第64話 忍び寄る気配
「リオネル、安心したまえ。別院はすでに憲兵たちが包囲しているはずだ。首都セラフィオンにも使いを送ってある」
「えっ? ヴォルン院長……い、いつのまに」
魔法を使ったのだろうか。
だとしたら、かなりの使い手だ。
偽物のノルディア領主が言っていた、ヴォルン院長が高度な魔法使いだという説は――本当だったのだろうか。頭が混乱してくる。
「当初から、こちらで行われている会議が大詰めになったら、別院を包囲する予定だったのだ。首都からも応援が来るはずだ。
さあさあ、長旅で疲れただろう。リオネルは少し休んだほうがいい。部屋を用意させる。そちらに移動しろ。レオンハルトは会議に出席してくれ」
なんだ、最初から綿密な計画が組まれていたのか。
僕は胸を撫でおろした。
「わかりました。リオネル、リオンの件はヴォルン院長にお任せして、少し休むといい。会議が終わったら、夜通し馬を飛ばして別院へ戻ろう」
「うん。レオンハルト、わかった。そうしよう」
レオンハルトはヴォルン院長とともに会議の場へ向かった。
僕は憲兵に案内され、一階の角部屋へ向かう。
「こちらです」
「どうもありがとう」
憲兵はすぐに戻っていった。
僕は目の前の扉を開け、中へ入る。
窓際の長椅子へ向かうと、安心したせいか疲れがどっと押し寄せてきた。
地下牢に監禁されていたレオンハルトは、僕以上に疲れているだろう。
リオンは元気でいるのか。アーロンのことだから、傷つけたりはしないと思うが――。
レオンハルトとリオンのことを案じながら、長椅子に腰を下ろした。
「ぅ……うっ……」
とたんに、覚えのある息苦しさに襲われる。
この匂いは――。
「……っ!」
思わず天井を見上げる。
長椅子の真上、高い天井から大量の薬草の束が吊り下げられていた。
そこから発散する、独特で強烈な香り。
「発情促進魔法……!」
僕はすぐに長椅子から飛びすさり、短い呪文を唱えた。
魔法の発動が消える。
「はぁ……はぁ……な、なんで、ここに……?」
苦しさに、その場にうずくまる。
薬草からの発情促進の効果は消えたが、少なからず魔術を吸ってしまった僕の体は思うように動かない。
「早く……ここを出ないと……」
這うように扉へ向かった。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
「はぁ……っ……ぁ……」
誰かがこちらへ歩いてくる。
カチャッ。
扉が静かに開いた。
「やっと……会えた」
「……っ!」
長い金髪に青い瞳――。
目の前に、末の王太子が現れた。




