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夜警。
真っ暗闇の中、教会の鐘が異世界の全域に響いた。それは、この街に異常が訪れたことを表しており、住民は慌てて命を守るための行動を取ることになる。
それは悲劇を予感させるのには十分なものだった。
自然と心拍数が跳ね上がるユキ。
この世界はたまに、こうなる時がある。
何も知らない子供では要られないので、どうしても悪いことを考えてしまう。悪いことというのは、具体的に言うと、自分が死ぬこと、そして、自分にとって大事な人が死……
“カラーンカラーン”
鐘の音は不気味に街に響く。
どこか能天気なその音は、この世界の空気を握りしめようとしていた。
当然ながら、苦しいのはユキだけではなかった。それでも、彼は不思議と、いつもの鐘の音よりも今日の鐘の音を恐ろしいと思うのだった。
鐘が鳴らされるのは、正午。
そして、モンスターが街に襲撃してきた時だけだ。
夜である今、その音が鳴っているということは、モンスターの襲撃があったということだ。
街の城壁を越えられる、もしくは壊せるモンスターなどあまりいない。彼が、(どんなモンスターがやってきたのだろうか?)と思っていると、その答え合わせをするかのように、鐘の音とは別に、異世界に別の音が響いた。
“ブオォォォ!!”
その音は、ドラゴンの咆哮だった。
街にドラゴンがやってきた。
それがわかったユキは震える。
自分にはどうすることもできなくて、何をしていいのかわからずに、ただ震えることしかできなかった。
夜の異世界は薄暗い。
電気による明かりはどこまでも強烈なものだった。
それがない、宙に浮かんだ魔法による炎が並んだ街並みは異様な空気だ。
オレンジに照らされた石造りの建物が不気味な雰囲気を出している。
俺は母親と父親と一緒に家の外に出ていた。
どうやらドラゴンは建物ごと中にいる人間を食べてしまうらしい。
なので、冒険者がいる場所まで避難する必要があった。
避難したところで、本当に安全かどうかはわからない。
それでも、今はそれをしなければならない。
まだ子供でしかない俺は、いや、なんでもない俺はこういう時に、誰かを助けることができない。ひたすらに、ドラゴンが誰かに討伐されるのを、もしくは、災いのような存在がそのまま自分が暮らしていた場所に帰るのを祈ることしかできない。
「ユキ。大丈夫だからね」
「うん。俺はそんなに心配してないよ」
「そう。それなら心強いけど、私は心配かも」
「大丈夫だよ。このまま真っ直ぐでいいんだから。そんなに広くないんだから、この街は」
「それもそうかもしれないけどね」
「何かあったら、俺が守るから」
「ありがとう、ユキ」
俺はそんなことを言った。
不安そうな母親を少しでも安心させたかったのだ。
そんな俺を見て、父親は俺たちのことを抱き締める。
父親には、俺が強がっているように見えたのかもしれない。
実際、強がっていた。
街は混乱状態で、俺たち以外にも様々な家族が道を歩いていた。
走ってどこかへ向かっている人もいたが、渋滞のように人の群れの中に捕まえられていたので、基本的には歩いて安全な場所まで向かうしかなかった。
列になりながら歩いていた俺たちの元に、“バサバサ”という、ドラゴンが羽ばたく時の音が聞こえてきた。それによってこの場に悲鳴が上がる。
群衆は狭い空間の中で、逃げる場所を探す。
ある人は近くの建物の中に逃げ込み、ある人は人を押し退けるように前へと進む。
ユキの家族は呆然としていた。
上空にやってきたドラゴンを見て、圧倒されるだけだった。
それはユキにとってもそうだった。
今まで、ファンタジーの世界でしか見たことがなかったそれが、実際に目の前に現れたのだ。それを受け入れるのは難しく、どうしても止まってしまうのだった。
止まった家族の元にドラゴンが降りてくる。
するとそのままの勢いで、地面に衝突するかのように、ユキたちを食おうとした。
咄嗟に、事態を把握した両親がユキを突き飛ばした。
それによって彼は助かった。
が、彼しか助からなかった。
俺は、それからのことをよく覚えていない。
が、周囲にいた人に後から話を聞くと、俺は腰が抜けてしまって動けなくなったらしい。そんな状態だから、食われてもおかしくなかったのだが、ドラゴンはそのままどこかへと飛び立った。
ドラゴンが去ったことで、近くの人たちに助けられた俺はみんなに引っ張られるようにして、冒険者がいる、安全な砦まで辿り着いた。
そこでも俺は泣きじゃくっていたらしい。
親を失くした経験はこの世界に来てから初めて経験した。
だから、それを乗り越えるのには少しばかり時間がかかりそうだった。
俺はアレからずっと、心が空っぽになってしまった気がする。
どうしても、何にも集中することができなかった。
両親を失くしたユキは心を閉ざした。
そのままで生きていけるほど、彼の現実は甘くないので、どこかでそれを治さなければならない。
が、それは一人で治せるような怪我ではなかった。
間違いなく、誰かの助けを借りる必要がある怪我だった。




