第60話 真昼の追走
「二人とも急ごう! 事は一刻を争う。自分たちの息子を取り戻すのだ」
「アーヴィン・ロウ領主、承知しました!」
レオンハルトは僕から離れると、アーヴィン・ロウに一礼した。
そして僕を抱きかかえたまま、憲兵たちが用意した馬に飛び乗り、すさまじい速度で駆け出した。
「リオネル、しっかりつかまっていてくれ」
「はい……」
「レオンハルト! 私たちも準備を整え、すぐに追いかける。現地の仲間と合流したら、外から様子を探れ!」
背後から、アーヴィン・ロウの大声が響いた。
どうやら、すでに作戦は始まっているようだ。
僕の乗せたまま早馬を駆り、真昼の街道を駆け抜けるレオンハルト。
景色は後方へとすさまじい速さで流れ去っていく。
「……レオンハルト。本当にヴォルン院長が首謀者なの? レオンハルトの父上の親友なのでしょう?」
「リオネルが信じられないのも無理はない。私も本当だとは思いたくなかった。しかし……私は直接、首都セラフィオンで王国監査院長グレイヴ殿に会い、事実を確認した。そしてノルディア領主アーヴィン・ロウ殿の話を聞いた限りでは、ヴォルン院長が黒幕だと考えるほかない。四年前の財務監査報告書に魔法をかけていたのが彼だとすれば、すべての辻褄が合うだろう?」
疾風のごとく馬を操るレオンハルトが、冷静に答える。
「いままでずっと、アーヴィン・ロウ領主のことを疑っていたのに……信じていいの? リオンだって、彼が誘拐したのかもしれない。後方から狙っているとしたら……ヴォルン院長たちもろとも、僕たちを拉致するつもりなんじゃ……」
「私たちを拘束したければ、庁舎の中でそうしていたはずだ。私も最初は、ノルディア領主アーヴィン・ロウをもっとも疑っていた。王令も、彼の企みを阻止することが目的だった。しかし……数々の疑問点と事実を総合すると、ヴォルン院長以外に当てはまる人物がいない。それに……」
「それに? 確信できる理由があるの?」
「……国境沿いに着いてから話そう。リオネルにとって、思い出したくない話だからな」
「レオンハルト……」
レオンハルトはそれきり口を真一文字に結び、黙り込んだ。
なんだろう。
カーヴェル副院長のことだろうか。
まさか彼女にも、レオンハルトとの間に子供が――?
だけど僕は、もともと人を問い詰める性格じゃない。
それに、衝撃的な事実をこれ以上知りたいとも思えなかった。
僕も口を引き結び、ただひたすらリオンの無事だけを馬上で祈り続けた。




