【110】ロードの代理
お久しぶりです、SHINONです。
最近はほんとうにポケモンと小説が生きがいです。
物語はまたグロテスクな回に戻ります。はい。
苦手な方はもうしわけありません……。
では、ゲイブが東の魔女に打ち負かされているところから。
――…無理だ。
眼前に、少女らしからぬ哄笑を撒き
散らす『東の魔女』をみすえながら、
ゲイブは肩を落として絶望していた。
俺はコイツらを……。人形に変えられた人間たちを殴ることが……、
……倒す資格がねえ。
しかし。
わらわらと、
わらわらと、
そんなゲイブの懊悩を
おいて人形たちは迫ってくる。
――人間は殺さない。
それは、ゲイブが己に立てた誓いだった。
主と親友の同族を殺めることは、
敬愛する人たちの顔にドロを塗ることだと思った。
……だめだ。
それだけはできない。
たとえこの命が脅かされようと、
主の曇った顔を見たくない。
友に失望した目を向けられたくない。
ロードにすらなれなかった役立たずな
俺の生き甲斐を、失いたくない……!
だからもう、
無理なんだ。
ゲイブはもう戦士として立てない。
この巨悪に『人形』に変えられただけの人間を、
さっきまで渾身の力で殴り、殺す気で迎撃した。
それでも、
命を吸い取られた『人形』は、
歩みをとどめることを知らない。
痛みにひるむという概念がない。
もうやめさせてくれ、これ以上―……。
人のために磨いたこの拳で、
罪を重ねさせないでくれ……!
「……あら。抵抗しないの?」
交戦の意思がないゲイブに、東の魔女はつまらなそうに問いかける。
「抵抗しないのなら、おわかりよね。これからどうなるか」
魔女がその細い指ですっと、ゲイブの背後にある歯車のスキマを示す。
「あなたも落ちれば、この人たちと同じ仕様のお人形になるのよ?
痛覚や空腹、飢餓といった負の感情ばかりが敏感になって、
私の奴隷となってまうのだけれど。それでもよろしくて?」
ゲイブは、すぐに答えられずに空をあおいだ。
そこに地上にあった青い光景はどこにもない。
そこにあるのは、灰色の歯車が蠢く天井だ。
まるで神に嘆くことすら許されないような、
絶望的な光景に―……ゲイブ・ザッハークは何を思うのか。
「……どうでもいい。好きにしろ」
「そう。じゃあ、そうさせてもらうわ」
呆れた声だった。
つまらないショーを見せられた後のような、
抑揚のかけらもないつまらない声だった。
「――ッ」
人形たちが、迫る。
おのれの意思などかなぐり捨て、
ただ偽りの主従関係を優先して。
ゲイブは、祈った。
目をつむって。
イズミに、イルガスに……、
共に戦ってきた仲間たちに。
そして――。
すまねえ、
ブラッドフォード。
俺は先に逝く。
あと数秒もしないうちに、
ゲイブの体に人形たちの攻撃が襲いかかるだろう。
あんなモフモフな体躯に殴られたところで、
ダメージはほとんどないだろうが。
……おかしい。
いつまでたっても衝撃が来ない。
不信に思って目を開けて見ると―……。
「――諦めてるなよ、友よ」
ブラッドがいた。置いてきてしまったはずの、この空間に転送されなかったはずの、別れを主人より惜しんだ『人間』の友の姿が、そこにいた。それは、とても気高い背中だった。多くの言葉は語らず、しかし誰よりも熱く、尊く――ゲイブにその諦めかけていた心を糾弾していた。
「立て。男だろ」
「……無理だ」
「何が無理だ」
「俺は人を殺せない」
「俺だって殺したくはない」
「殺さなければ、前に進めないんだ。
不器用な俺には、こんな折れかけた拳じゃあ、
呪われた命を優しく救い出すことなんて……」
「……確かにそうかもしれない。
でも…――自分を殺すのならば、
簡単なんじゃないか? ゲイブ」
「――ッ」
「カラを破れよ、ゲイブ・ザッハーク。
弱かった今日までの、この瞬間までの
自分を」
ブラッドは、崩れかけたゲイブに手を差し伸べて。
「ぶち壊せ、ゴブリン・ロード代理!」




