【AS】マッティア冒険記〜いつか親になる男の物語〜①
やっぱり3話分となると文字数がなかなか多くなりますねw
ちなみに【AS】とはアナザーストーリーの略です。
◇
どんな人間にも――ドラゴンにも、ゴブリンにも、住処が必要だ。
安心できて、楽しくて、平凡で幸せな毎日を過ごせる。
そんな拠り所が『命』には必要なんだ。
なあ、そうだろう? 相棒。
◇
――南の賢者の住処であり、
南の王都フレドリーに向かう
イズミ一行。とは、対象的に。
キズル村にお留守番し、
村の護衛を偉大な主から
任されたゴブリンがいた。
「おーいマッティア。ガーちゃん、餌、食べてるか?」
「おー吐くほど食ってやがる」
――果たして、どれほどの読者様が
コイツの存在を覚えているだろうか。
家畜小屋であぐらをかいて座り、
一匹の子ドラゴンが餌を食んでいるのを
淡々と見つめて、ため息を吐く碧眼の彼。
彼の名は、マッティア・フォン・サイガル。
両親を人間の冒険者に殺され、
ゴブリン里ではゲイブさん直属の部下で、
最近まで人間を憎んでいた、
『ハーフゴブリン』である。
来るべき西との決戦では、
ホカリ・セイタに開幕そうそう
ボコられていた、アイツである。
あげく、巨大化したガーちゃんに蘇生された、
特に活躍もしなかった、言わば☆モブ☆である。
「ガ〜。が〜」
そんな男の不甲斐なさを悩む
葛藤も知らず、ガーちゃんは
ただ笑顔で餌を食む。
食みまくる。
「……お前はけっこう、
活躍してたもんなあ」
この男、ついに子ドラゴンにまで
愚痴をもらし初めたまである。
このドラゴンは、ちゃんとイズミ殿下の
使役獣として役に立っていた。
俺は違う。
開幕早々、誰かもわからない
剣士にやられちまったから……。
――念のため、コイツの存在も説明しておこう。
こっからの語り部は……うん? 語り部?
なんだそれ……まあいいか(カンペ見る)
えー、こっからの語り部は俺が
やっていくから、よろしくな。
こいつの名は、ガーちゃん。
我らが主――、『北の魔王』のペットである。
「ガ〜。がー」
こいつは体内に魔力をためる器を持っており、
イズミのチート的な魔力を蓄積して巨大化し、
ゴブリン陣営唯一のヒール能力、
『癒やしの吐息』を持つ龍だ。
……先の大戦では、
俺もこいつに
助けられた。
こいつ――ガーちゃんは、
俺たち――ゴブリンの里出身の者たちがここ、
キズル村に着任した時からなぜか居たのだ。
村の奴らに聞くぶんには、村の外にあった
卵から突如として孵化したらしい。
謎だ。なぜこんな貧民街の居住区外に
超獣の卵があるのか、こいつの食った
飯はこの小さい体のどこに消えているのか。
謎である。真っ黒な見た目どおり、
すべてが闇に包まれている。
「……はあ、いいよなお前は」
生まれた時から住処があって、
腹いっぱい食うものがある。
俺はなかったよ、ガー。
□
ハーフゴブリンとして、
人間に囲まれて育った。
忌み嫌われ、石を投げられ、
あげく――両親は
冒険者に殺された。
まあ、俺に留まらず。
『ハーフ』とつく種族はさまざまな
要因から嫌われる運命にあるらしい。
誰かを嫌うことを望んでいる人間なんて、
きっといないのに。望んでもいないのに、
生きたその時から因果を背負わされ――
それでも俺は、今、ここで暮らしている。
□
こいつはいいよな。
親が近くにいなくても、大切な人が
いないから失わないし、悲しまない。
誰にも脅かされない平穏な生活がある。
それだけで充分じゃないか。
「ガ〜。がー」
「……それしか言えんのか、お前は」
こいつには借りがある。
こいつの立場は羨ましいことこの上ないが、
それとは別に、戦場での借りが大きいのだ。
……だから、まあ。
飯当番くらい担当してやるよ。
俺がやんないと、他のやつに
食い過ぎだって取り上げられるもんな?
「ガ〜。がー」
――この時のマッティアは知らなかった。
ガーがマッティアを親と認識し、
親愛をよせていることに。
「……お前、飯あげすぎじゃね?」
こいつは、見回り警備をしている、
キズル村の駐屯ゴブリンの一人だ。
――このキズル村には、
ゴブリンと人間が共存している。
『人間化』の薬で人間の姿をした
ゴブリンは腕章をつけ、
人間は無腕章である。
こいつは腕章持ち、
つまりは仲間だ。
「いいんだよ、これくらいで。
寝る子と食う子は育つんだよ」
「そうかよ。ところでさ」
興味もなさそうに、
腕章の男が言った。
「この前、その龍の出自が気になったから、
ちょっとだけ自己流に調べてみたんだよ」
「暇だな、お前も。ちゃんと護衛しろ」
「護るもんもねえのにかよー」と、笑う。
そうなのだ。
護衛を仰せつかったはいいが、
ここでの生活は暇だ。
なんせ敵がいない。
食料の調達も、人間とゴブリンで
完璧に管理されているから、
皮肉なことに平和なのだ。
「で、話を戻すけどさ」
「けっきょく分からずじまいだった、だろ?」
「いーや、違うんだなこれが」
ちっちっちっ、と腕章持ちは指を降り。
「――あいつが孵化したときの殻から
割り出したんだが、それと酷似した
殻が、東方の平原地帯にあるんだよ」
「へえ」
どうせ何かの間違いだろ。
正直、おれも大して興味は
なかったが、次に続く言葉には
それほどの魅力があったかもな。
「――そこに、俺たちがお世話になってる
『人間化』の薬を調合するためのアイテムを
落とすモンスターがいるらしい」
◇
……えーと、まずは状況説明からか。
……あーめんどくせえなチクショウ。
「ガ〜。が〜」
「あーもう、分かったから黙ってろ!
