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まず、世界は平面である。それは地球のことを言っているのではなくて、俺が暮らしている異世界のことだ。この世界は間違いなく、平面であり、球体ではない。
なぜそう確信できるのかと言うと、普通に、全部見えるからだ。高い建物に登るとこの世界の端から端までが全部見えてしまう。なんだか、作り物みたいな世界だ。
数キロ歩いただけでこの世界は端に辿り着いてしまうだろう。とにかく、俺が思っていた以上に、異世界というのは狭く、息苦しいところだった。ここで生きる。
彼の名前はユキ。
元々は優希という名前だったが、省略してユキになった。
この世界の人間にとってはそっちの方が発音しやすいのだ。
彼が生まれた時に、一番最初に喋った言葉でもある。
世界の端には巨大な滝があった。
数十キロにも及ぶ落差がある滝が世界を囲んでいる。
そこから飛び降りて生きていられるものなどいなかった。
この世界にはモンスターも存在している。
しかし、それから身を守るための城壁が街の外にはある。
なので、基本的には安全だった。
街の周辺には見張りの兵士もいる。なので、基本的には安全なのだが、本当に完全に安全なのかと言えば、そうではない。
モンスターには様々な種類が存在する。
街に近い場所に暮らしているモンスターほど弱い。
遠いモンスターほど強い。
でも、暮らしている場所はとても近い。
弱いモンスターと強いモンスターが暮らしている場所は数百メートルほどしか離れていなかった。なので、ちょっと足を踏み入れると、危険なエリアに行ってしまうことになるのだ。
戦闘をしている中で迷い込むこともある。
それぐらいの距離にモンスターがいた。
迷うのは人間だけでなく、モンスターもそうだ。
狩りをしているモンスターがこっちへやってきてしまうこともある。
「ユキ!ちゃんと学校に行きなさいって!」
「いや、別に勉強しなくても大丈夫なんだって!」
「転生だかなんだか知らないけどね!ちゃんと勉強しないとダメよ!」
俺は学校をサボって、灯台までやってきていた。
学校の授業をサボっている理由はめちゃくちゃシンプルなものだ。
レベルが低すぎて、転生者の俺からしたらあまりにも簡単すぎるのだ。
もうやっていられないほどに簡単なのだった。
ユキはまだ小学校の低学年だった。
なので、掛け算や、右と左などを習わされていた。
そんな日々はもう無理なのだった。
クラスメイトたちのテンションに合わせるのも無理だった。なので、こうして、授業をサボって、灯台でこの世界の端から端までを見るのが日課のようになっていた。
ここにいることなど明白なので、まだ年の若い母親はこの灯台をいつも昇る。それは結構な負担だったので、どうにかして普通の生活をしてほしいと思っていた。それと同時に、自分の子供が天才的であることは彼女にとって誇らしいことだった。
この狭い異世界の中では噂は簡単に広まる。
一部では、神童とも呼ばれていたユキ。
そんな噂は彼の耳にも届いていた。
ユキはなんだか勝手に自己顕示欲が満たされていた。
でも、不安でもありますよ。
だって、大人になったら俺は普通の人間になるだけですからね。
そういうことに対して、危機感を覚える俺もいるのだった。が、だからといって努力をするのはあまり自分には向いていなかった。
塩梅というのがあるのだ。
あまりにも大人すぎることをしていてはダメだ。
両親にも、周囲の人間にも俺が転生者であることは伝えている。
しかし、どこまで本気にしてもらっているのかはわからない。
子供が大人びたことをしようとしていると勘違いされているかもしれない。それは、なんだかちょっと恥ずかしいことなのだった。
こんな狭い世界で噂が広まったらもう終わりだ。
そういう人物として生きていくことになる。
そんなのは嫌だ。
めちゃくちゃ嫌だった。
「俺は、普通の生活が向いてないんだって!」
「そんなこと言っててもアンタ。どうせ普通の生活することになるんだから、今の内から普通に慣れておかないといけないでしょ?そんなこと言ってて働けるの!?どうなの!?無理に決まってるじゃない!」
「そんなの低学年の子供に言うことじゃないよ!そりゃそうだけど!」
「転生者なんでしょ?それならこれぐらいのことは理解できるはずじゃない!」
「都合のいい時だけはそれを利用して。それなら俺が学校に行けない理由も尊重してくれよ!」
「いいから学校行きなさいって!」
ユキは困っていた。
このまま生きていっても何にも成れないと思っていた。
が、まだ若いのでいくらでもなんとでもなるとも思っていた。
せっかく転生者として生まれたのであれば、そのアドバンテージをフル活用したいと思っている彼だったが、それのために具体的な行動を取ることはなかった。
世界が狭すぎて冒険にワクワクすることもなかった。
見えている世界を冒険してどうする?という気持ちもあったし、モンスターが入り乱れていることに不安も感じていた。
それでも、やがては冒険者となる。
彼にはそういう運命があった。
一旦終了です




