻らないといけなくなるんだけど……そうだったら面倒くさいな……。


 しかし、次の瞬間に俺の考えはまったく当たっていなかったと知る。


「……あ、おーい! ジオ、無事だっ……たの、か……」


 俺の目に映ったのは、地面に膝をついているジオと、ジオを囲むように立つ少数の兵士達の姿だった。


「ジオ!!」

「新手か!?」


 俺はジオを囲む兵士達向けて走りだす。


「駄目だよ! アルヴェリオ!」

「な……っ!? ジオ!?」


 なぜかジオは俺を止めた。

 いや、理由はなんとなくわかっている。

 

 これが罠なのか、それともジオに策があるのか。

 どちらにせよ、俺に出てきてもらっては困るという事なんだろうけど、このままじゃあジオがやられる。

 それだけは絶対にダメだ。


「ふむ。貴様が“再誕の勇者”か」


 豪く煌びやかな鎧を身に纏った兵士が声をかけてくる。


「お前は誰だ? 北の将達とは雰囲気も違うみたいだけど」

「ほう。やはり北に行かせた軍を倒したか」


 表情が読めない。

 仮面を被っているせいで顔が見えないから、何を考えているのか全然読めない。


 それに、こいつを纏うオーラというか気迫みたいなもの。

 尋常じゃない。かなり強いぞ、この兵士……。


「ふむ。ならば次は二倍の五万人でどうだ? それとも一気に三倍がいいか?」

「お前、何言ってるんだ……?」

「……まあいい。本当ならば、私が直々に戦ってやりたいところだが時間もないのでな。お前の相手は別の者に託すとしよう」


 そう言った兵士は、数人の兵士を連れて森の奥へ歩いていく。


「ちょっと待て! 逃がすか!!」

「あとは頼むぞ、エネレス」


 俺が一歩を踏み出した瞬間、ジオの首筋に兵士達の剣が向けられる。


「動かないでください。動けばこの男、死にますよ?」


 消えていった兵士の代わりに現れたのは、白銀の騎士。

 さっきの兵士と同じように、北の将達とは鎧も雰囲気も違う。

 肝が据わってるというか……凄く落ち着いてるな。


 声から察するに若い男っぽい。

 若い命を摘むのは好きじゃないが……仕方ない。


「……そうか、なるほど。了解了解……“幻影(ミラージュ)”」


 俺は残り少ない魔力を使い、“幻影(ミラージュ)”を唱えた。


 兵士達と俺の距離はわずか三メートルほど。この距離ならば魔法陣が届く。

 俺が動いていない幻影を見せている隙に、兵士達を斬ってジオを救出する。そういう作戦で行こう。


「……物分かりがいいようで助かります。では、そのまま武器を捨ててくださ――」

「誰と話してるんだ?」

「……っ!?」


 俺はジオを囲む兵士達を横払いで斬り、エネレスとかいう騎士を左斜めから斬りかかる。

 しかし、俺の長剣はあと一歩のところで別の兵士に防がれた。


「戦えぬ奴は下がれ! 邪魔だ!」

「……っ! すまない……」


 先程斬ったはずの兵士達が、エネレスを守るように位置づく。


 どういう事だ? あんな目立つ格好してるのに戦えないのか?

 それにあの兵士達。さっき斬ったはずなんだけど傷が見当たらない。手ごたえはあったんだけどな。


「ジオ、立てるか?」

「うん、ありがとう。助かったよ」


 俺は兵士達を警戒しながら、ジオに手を差し伸べる。   


「気を付けて……。伏兵がいるんだ」

「……ああ、わかってる。何人やった?」

「まだ一万程度しか倒せていないんだ……」


 申し訳なさそうに言うジオ。


 一万か。

 さっき消えていった兵士の発言からすると、北の兵士の数は二万五千程度だったんだろう。

 それを考えると、こっちはそれと同じかそれ以上の数はいると考えた方がいい。

 つまり二万五千以上。


 ジオが一万程度倒したなら、残りは一万五千以上ってことになる。

 正直言って厳しい。

 俺もジオも体力の消耗が激しいし、俺の魔力はほとんど空だ。


 幻術魔法で一掃しようにも発動できないんじゃ意味がない。


「ジオ。中々厳しい状況だけどどうするよ?」

「……そうだね。でも、僕等にできる事はただ一つだよ」


ジオは懐から短剣を取り出し、胸の前で構える。


「やっぱりそうだよな……」


 俺もジオと同じように、長剣を構えて戦闘態勢をとる。


「……おとなしく投降してください。そうすれば――」

「投降なんてして堪るか。俺には守らなきゃいけない人が沢山いるんだ。だから、お前らをここで倒す!」

「……! 貴方は……わかりました。仕方がありません……」


 エネレスは左腕を上げる。

 隠れていた伏兵が俺達を囲むようにズラッと並んだ。


 やっぱり二万近くいるじゃないか。二万というか三万以上はいるぞ。

 どこに潜ませてたんだよこんな数。


「これはまた数が多いね……」

「まあ、そっちの方が燃えるだろ」


 俺達は互いに背を向け、お互いの背中(後ろ)を任せた。


「命までは奪いません。力づくでここを通させてもらいます……!」

「ああ! やれるもんならやってみろ!」


 エネレスが上げていた左腕を下ろす――その時だった。


「て、敵襲ー!! 敵襲です!!」


 聖王軍の兵士が声を上げる。


「何事ですか!?」

「よ、妖精族の! 妖精族の襲撃です!!」


 その瞬間、左のほうから戦闘の音が聞こえてくる。

 剣と剣がぶつかる音。何万もの人数が走っているような音。炎が燃え盛るような音や風が何かを切り裂くような音。


「その数――およそ十万は超えているかと!!」

「ば、馬鹿な!? それほどの戦力が残っていただと!?」


 俺とジオは互いに顔を見合わせる。


「――“炎の円陣(フレイムサークル)”!!」


 一人の少女が、兵士の壁を抜け出てくる。

 金色の髪に、切れ長の目。


「我ら妖精族の力を見せるのよ!!」


 その少女は、俺達が見知った人物。


「助けに来たわよ、二人とも!」


 王女アザレアだった。

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