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【86】誰が為に

最近、大賞応募用の作品を書いててまったくこっちを

書く余力がなくてですね〜……。


”努力の剣”が、ただ穂刈誠太という怠惰を切り伏せていく。


「……ぐっ」


「――やっぱ、一撃で切り捨てるのはやめだ。

勇者っぽくはないが、散々にいたぶってから

殺してやる。俺の娘を、エマをたぶらかした

罰だと思え。不遇の勇者よ」


寝かせた剣で、穂刈はひたすら殴られ続けた。

頬を、肩を、腹を。青あざができて充血する

まで、幾度となくその剣の暴力を受け入れた。


「――……ッ」


それを、恐怖から傍観することしかできない

エマはなんてやるせない気分だっただろう。


かつて愛していた――…今でも思いを寄せている

青年が、声も上げずに、実父に殴られ続けている

その様を。


少女は、ただ滂沱の涙を流しながら傍観する

ことしかできない。


「(……痛い)」


もと勇者の猛威を受けながらも、

穂刈の思考は正常だった。


彼はもう、西北戦争から帰還したその時から、

心を手放していたのだ。


どうして自分は、この世界に来たのだろう。


どこかにいる、恋人を――キサラギを見つけ出す

ためだ。


約束したんだ。必ず君を見つけて、救い出すと。


でも、どこから君を探し出せばいい?

何から君を救い出せばいい?


俺はなんのために戦っている?


何のために人を殺す?


誰がために――勇者の荷を背負い続ける?


考えだしたら、思考が止まらなかった。

頭の中が思考の濁流に飲まれて、

それ以外何も考えられなくなる。


昔の約束に――過ぎ去ったはずの恋に、

がんじがらめになっている自分が

情けなくて仕方がなかった。


あれは、夢たったのかもしれない。


キサラギなんて人物は本当は

いなくて、俺はただ、自分と

意思疎通ができる『友』が

欲しかっただけなのかもしれない。


この世界では、それができた。


エマも、ソフィアも、クライスも、

出会った人たちは皆いい子だった。


なのに、自分はその信頼を裏切った。


ソフィアは自分のせいでまだ病床に伏せ、

クライスは愛想を尽かして単独行動を

し始めた。


その全ては、過去の妄執に囚われた

ホカリ・セイタがために――。


「(俺なんて、消えた方がいいんだ)」


消してくれればいい。俺という存在を。


この世界に転生してしまった『不遇の勇者』を、

真の勇者の手で葬ってくれ。


「そろそろ終いだぜ、不遇の勇者」


寝かされていた刃が、すっと

直上に構えられる。


刺突の構えだ。


あれに貫かれれば、全てが終わる。


この世界に来た記憶も、キサラギ・ショウコとの

思い出も、ぜんぶ泡沫の泡になる。


ユキミヤ・エマと出会い、救われた

その記憶も――…………。


「(――嫌だ)」


漠然と、そう思った。


これと言った理由はない。

ないはずだ。


生きたい理由なんて、もうこの世界には

ないはずのに。


どうしてだろう――。


「セイタぁ……。セイタぁ……っ!」


――目の前で泣く少女を放っていたら、

死んでも死にきれないと思ったのは。



次回、覚醒の勇者

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