第62話 揺らぐ事実と偽りの影
「リオネル……実は」
「カーヴェル副院長! そこにいたのか。早く来たまえ。そろそろ会議が……おや? レオンハルト! 長期休暇を取っていたはずでは? リオネルもいるのか? 一緒に上がってきたまえ」
軍部の建物の上階から顔を出したのは、ノルディア領主アーヴィン・ロウだった。
彼はそれだけ言うと、窓から顔を引っ込めてしまった。
「これでわかったでしょう? あなたたちが間違っていることを。さあ、参りましょう」
「はい……」
「……はい」
何か言いかけていたレオンハルトだが、領主の出現で黙り込んだ。
僕たちは、走るような速さで進むカーヴェル副院長のあとに続き、軍部の施設内へ入っていった。
「レオンハルト、どうなってるの?」
「私も……なにがなんだか」
「リオンが監禁されていそうな場所は?」
「この建物は古くて巨大だ。地下牢もあるだろうし、隠し部屋や抜け道もあるはずだ。ここに入るのは初めてで見当がつかない」
「カーヴェル副院長は、僕たちが別院でノルディア領主とヴォルン院長の偽物にだまされたのだろうと推量したにもかかわらず、どうして捜索隊を派遣しようとしないんだ? レオンハルトの話を信じていない? それとも……こちらの領主たちが偽物で、それを誤魔化そうとしている? それに、隣国の官僚との話し合いは国家レベルの会議じゃないか。王の密命を帯びているレオンハルトが知らないなんておかしいよ」
僕は不安だった。
これ以上、建物の奥へ進むのは危険だ。
「……とりあえず、ノルディア領主とヴォルン院長に会ってみよう」
だけどレオンハルトは、疑問を投げかける僕に構わず、カーヴェル副院長のあとを追っていく。
「…………」
僕は従うしかなかった。
やはり、ヴォルン院長の話が本当だったのか。
院長は、リオンを危険から遠ざけるために連れ去ってくれたのだろうか。
僕は目をキョロキョロさせてリオンが潜んでいそうな場所を探りながら、未知なる恐怖にドキドキと胸を高鳴らせていた。
***
「レオンハルトとリオネルをお連れしました」
先ほどノルディア領主が顔を出した上階の部屋の前に、カーヴェル副院長と僕らは到着した。
「領主は会議中だ。カーヴェル副院長は会議に戻れ」
「はい」
扉の中から声がした。
カーヴェル副院長は部屋には入らず、いそいで階段を下りていった。
「……っ!」
「ぇっ……」
扉が開き、部屋から出てきた人物を見て、僕とレオンハルトは仰天した。
ヴォルン院長だ。
僕らは驚きを隠せない。
「院長! リオンはどこです? リオンを返してください!」
僕はすぐにヴォルン院長へ詰め寄った。
どんな事情があろうと、僕からリオンを奪う権利は誰にもない。
絶対に取り戻す。
「リオネル……なんの話だ? リオンとは、あのときの子供だろう? 私は知らないぞ」
「ぇっ……?」
きょとんとするヴォルン院長を前に、僕はそれ以上追及できない。
「でも……僕を迎えに教会にいらっしゃいましたよね? リオンと乗り込んだ馬車の中で、僕に助けてほしいと」
「そんな話は知らない。私はずっとここにいた」
「ええっ!」
では、僕たちは魔法でだまされていた?
誰に?
「だとしたら、リオンはどこに? ヴォルン院長、僕に……自分が疑われているという話を」
「リオネル? ヴォルン院長に何か吹き込まれたのか?」
「…………」
レオンハルトに追及されそうになり、僕は黙り込む。
このままでは本当の犯人がわからなくなる。
「ヴォルン院長……私は先日の真夜中、この建物にヴォルン院長とリオネルの継母が入っていくのを見ました。リオネルの義妹たちも一緒でした」
「……っ!」
レオンハルトの突然の告白に、僕の心臓が跳ね上がる。
なんだって? 継母がヴォルン院長と? いったい、なぜ?
嫌な思い出が、まざまざとよみがえる。
ドクドクと鳴り響く心臓が、残酷な過去を呼び覚ましていく。




