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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第2章 震える手と優しい手

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第9話 厳かな誓いと震える手

「くそっ、見物人が多すぎる。だから結婚式なんて……」


「…………」


厳かな式の最中、隣でレオンハルトが小さく悪態をついた。

僕を神の御前まで送り届けた父上は、立派な眉を片方だけつり上げ、ジロリと彼をにらみつける。


僕を気づかっているわけではない。

レオンハルトの愚痴が聞こえたからでもない。

父上はただ、あまりにも立派すぎるレオンハルトの存在が気に入らないのだ。


レオンハルトは父上に軽く一礼すると、そっと僕の手を自分の方へ移動させた。

他人であり、しかも僕を愛していない生涯の伴侶のそばにいる方が、血のつながった父親よりも安心するのは、どうしてだろう。


僕との結婚が嫌だと、目の前で悪態をついた男なのに――。


「…………」


虐待を受けて育った僕は、虐げられることを簡単に受け入れてしまう体質なのだろうか。

それとも、どれほど嫌がられても――レオンハルトを恋い慕う僕の気持ちの方が、ずっと大きいのだろうか。


『健やかなるときも、病めるときも……富めるときも、貧しいときも……』


『互いを愛し、敬い、支え合うことを誓います』


誓いの言葉とともに、レオンハルトが僕の頭に掛かっていた高級レースの白いベールをそっと取り払った。

純白のドレスに身を包んだ僕の姿があらわになる。


おおっ――。


なぜか礼拝堂にどよめきが起こり、神父が静粛を求める。

レオンハルトは短く舌打ちした。


「…………」


皆の前で披露される誓いのくちづけ。

再びため息が礼拝堂を満たす。


発情期の興奮の中で交わしたキスとはまったく違う、厳かで儀式的な行為。

それでも、僕の胸の高鳴りを最高潮にするには十分だった。


「……?」


レオンハルトの胸からも、早鐘のような鼓動が聞こえてくる。

目のふちが赤いような気がする。腕に触れた手が震えているようにも感じた。


気のせいだろうか。

それとも、神が憐れな僕に与えてくださった奇跡なのだろうか。


式が終わり、皆から祝福を受ける僕たち。

けれどレオンハルトは僕を人前に出すのを嫌がり、その夜の舞踏会はファーストダンスを踊っただけで、すぐに彼の部屋へ戻された。


「ふう……緊張した。今日から、僕は……」


新婚の僕たちのために整えられた寝台。

新しい家具や調度品。庭から切り取られた色とりどりの薔薇の花。

どれもこれもが祝福と喜びに満ち、キラキラと輝いている。


僕とレオンハルトは正式に結婚した。


思いがけず、レオンハルト・ヴァルター夫人としての生活が始まったのだ。

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