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俺は、いつものように教会の鐘の近くにいた。
アレから数ヶ月。親戚の家に引き取られた俺は普通の生活に戻っていた。
前みたいに、母親が俺をここに探しに来ることはない。
ひどく孤独になってしまった気持ちだ。
親戚のおじさんも、俺を受け入れた当初はちゃんと可愛がってくれていた。
しかし、転生者の俺が、訳の分からないことばかりを言っている間に愛想を尽かされてしまったみたいだ。とはいえ、生活の面倒はちゃんと見てくれているので、そこはしっかりと感謝しないといけない。
俺はもっとちゃんとした人間にならないといけない。
両親が亡くなったというのに、昔みたいに暮らしていてはダメだ。
普通の子供じゃないのだから、大人にならないといけない。
そんなことを思っていても、どうしてもやる気が出てこなかった。
ユキは世界を見渡していた。
この狭い世界を見ながら、どこかでドラゴンを探していた。
見つけたところでどうにかなるものでもない。
それを見つけて何かをするわけでもない。
それでも、彼はドラゴンを探してしまっていた。
自分の人生が大きく変わってしまったということは彼にもわかっていた。それでも、それだけで受け入れられるような出来事ではない。
「こんにちは」
「あぁ、もう正午なんですね」
「今日もここに?」
「そうですね」
俺が鐘の近くで無駄な時間を過ごしていると、階段を登ってくる音が聞こえてきた。そしてそれは俺の元までやってきて、最終的には話しかけてきた。
彼女はこの教会に勤めているシスターだ。
いかにもシスターと言ったような格好をしている、金髪の女性。
『クリーフ』という名前らしいが、それ以外のことはあまりわかっていない。
ここで時間を潰すようになってから、何度か挨拶をしたことがあるだけで、彼女がどんな人間なのか、詳しい情報は知らない。
ユキは大人に対しては敬語で話す。
それはその年齢の男子にしては違和感があるほど自然な敬語だった。
それもあって、彼が大人と仲良くなるのは難しかった。
「それでは、この耳栓を」
「いつもありがとうございます」
母親に探されなくなったことで生まれた出会いだった。
出会ったばかりのクリーフさんはどこか素っ気なく、いつも俺がいるのかいないのかわからないような振る舞い方をしていた。
しかし、最近になって少しずつ話すようになった。
あまりにも俺がここにばかりいるから、話さざるを得ないのだろう。
話すようになったといっても、自己紹介をしただけではあるが。
この狭い世界には逃げ場が少ない。
人が密集していることもあって、どんな場所であっても人がいる。
本当に人が来ない場所なんてここくらいしかなかった。
そもそも、ここは入ってはいけない場所のような気もする。
彼はクリーフから耳栓を受け取った。
それを両耳に着け、小さな金属製のハンマーを手に持っていた彼女が、鐘にそれを打ち付ける様子をジッと見ていた。
あまりにも近い場所で鐘が鳴っているから、全身が震えるような感覚が彼を襲う。
クリーフはハンマーから伝わってくる衝撃で本当に“ブルブル”と震えていた。
鐘は何度も鳴らさないといけないので、何度も“ブルブル”と震えていた。
その姿はどこか面白く、ユキは少しだけ笑いそうになるのだった。
彼女は、震えた後で、何事もなかったかのようにして耳栓を外す。
俺も耳栓を外し、前と同じ場所でずっと世界を眺めようとした。
しかし、今日はなんだかいつもと様子が違った。
「教会に興味があるのですか?神様を信じてらっしゃるのですか?」
「え?いや、信じてない訳ではないですけど、そこまで詳しくはないので」
「もし、もしよろしければ祈りを捧げませんか?神様への祈りはきっと貴方の人生を明るく照らしてくれるはずです」
「そうですか。でも、そうですね」
「行きましょう。せっかく教会に来たのに、祈らないというのは勿体ないです。貴方のためにもなると思います」
当然のように俺は宗教的な人間じゃない。
神様を信じていない、訳でもないが、信じている訳でもない。
ここに来る時に、女神様に会っていたら信じていたのだろうが、会っていないからどうしてもそれを信じることはできない。
とはいえ、ここに転生している以上はいないとも思えない、という感じだ。
祈りを捧げることで何か良いことがあるのかもしれない。
どこか、(そんなことはない)と思いながらも、何も良いことがない俺はそれにすがってしまいそうだった。
このままここで生活をしていくわけにもいかない。
正直、ここは気持ちが良い。
風が気持ちいいし、景色がよく見えて爽快だし、一人だけ平日に何もしないでいられているのは愉快だ。が、それだけで上手くいくような世界じゃない。
祈ったことで良くなるような世界でもないかもしれない。
それでも、それに頼ってみるのも良い気がした。
それぐらいしか頼れるものもなかった。
今の俺は、誰よりも空虚だ。中身がなんにもなくて、ひたすらに生きているだけの人間だ。だから、なんでもいいから中身を詰めてほしかった。




