【85】二人の勇者
おひさしぶりでーす(・∀・)
あとがきの方にもマッティアくん物語の続きもあります。
「そんじゃ――さっさと終わらせよう」
実の娘に向けられていると思えないほど、
洗練――かつ、殺意のこもった剣筋だ。
その剣先は『紫の傷跡』を広げようと、
無慈悲にも牙を向き――。
「……させるかよ」
ひとりの青年――穂刈誠太に、
弾かれていた。
「おいおい……。さっきまで俺に
頭ふんずけられてお寝んねしてた
んじゃなかったっけか?」
「……」
穂刈の現況は芳しくない。
頭から血を流し、その一筋が
目に入って視界を塞いでいる。
――おまけに、ここ数日ばかり悔恨に
打たれていた影響で、ちっとも
ここ数週間は剣を握っていない。
今の穂刈誠太に、ブラッドフォードと
渡り合っていたときの闘志も意思もない。
ただ、大切な少女が傷つけられそうに
なっている。それを守りたい一心で、
気力だけで動いている人形だ。
「えー? 惨めなもんだよなあ、西の勇者よ」
敵対する雪宮良平は嘲笑を浮かべ、無理にでも
立とうとする誠太の心を削るような声を出す。
「その称号、本当は俺のモンなんだぜぇ?
俺が失踪扱いになってるから、それが急遽
西北戦争で名を挙げたお前がもってるわけだが……。
――お前には、相応しくねえな」
この男の言動は、間違ってはいなかった。
現に、良平がわけあってトータウスの
禁書庫にこもっていなければ、その
称号はいつまでも彼のモノだった。
「剣を引け。俺は、ヒヨコなお前ごときが対抗できるほど
柔い相手じゃねえ。時代から嫌われた――不遇の勇者が」
その刹那、
良平が跳躍。
ターゲットを変更し、
剣の矛先を誠太へと向けた。
「そこで眠れ、永遠に――”努力の剣”」
それは、『ヒューマン』として転生した
雪宮良平が習得していたチート能力の総称。
その能力は――『努力した分だけ、確実に
強くなる剣』という内容だった。
努力は報われないときだってある。
人生を生きていれば、誰だって理不尽な
壁に進路を阻まれるときだってある。
でも、この剣だけは決して止まらない。
立ちふさがる理不尽を切り伏せるまで、
”努力”が”成果”として受け入れられる、
その時まで――この剣は決して
折れない、
止まらない、
朽ちはしない。
それが雪宮良平の習得した権能――『努力の剣』だった。
そして今、三十年の軌跡を努力に換算した膨大な
エネルギーが刃となり、剣となり、穂刈誠太を
穿かんと襲いかかる!
「(……ああ)」
――誠太はその剣先を、達観した
思いで受け止めようとしていた。
「(いい、人生だった)」
日本では普通に恋をして、
異世界では仲間に恵まれて。
ちょっとショックなことは
あったけど、もうどうでもいいや。
――ごめん、キサラギ。
君を迎えに、行ってあげられなくて。
「じゃあな」
”努力の剣”が、ただ怠惰を切り裂いていった。
――目が覚めると、目の前に冒険者がいた。
「なっ、なんだテメェら!」
焚き火をたいて鎮座しているふたりの
冒険者。まさか、焼いて食うわけじゃ
ないよな? 俺、ゴブリンだよ?
「おー。目が覚めたか」
そのうち、がっしりとした
体躯の男の冒険者が振り返る。
身構えようとするが、手足が
縛られていることに気づく。
――俺を、倒した男だ。
「……俺を、どうする気だ」
「――どうもしませんよー。
ただ、暴れられても困るんで
縛ってるだけですよ。ザコの
ゴブリンさんっ?」
答えたのは、となりの緑の編み髪の
女だった。なんだか、すごく耳に
つく物言いだ。
もう一回獣化できたら噛み殺したろか。
「……ったくよお。そうやってすぐまた
煽るようなことを言う。すまんな兄ちゃん。
こいつ、根が腐っていやがるんだ」
「まったくだな。娘の教育くらい
ちゃんとしとけってんだ」
「……俺って、そんなに
老けて見えるのか……。
……ったくよお。困った
もんだぜ」
「ちょっとお!? 誰が
こんなオジサンの娘って?
冗談じゃないんですケド!」
「お前はお前でなんなんだよウザってえな……」
この女が一番苦手なタイプかもしれん。
「……ったくよお。説明する前に勝手に
話を転がすな嬢ちゃん」
「だから嬢ちゃん言うなあ!?」
もうごたごたである。
俺は、こんな奴らに捕まったのか?
屈辱だった。
「……おっと、放っといて悪かったな
兄ちゃん。ちょっと訊きてえことが
あるんだが……」
男は、少し冷静になってから
口を開いて。
「その腕章を見て、キズル村に駐屯している
ゴブリンだと見受ける。ブラッドフォードって
いう男を知らねえか?」




