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【90】ゴーディと精霊の力


「イズミさん」


「? はい」


東への出立を間際にして、

ショウコさんが私に声を

かけてきた。


「――ゴーディとのお話の場を、

まだ設けていませんでしたね」


そこで、自分がすっかりと彼の

存在を失念していたことに気づく。


会議中もほとんど黙っていたし、

彼の暗いオーラは、なんか、

他者をよせつけない呪いでも

かかっているんじゃないかと

思ってしまうほどなのだ。


……でも、それでも、私は

彼が私の家臣につけた傷を

忘れたわけじゃない。


その落とし前は、きっちりつけて

もらわなければ。


そして、まだ明らかになっていない

『泥人形』の存在も。


また敵対するかもしれないゴーディの

情報、手に入れておくに越した

ことはないだろう。


「そう、でしたね」


いろいろな激情がまざって、なんだか

パっとしない返事をしてしまった私。


しかしショウコさんは気分を害した

様子もなく。


「ゴーディ。お説教の時間ですよ」


と、もと家臣である彼を呼び寄せた。


――私たち、四方偉人しか立ち入る

ことを許されない秘密の地下書庫に。



「……すっげー」


私も、その書庫に入ったときは

そんな感想しか出てこなかった。


シャンデリアのきらびやかな

照明の下で軒を連ねる本棚と、

床にしいてある赤いシックな

絨毯が部屋全体の優美さを

際立たせていた。


「図書館と思わないほうがいいわよ、イズミさん。

ここは、『南』の権力者のなかでも極限られた

人間――四方偉人とその家臣でなければ中に

入ることもできない場所だもの。そして、

そういう場所には得てして――国民には

見せられない国の秘密とかが保管されて

いるものでしょう?」


ニヤぁ、となんだか

ちょっと怖い顔を

するショウコさん。


こんな感じで、もう何年も支配者を

やっているであろうショウコさんも、

実はこれでも私とそんなに年が

違わないというのだから驚きだ。


――そして、そんな富と権力を

象徴したような書庫に案内されて

から十分後。そこで出立の準備や

ら最終的な打ち合わせやらをしていると、

暗いを顔をしたゴーディが入ってきた。


それが、見方によっては親に叱られるの

を恐れる子供のような表情にも見える。


「……俺に、何の用ですか。賢者さま」


「自分の胸に聞いてみなさい」


と、冷たい口調で返すショウコさん。


「あなたは私と仲違いしてからこの

書庫を飛び出し、ここで得た知識で

泥人形を作り上げた。そしてそれは、

私が禁止した禁忌だと知っていながら」


「……賢者さまと仲違いしたのは僕だけじゃないだろ。

門番だった兵士、泥人形の制作に加担した科学者たち、

あなたに追放された人間が多くいたから、

僕がそれをとりまとめて『歪んだ守護者』

を結成したんだ。――僕は、あなたに見

放された人々を、この手で救って回った

んだぞ? ただ、それだけなのに―……」


「それが……どうしてイズミさんたちを

襲った理由になるわけなの? ゴーディ」


「復讐だよ。四方偉人の一角である『北の魔王』を

殺すことができれば、あんたがずっと考えてた

協定やらもできなくなると思った。……まあ、

結果的に可決されたから無意味だったけどな」


「あなたの泥人形の再生能力は、ノイリーたち

精霊が持つ力は汎用させたものなんでしょう?

――イズミさんたち、歴史の重要人物が下手な

場面で命を落とさないように、私が精霊たちに

吹き込んでいた権能……。まさか、あなたに

悪用されるなんて思っても見なかったけど」


滔々と私が知らない当時の話を進めていく二人。


私もよくは知らないが、断片的な

二人の関係なら理解している。


――何年か前、まだゴーディがショウコさんの

家臣だったころ、南の王国にはショウコさんが

禁忌と指定した魔術を媒介に何かを策略する

組織が裏で暗躍を開始していたらしい。


その首謀者たるゴーディと、彼に協力した

科学者や兵士たちは、南から追放され、

『歪んだ守護者』に成り果てたた……。


そこまでは知っていたが、彼が裏で

まおうの暗殺計画を練っていたことまでは

ショウコさんも知らなかったようだ。


相も変わらず子供のようにすね続けるゴーディ。


母親のような剣幕で彼をいさめるショウコさん。


論点は、平行線を移動しているだけであった。

不毛な話し合いが続くと思った直後、しかし

ゴーディの口から耳を疑う言葉が……。


「……そんなに俺を否定して、いいんですかね

賢者さま。もし泥人形のシステムを削除すれば、

――また北の魔王が、命を落とす事になるんだぞ」



「その腕章を見るに、キズル村に駐屯している

ゴブリンだと見受ける。ブラッドフォードって

いう男を知らねえか?」


マッティアの正面に座る男――屈強な体躯をした

グルドは、爆ぜる焚き火に低い声音をなじませながら

言った。マッティアも、その名前には聞き覚えがある。


「ああ、今も殿下の陣営にいるぜ。

それも幹部と同等の扱いでな……」


実力的には村一番の剣士らしいが、

まあジヲォンの爺さんには遠く

及ばないくらいの実力だろう。


そんな一介の剣士をなぜ殿下は

あそこまで優遇しているのか

知らないが、まあ彼の疑問には

紳士に答えた。


なら、次は俺が問いかける番だろう。


「んで、そのブラッドがどうかしたかよ」


すると、グルドは胸いっぱいに息を吐き出して。


「……たっくよお。心配かけるだけかけておいて、

今じゃあ『北の魔王』のお膝元たぁ。いいご身分

じゃねえか、なあ嬢ちゃん」


「嬢ちゃん言うなし。……まあ、何事もなくて

よかったわよ。義理の妹としても、魔王さまと

一緒なら大丈夫でしょうしね」


「……なあ、あんたら一体」


「おっと、申し遅れて悪かった。

俺はブラッドと剣を学んだよしみで、

となりの嬢ちゃんは、やつの義理の

妹だ」


ふんっ、と終始不機嫌に見えるこのメイドっ娘は、

どうやらやつの妹であるらしい。

んで、話をかいつまんで聞くと、

この二人は貧相なキズル村から、

確かな腕を買われて巣立った

冒険者らしく、クエストにも

一旦収集がついたので村に

彼の様子を見に戻ろうと

したらしい。


……んで、俺に出会ったと。


俺、運悪っ。


「まあ、やつの消息が分かったなら儲けもんだぜ。

一回は捨てちまった村に顔出すのも、忍びないしな」


グルドは口癖らしい「ったくよう」を使いまわして

安堵を表し、義理の妹やらも口は悪いが心の中では

かなりほっとしているように見える。


――あまり人間の言葉を理解できないであろうガーも、

なんとなく場のいい感じになった空気を感じで

「ガー、ガ〜」と嬉しそうにないていた。


まあ、本題はこっからなんだがな。


「……なあ。あんたらに負けて、焚き火にまで

参加させてもらってる俺が言うのもなんだけどよ」


ん? と意識を向けたグルドに、弱い俺は

意を決して提案した。


「俺たちはこれから、東に行くんだ。

あんたらも、ついてきちゃあくれねえか?」


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