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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第12章 リオンを求めて

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第70話 悪との決着

「いやだ! リオンーっ!」


真っ白な異空間に倒れていた僕はすぐに起き上がり、再び全速力で走り出した。

必死に手を伸ばす。


――届いた。継母の後ろ髪をつかんだ。


「ぎゃあああーっ!」


両手で継母の髪を思いきり引っ張ると、彼女はリオンを抱いたまま、もんどりうって倒れた。


「リオン!」


「ママーっ!」


コマドリの砂糖菓子を手に、リオンが僕に飛びついてくる。


「な、なんてことをっ!」


ヴォルン院長が失神した継母をいそいで抱き起こした。


「母上ーっ!」


異空間から出ようとしていた継妹たちが、あわてて戻ってくる。

継母のそばに寄り添い、僕をにらみつける。


「継兄! よくも母上を!」


「子供の時に殺してしまえばよかったのよ! あんたさえいなければ、アルヴィオン家は思い通りになったのに……私たちの本当の父上はこの人よ。あんな、頭の固い公爵なんかじゃないわ!」


リオンを抱きしめる僕に、二人の継妹が飛び掛かってくる。

僕は必死で避けながら、リオンを抱き上げ走り出す。


「待ちなさい! その子を寄こせ!」


継妹たちが追いかけてくる。


「おまえたち! 早くここから出るんだ! この異空間に閉じ込めてしまえば永遠に……ぁっ」


ヴォルン院長が驚きの声を上げる。


「そこまでだ」


僕とリオンを抱き寄せ、背中にかばう男――。


「レオンハルト!」


「パパーっ!」


リオンがレオンハルトに飛びつく。彼は息子を強く抱きしめた。


「リオネル、リオン……よかった。間に合った」


リオンを抱き上げ、頬ずりするレオンハルト。

僕も彼の背中に抱きつく。


「どうやって追いついた? この世界には、誰も入れないはずだ……」


動揺したヴォルン院長に継妹たちが寄り添う。

意識を取り戻した継母が起き上がった。


「リオネル! 育ててやった恩を忘れたの? 前王妃のせいでわがままに育ったあんたに、しっかり躾をしてやったのはこの私よ!」


僕に向かって怒鳴りだす。


「そうよ! 母上に対して失礼だわ。なんて恩知らずなの!」


「あんたなんて継兄じゃないわ。家族だなんて思ったこと、一度もない!」


継妹たちも続いて僕に罵声を浴びせる。


「黙れ! おまえたちは僕を虐待した! 体だけじゃない、心にまで傷を残した。そして世話になった父上まで殺し……今度はリオンまで利用した。絶対に許さない!」


レオンハルトの背中から飛び出し、継母たちを怒鳴りつけた。

過去にとらわれてはいけない。

いまや継母も継妹も、自分とは無関係の赤の他人だ。


「な、なんと生意気な! 一言も言い返せない弱虫だったくせに!」


「そうよ、黙りなさい!」


「この恩知らずが!」


「うるさい! おまえに僕の本当の母上の悪口を言う権利はない。父上がおまえたちを愛さなかったのは、あまりにも心が醜かったからだ。妖精のように美しかった母上と比べるまでもない!」


「ぅぁっ……」


「きいいぃーっ!」


僕は彼らの前に堂々と立ちふさがった。

歯ぎしりしながら悔しがる、継母と継妹たち。


「ヴォルン院長……投降してください。あなたたちに逃げ場はない」


レオンハルトが静かに告げた。


「おのれ、レオンハルト! 一介の監査官ごときが……それにしても、この国最高の魔法使いの私が作った異世界に入れる人間がいるとは……こうなったら……アメダスリーン、パッシャ……!」


