DAY 4-2 軽くする
最初に残されたのは、衣服だった。
替えの外套。寝るときに敷く厚い布。塔へ着いてから使うつもりだった新しい衣。
「持つのは、着ているものと、夜に使う一枚だ」
テオが言う。
「濡れたときの替えは」
「濡れない場所まで行くために置いていく」
男は手にしていた衣を地面へ下ろした。
椀は四人で一つに減らした。鍋も減らした。
縫い針や刃物、火を起こす道具は残す。食料と水、傷を洗う布も必要だった。
何を置くかが決まるたび、残った荷は別の者の背へ移された。
担架を運ぶ者の荷も、歩ける者が分けて持つことになる。
置いていけるものは、すぐに少なくなった。
*
三人が、背負っていた包みを地面へ並べた。
油を染み込ませた布で幾重にも覆われ、外側には白い紐が結ばれている。
塔へ着いたとき、最初に精霊へ捧げるための供物だった。
いくつあれば四十人を受け入れてもらえるのかは、誰にも分からない。谷の神託者は、念のため三つを持たせていた。
「これは置けません」
包みを運んでいた女が言った。
「これを持たずに塔へ着けば、精霊が私たちを受け入れないかもしれません」
「三つすべてが必要だと、神託にあったのか」
「いいえ」
「一つで足りないとも言われていない」
「だから、決められないのです」
女は包みを抱き寄せた。
中のものが塔で必要とされるかは、人には分からない。
それでも、何も捧げずに新しい土地へ入ることを、谷の者たちは恐れていた。
「一つだけ持っていきます」
エナが言った。
「足りなかったら、どうするのですか」
「一つで足りるとは、誰にも言えません」
エナは三つの包みを見た。
「三つあれば受け入れられるとも、確かめられません」
女は白い紐を握った。
「では、何を頼りに選ぶのですか」
「塔へ着いたあとのために持ってきたものを、塔へ着くために置いていきます」
女はしばらく動かなかった。
やがて中央の一つを選ぶ。
「これを持っていきます」
残る二つを岩の下へ寄せた。
外側の布が地面へ直接触れないよう、その下へ脱いだ衣を敷く。
捨てるのではなく、供えるような手つきだった。
周囲の者たちも、自分の荷へ手を伸ばした。
大切でないものから置くのではない。
大切なものの中から、持っていくものを選んでいた。
*
荷を分ける者たちから少し離れ、テオとリツは担架を作った。
二本の細い木を並べる。
長さは足りるが、一本は中央がわずかに曲がっていた。
「これでは折れます」
「曲がった側を上へ向けろ。重さを下から受けなければ、しばらくはもつ」
外套を二枚、木の間へ通す。
地面へ置いていくことになった厚い敷き布も重ねた。
エナが布を押さえ、リツが縄を巻く。
「そこは、もう一度返した方が緩みにくいよ」
セラが岩にもたれたまま言った。
リツは手元を見る。
「こうですか」
「反対だよ」
セラが指先で縄の通し方を示す。
エナは少し考えてから、結び目を作り直した。
「こうでしたね」
「覚えていたのかい」
「手が先に思い出しました」
セラは結び目を見て、わずかに笑った。
「なら、大丈夫だね」
エナも笑い、縄を強く引いた。
反対側も同じ形に結ぶ。
リツが上から体重をかけると、布も縄も動かなかった。
「これなら運べます」
*
セラを担架へ移すとき、子どもたちはすぐそばに立っていた。
「痛くない?」
「痛くはないよ」
「本当に?」
「本当だよ」
セラは答えたが、身体を横たえたとき、短く息を詰めた。
左足が思うように動かず、リツが膝と足首を支える。
エナはセラの背へ畳んだ布を入れた。
「少し高いよ」
「このくらいの方が、息がしやすいです」
セラは首を動かし、位置を確かめた。
「昔から、私の言うことをそのまま聞かないね」
「そのまま聞くようには、教わりませんでしたから」
「そんな教え方をした覚えはないよ」
セラの声には、かすかな笑いが混じっていた。
エナは布の端を整える。
「では、私が勝手に覚えたことにします」
「そうしておくれ」
セラは目を閉じた。
エナは外套を胸元まで掛け、その肩を一度だけ軽く押さえた。
最初に担架を持ったのは、リツと一人の男だった。
ゆっくりと木を持ち上げる。
セラの身体がわずかに揺れた。
子どもたちが担架へ手を伸ばす。
「いまは、横を歩いてください」
リツが言った。
「手伝いたい」
「では、足元を見てもらえますか。大きな石があれば、先に教えてください」
二人は担架の前へ回った。
「ここにある」
「こっちにも」
小さな石を拾い、道の外へ置いていく。
テオは列の先頭へ立った。
「百歩より前に交代しろ。疲れてからでは遅い」
担架を持つ者たちが頷く。
列が動き始めた。
それまでより遅い。
だが、止まってはいなかった。
*
担架を交代で運ぶため、何人かは自分の荷を持てなくなった。
ダンは、そのうち二人の荷を背負った。
指で紐を締めることはできない。周囲の者が二つの袋を重ね、幅の広い布で肩と胸へ固定した。
「重すぎないか」
一人が尋ねる。
「手で持つよりはましだ」
指は動かなくても、脚と背中は使える。
ダンは身体を前へ傾け、荷の重さを確かめた。
「もう一つ載る」
「無理をするな」
「持てなくなったら言う」
背負う荷が増えたことで、歩みは少し遅くなった。
それでも、担架を持つ者の両手は空いた。
ダンは列の中央を歩きながら、水袋の位置も確かめた。
「その袋は前へ回せ」
「自分では運べないでしょう」
「だから、持てる者へ渡せと言っている」
荷を背負い、水を見る。
できなくなったことの代わりに、できることを増やしていた。
*
交代を重ねながら、一行は斜面を下った。
リツも担架から離れ、列の外側へ回る。
腰の刃物へ手を添え、前方と後方を確かめた。
槍があれば、距離を保ったまま地面や岩陰を探ることができた。
いまの刃物では、近づかなければ何もできない。
テオは道の脇に突き出していた細長い金属を見つけた。
土を払い、両手で引き抜く。
古い設備の一部らしく、長さはリツが失った槍の半分ほどだった。
石へ打ちつける。
表面の錆が剝がれたが、曲がらない。
「何ですか」
リツが尋ねた。
「使えるかもしれない」
「何に」
テオは答えず、金属を自分の荷へ差した。
リツも、それ以上は尋ねなかった。
西から風が来た。
今度は一度では終わらなかった。
草が地面へ伏せたまま戻らず、細かな砂が足元を流れ始める。
人々は身体を低くした。
担架の上で、セラが外套の端を握る。
「急げるか」
テオが振り返る。
「このままなら、少しは」
リツが答えた。
水が来る前に河床を越えることは、もうできなかった。
そのことは、誰も口にしなかった。
「河床の手前に、古い建物がある」
テオが言う。
「壁は残っている」
「雨は避けられますか」
「風は防げる。水は、河床まで下りなければ来ない」
雨はまだ見えない。
だが、西の空は、もう空の色ではなくなっていた。
遠くから、低い音が届いている。
雷か、風か。
それとも、まだ見えない水の音なのか。
テオにも判別できなかった。
「止まるな」
一行は荷を減らし、一人を増やして進んだ。