モンスターに見つかったらどうする」
今の俺は、しげみにこそこそと
隠れながら『東』を目指していた。
なんで、って? そりゃお前、あれだよ。
それがこいつの故郷で? 『人間化』の
薬の材料になるアイテムをドロップする
モンスターがいて? そんだけ聞いたら、
黙ってるわけにもいかねえだろ。そんな
面白そうな暇つぶし。
ってなわけで、余分な戦闘をひかえるために、
俺は安全に『東』までの道を辿ってるって
ワケさ。
……なんだよ。べっ、別にモンスターとか
冒険者とかが怖いってワケじゃねえし!?
西との戦いがトラウマになってるとかねえし?
そもそも俺は、強いし?
戦場でも生き残ったし?
「ガー。が〜」
「あーもう分かったよ! あそこから生きて帰れたのは
全部おまえの治癒ブレスのおかげだよ! だから静かに
してくれ、このままじゃ本当に何かとエンカウント……」
「――あれ? あそこにいるのって、ゴブリンじゃね?」
「ホントだ。それになんか黒竜連れてる。狩っちゃお!」
ほらな……。
言っただろ?
◇
ガサガサ!と、草むらをかき分けて近づいてくる人間たち。
やれやれ……。人間は苦手なんだよな、勘弁してくれよ。
それも冒険者と来たモンだ。ぶっちゃけ、身がすくむ。
「ガー。が~」
「……はんっ。安心しろよ。ガキの
お前に心配されるほど弱くはねえさ」
ただ、俺のレベルで出せる権能は
たかが知れてるのだ。同胞曰く、
ゲイブ様の劣化版と
よく言われる。
ただ、こんな状況で出し惜しみは
してらんねえ。どんなショボ権能
だって勝利さえすれば勝ちなんだ。
「気張れよ、俺―……!」
◇
「ねえ、グルド」
「あん?」
「この辺って確か、最近『北の魔王』が
新しく玉座についた土地だったよねえ?」
女の冒険者が、となりの屈強そうな
男に向かって問いかける。
「……狩りの最中はきいつけろって、
何回も言ってんだろうが嬢ちゃんよ」
「だってー。気になったんだもん。
あー。あと、嬢ちゃんじゃなくて、
マルマ。ちゃんと名前で呼んで〜」
「……ったく。相手がゴブリンだからって、
油断しすぎだろうが。ったくよお……」
ふたりの冒険者、マルマとグルドは
即席の冒険者パーティである。
ふたりともキズル村の出身で、
グルドは傭兵、マルマはメイドという
身分を持ち――まあ悪い言い方を
すれば、貧しい村を見限った、
という言い方もできるのだが。
「なんで嬢ちゃんみたいな戦いの
素人と組まされちまったんだ……」
「ぶ〜。そんな言い方しなくたって、
いいジャン。私だってそこそこ
役に立つんだもんっ」
「そうかいそうかい。
じゃあ、そこの茂みに
隠れてるゴブリンを
倒して証明してくれ」
「まっかせてよグルドのオジサン!」
「おらぁ、まだ25だ」
なぜメイドのマルマが
冒険者をしているのか。
その話は後々になるが、
冒険に出られるほど、腕が確か
なのも確かである。
迷いや憂いなく茂みまで歩みより、
標的がいると思われる草むらに
顔をつっこみ―……。
「――よお」
後悔、した。
そこにいたのは、ゴブリンなんかではなく。
「俺さまに歯向かおうってのは
――ドコのどいつだコラアァ!」
虎だった。
牙をむき出しにし、
滴る唾液を隠そうともせず、
ただ殺意に血走った眼光が、
マルマを絆すように釘付けにしていた。
マッティア・フォン・サイガル――権能名――『虎の威を借る狐』
その能力は、一定時間――自分のレベルを偽り、
それに応じたモンスターに变化できる能力だ。
ちなみに、効果は10秒。レベル上限は40。
すなわち、虎が限界である。
ドラゴン? 無理(無慈悲)。
「ひっ……ひぃわわわー!」
「あん? どうした嬢ちゃん……ってオイ、
なんだありゃ。ゴブリンじゃなかったのか」
「どうしてそんな落ち着いてられるの!?
ねえ!? 逃げようよ食べられちゃうよ!」
「……ったくよお。まあまてまて。
さっきまでそこに居たのは、
確実にゴブリンだったんだ。
ってぇことは、つまりだ」
元傭兵のグルドは虎マッティアに近づき、
その牙を恐れるはずもなく――。
「ふん!」
思いきり殴って、へし折った。
牙から力が抜けたように虎の
体躯はしぼんで行き、まるで
割れた風船のようになさけない
マッティアが、
姿を表した。
「虚仮威しってことだろ?」
「……ガー。が〜」
これにはさすがのガーも、
嘆息するしかなかったとさ。
《続く》
さて、頑張って本編につなげなくては……(๑•̀ㅂ•́)و✧




