第67話 暴かれた裏切り
ドスッ――。
ガスッ――。
静まり返った部屋に、末の王太子を痛めつける鈍い音だけが響きわたる。
レオンハルトが床に倒れた王太子に向かって、殴る蹴るの暴行を加えていた。
「レオンハルト! そのぐらいにしろ。死んでしまうぞ!」
ヴォルン院長に剣を突きつけたフェルナー法務官が、部屋に入ってくるなり言った。
「……リオネル!」
レオンハルトはフェルナー法務官の声で我に返り、王太子から離れると、僕のかたわらに駆け寄った。
「大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……うん。魔術は吸ってない。事前に察知したから」
「そうか……よかった」
レオンハルトは僕を抱き上げた。
「王太子殿! たいへん申し訳ありません……フェルナー法務官に気づかれました」
「はぁ、はぁ……ぐほっ……。憲兵たちは?」
ヴォルン院長の呼びかけに、末の王太子が苦しげに起き上がりながら言葉を発する。
「それが……すでに周囲を、ノルディア領主アーヴィン・ロウ率いる憲兵たちに包囲されています」
「な、なんだと……? ヴォルン院長、魔法で結界を張ったはずでは? アーヴィン・ロウは、どうして入ることができたのだ?」
「それが……なぜか魔法が破られていたようです。私が最高魔術で張った結界でしたのに……ノルディア領主に化け、窓からレオンハルトたちに手を振った時点まで魔術は順調だったのですが……そのあと、誰かが結界を破ったのです」
末の王太子は真っ青な顔であぜんとしている。
ヴォルン院長もだ。
「レオンハルト……どういうことなの?」
落ち着きを取り戻した僕は、レオンハルトの腕の中で尋ねた。
「フェルナー法務官は、ここで行われている会議に不審な点があると途中で気づいたらしい。カーヴェル副院長に黙って建物内を探り、末の王太子が極秘に滞在していることを突き止めた。私たちが会議場に入った直後、カーヴェル副院長はヴォルン院長を剣で脅し、この王太子の部屋まで案内させたんだ。リオネル……君が無事で、本当によかった」
レオンハルトは僕を抱きしめ、そう告げた。
「レオンハルト……ありがとう。リオンは? 僕の息子たちは無事なの?」
「ヴォルン院長に問いただしてみよう」
僕とレオンハルトは、フェルナー法務官に剣を突きつけられ呆然としているヴォルン院長を振り返った。
青ざめた顔のヴォルン院長が、ゆっくりと口を開く。
「リオネル……リオンは無事だ。どうか、見逃してくれ。私は君の継母と……」
「えっ?」
まただ。また、継母の話題が上がった。
年月を経ても消えない、彼女が僕に刻んだ傷痕。
二度と思い出すまいと心の奥底に封じていた人物なのに、なぜ今になって。
「若い頃から恋人同士だったんだ。しかし政略結婚で無理やり、君の父上であるアルヴィオン家に……」
「なんですって! 継母とあなたは……? だから、僕の父上と離縁した今になって密会を?」
「リオネル、すまない。違うんだ。実は、私たちは彼女が結婚したあともずっと続いていた……君の継妹たちは、私の娘だ」
「えっ……いま、なんて?」
衝撃的な告白だった。
継母は父上を裏切り、目の前の男と……。
では、継妹だと思っていた娘たちは、僕とは血のつながらない赤の他人――?
「だから、助けてくれ!」
ヴォルン院長の悲痛な叫び声が部屋中に響き渡る。
だから、僕に馬車の中で、あれほど懇願してきたのか。
「勝手なことを言うな! ヴォルン院長……あなたは親友である私の父上を裏切り、恋敵だったリオネルの父上を、末の王太子と共謀して犯人に仕立て上げ、処刑した。その罪は計り知れない。虐待の罪で処罰されたはずのリオネルの継母たちとずっと会っていた? ふざけるな! 観念して、法の裁きを受けるがよい!」
レオンハルトの声は揺るぎなかった。
僕も同じだ。裏切り者を許すわけにはいかない。
「ヴォルン院長、リオンはどこです? 早くリオンを渡して――あっ!」
ヴォルン院長の背後にある扉が開き、子どもを抱いた女が姿を現した。
「……継母上!」
僕は我が目を疑った。




