第9話 厳かな誓いと震える手
「くそっ、見物人が多すぎる。だから結婚式なんて……」
「…………」
厳かな式の最中、隣でレオンハルトが小さく悪態をついた。
僕を神の御前まで送り届けた父上は、立派な眉を片方だけつり上げ、ジロリと彼をにらみつける。
僕を気づかっているわけではない。
レオンハルトの愚痴が聞こえたからでもない。
父上はただ、あまりにも立派すぎるレオンハルトの存在が気に入らないのだ。
レオンハルトは父上に軽く一礼すると、そっと僕の手を自分の方へ移動させた。
他人であり、しかも僕を愛していない生涯の伴侶のそばにいる方が、血のつながった父親よりも安心するのは、どうしてだろう。
僕との結婚が嫌だと、目の前で悪態をついた男なのに――。
「…………」
虐待を受けて育った僕は、虐げられることを簡単に受け入れてしまう体質なのだろうか。
それとも、どれほど嫌がられても――レオンハルトを恋い慕う僕の気持ちの方が、ずっと大きいのだろうか。
『健やかなるときも、病めるときも……富めるときも、貧しいときも……』
『互いを愛し、敬い、支え合うことを誓います』
誓いの言葉とともに、レオンハルトが僕の頭に掛かっていた高級レースの白いベールをそっと取り払った。
純白のドレスに身を包んだ僕の姿があらわになる。
おおっ――。
なぜか礼拝堂にどよめきが起こり、神父が静粛を求める。
レオンハルトは短く舌打ちした。
「…………」
皆の前で披露される誓いのくちづけ。
再びため息が礼拝堂を満たす。
発情期の興奮の中で交わしたキスとはまったく違う、厳かで儀式的な行為。
それでも、僕の胸の高鳴りを最高潮にするには十分だった。
「……?」
レオンハルトの胸からも、早鐘のような鼓動が聞こえてくる。
目のふちが赤いような気がする。腕に触れた手が震えているようにも感じた。
気のせいだろうか。
それとも、神が憐れな僕に与えてくださった奇跡なのだろうか。
式が終わり、皆から祝福を受ける僕たち。
けれどレオンハルトは僕を人前に出すのを嫌がり、その夜の舞踏会はファーストダンスを踊っただけで、すぐに彼の部屋へ戻された。
「ふう……緊張した。今日から、僕は……」
新婚の僕たちのために整えられた寝台。
新しい家具や調度品。庭から切り取られた色とりどりの薔薇の花。
どれもこれもが祝福と喜びに満ち、キラキラと輝いている。
僕とレオンハルトは正式に結婚した。
思いがけず、レオンハルト・ヴァルター夫人としての生活が始まったのだ。