ヴォルン院長が呪文を唱え始めた。


「レオンハルト、たいへんだ。これは古代から伝わる最高の殺人呪文だ。この魔法を使える人物がいるとは……僕たちに向かってくる……!」


僕はあわてて、リオンを抱くレオンハルトの前に立ちふさがった。


「リオネル、私のうしろに!」


レオンハルトが僕を自分のうしろに移動させようとするが、僕は頑として動かなかった。彼らを守るのは僕だ。


「だめだよ。レオンハルトとリオンは、僕が命に代えても……ぁっ!」


「ううぅ……なぜだ? 最高の呪いの呪文が……私に戻ってくる……どうして……」


ヴォルン院長が苦しみだした。

継母たちも同じように呻きだす。


「どうなってるの? ヴォルン院長の呪文は完璧だった。なのに……?」


「ううぅううっ……なぜだ? どうして……!」


「あなた!」


「父上……!」


継母たちがヴォルン院長に寄り添う。

愛する者への態度は、彼女たちも普通の人間と変わらないようだ。


だが、許すわけにはいかない。

僕はもう無力な子供じゃない。

リオンとレオンハルトという、守るべき家族がいる。


「ぐうっ……なぜだ? 私より優秀な魔法使いは……」


「いるんだな。これが」


「……っ!」


突然、ヴォルン院長たちの後方から男が近づいてきた。


「はあ……はあ……どうやって? 私が開けた隣国の入り口から……まさか、おまえは……!」


「ヴォルン院長……あなたが国内最高位の魔法使いだったとは。どうりで、四年前の財務監査報告書の魔法が解けないわけだ。最初から、あなたを除外して魔法を解こうとしていた、世界最高位の魔法使いであるおれの最大の過ちだったな」


「アーロン!」


「……っ!」


アーロンの姿に、僕たちは心底驚いた。

ヴォルン院長の仲間だと、思い込んでいたからだ。


「レオンハルトが連行されたと知り、首都セラフィオンへ報告に戻った。レオンハルトもそうだったらしいが、おれも王命を帯びていたからな。


北方領ノルディアで起こった出来事を王と側近たちと話し合っているうちに、ヴォルン院長が高度な魔法使いだという事実が判明した。おれはその場で、四年前の財務の監査報告書にかけられた魔法を解いた。

事実が判明し、王はすぐにノルディアへ兵を出した。おれもそれに同行した」


「ううっ……アーロンめ。おまえを先に捕らえておけばよかった!

四年前、王が不自然にレオンハルトの首都への帰還を延期したり婚姻を解消させたりしたことがずっと気になっていた。魔術を駆使して暴き出してみると……案の定、優秀なレオンハルトが北方領ノルディア赴任とともに王命を帯びていたことがわかった。


それにしても、私の作った異世界まで自由に操れるとは、なんという魔力だ……頼む、見逃してくれ……」


倒れ込み、もがき苦しみながら命乞いするヴォルン院長。


「なわけないでしょ? ここまでのことをしておきながら! ヴォルン院長……

あなたは役人になった当初から高度な魔法を使い、書類や報告書を改ざんして私腹を肥やし続けた。それは小国に匹敵する額となった。いずれは反乱を起こし、ルミナリア王国を支配するつもりだったんだな?


しかし、リオネルの父親であるアルヴィオン公爵にそれを気づかれた。だから四年前、公爵を犯人に仕立て、自ら事件を暴き立てた。


その後、隣国に近い北方領ノルディアへ赴任した。汚職事件騒ぎで、首都ではもう不正ができないから、隣国に武器を横流しして再び私腹を肥やした。末の王太子を抱き込み、いざとなれば王太子に罪をなすりつけ、隣国に逃げる体制を整えていた」


「ううっ……この異世界に、このまま私たちをここに放置しろ。それで、罪を償う……」


「お望みどおり、リオネルの継母と継妹たちは置き去りにするよ。でもヴォルン院長、あなたは首都セラフィオンへ連行される。リオネルの父上と同じ最期をたどるんだ。自業自得だね」


「やめてくれ! 妻子は隣国へ……いや、私とともにルミナリア王国に! この世界に置き去りにされたら……!」


「あなたがいないこの異世界に放置すれば、彼女たちは永遠にさまようことになる。それがあなたと、あなたの愛した人間たちに課せられた罰だ。

その結果がどうなるか……あなたがいちばんよく知っているはずだ。なぜなら、この世界はあなたが作ったものだからね」


「やめてくれーっ!」


ヴォルン院長の口から絶望の叫びが上がる。

アーロンの瞳は冷酷に光っていた。


魔法使い同士の闘いは、大陸一の戦士よりも、どんな悪魔よりも恐ろしい結末をもたらす――古代からそう言い伝えられている。


魔法使いに生まれなくてよかった。

レオンハルトとリオンを抱きしめながら、僕は心からそう思った。


「ああああーっ……ああーっ!」


断末魔の叫びが、真白な異空間に響き渡った。

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