【113】権能進化
遅々として物語が進展しないことをお詫び申し上げます……m(_ _)m
この拳はイズミのために。
キレイごとが大好きな、
笑っちまうほど愚かで愛おしい。
そんな彼女の仲間を守るために。
この牙もイズミのために。
道具がなければ自然に立ち向かうこともできない、
儚いほど脆く、弱々しいほど愛くるしいと感じる、
そんな彼女の仲間を守るために。
この足も背中も、脳みそすらも。
力が入る――俺の血が通うすべての肉と努力は、
ただひとりの主と、その仲間のために存在する。
ひとりはみんなのために。
みんなはひとりのために。
「はっ……嫌いじゃねえ」
だから、ブラッドフォード。
もしも、俺がおっ死んだら。
――次はテメェの番だぜ。
「――ッ」
人形が迫りくる。
何度目かもわからない、
ゲイブの命を刈り取るために。
「もうあなたを人形にする気はないわ。
真綿の重みで圧死させるの。
気持ちの悪いゴブリンには、
いい最期じゃなくて!?」
それは果たして、動力モーターでもついているのかと
疑いたくなるほどの速さで迫りくる。もはや、
人でも人形でもない――真綿で作られた子鬼。
魔女の悪意に触れ、鬼にされてしまった人の怒りが、
今――人形の皮を被ったまま、ゲイブに襲いかかる。
「……まあ」
ゲイブはなんてことはないように、
ぐっと肩を押し上げた。
――準備運動のように。
「そう簡単に死んでやる気はねえがな」
その反動で、
トン。
と。
ただ一回、
ゲイブが地面を殴った。
すると『人形』の動きが、
嘘のように止まる。
ぴたりと静止する。
直立でぴくりともせず、
もちろん表情も変えず、
床を殴ったゲイブを――
そのボタンの瞳で見つめていた。
「……なにをしたの?」
信じられないような事象に対し、
純粋な興味が含まれた声音で
『東の魔女』は紡いだ。
「……対話、したんだよ」
顔を上げたゲイブは、
まっさらな顔色をしていた。
青白い顔に、不敵な笑みを
浮かべながら少年は言う。
「ここはテメェの権能空間だ……。
人形に魔力を供給できる仕組みに、
できてんだろ……? だから、
それを利用してやったまでだ」
くつくつと不敵に笑みを紡ぎながら、
ゲイブは魔女の疑問に答えてやった。
「ただ一言、そこの人形たちに問うたんだよ。
――どうしたい? どうなりたい? ってな。
そしたらな……。こう答えてくれたよ」
刹那、
ポン! と、
人形を形作っていた綿が弾ける。
「自由になりたいって」
その音はすべての人形から聞こえ、
中からは人に匂いがあふれ始めた。
ポップコーンのように連鎖し、
宙に舞っていく、真綿の大群。
それは魔女とゲイブの視界を、
真っ白に覆っていく。
――それはまるで、
呪われていたばかりの過去を漂白していくように。
そしてそこから上がったのは、子供の産声だった。
「ぅおぎゃぁあぁあぁぁあ」!
ちゃんと、人の形をした『人間』たちが――そこにいた。
「……うそでしょ」
青ざめた表情でひとりつぶやく魔女は、
『人形』が『人間』に戻ったことに、
まだ納得がいっていないようだった。
「……戻ったのね? 私たち」
「やった……開放されたぞ!」
人形の殻を破った大勢の人たちは、
その呪いから説かれたことを各々
喜んでいる。
ゲイブはそれを満足そうに
眺めて、人差し指を立てた。
「んで、俺はこう言ったんだ。
――俺に忠誠を誓え、人間共。
そうすればいつも助けてやる。
どんなときでも、命をかけて」
ゲイブは産声をあげた赤ん坊を
真綿の中からひっぱり出し、
その両腕で抱いてやった。
「……いつ見ても人間の子どもってのは、
猿の魔獣みたいでブッサイクだなあ、オイ」
すると不思議なことに、赤ん坊はすっと、
泣き止んだのである。
「でも嫌いじゃねえ。
――安心しろよ坊主。
テメェが馬鹿みてぇになく場所は、
この俺サマが作ってやるからよォ」
彼は小指と小指をからませて、
力強く宣言した。
「約束だぜ」
なんかいいことないかな〜




