第6話 目覚めの朝、レオンハルトの腕の中で
チュリー、チュルチュル、チュリリリ、チュリチュリ――。
「……ん……」
正気に戻ったのは、初めての発情から一週間後のことだった。
目を開けると、心配そうにこちらを覗き込むハシバミ色の瞳があった。
まつ毛がこんなに長かったんだ――。
そんなことをぼんやりと考える。
身に着けているのは学院の白いローブではなく、薄手のスモッグのような衣服だった。
おそらく寝間着だろう。
記憶の断片から、レオンハルトが着替えさせてくれたような気がする。
「……あっ」
手が熱いと思ったら、大きな手にしっかりと握られていた。
「大丈夫か。正気に戻ったようだな」
「……っ!」
途端に、発情期の自分の姿が脳裏に蘇る。
顔が熱くなり、身の置きどころがなくて体をよじると、どこかに鈍い痛みが走った。
「痛むのか? 母上が薬湯を用意してくださった。彼もオメガで、こういう時の対処に詳しい。君には休んでいてほしいと言われている」
話の内容についていけず、ぎゅっと目を閉じて黙り込む。
それでも、まぶたの向こうは明るく、体は清潔で心地よい。
ゆうべまでの混乱を思い出し、胸の奥が羞恥で震えた。
「どうした? どこか、おかしいのか? 初めてのことだったから、私も母上に聞きながら世話をしたのだが……」
「……母上……?」
「家の者には事情を伝えてある。リオネルの家には、慣例に従い発情期が終わってから知らせるつもりだ。君がアルヴィオン家の嫡男だとは知らなかった」
「……っ!」
つまり、僕の素性はすでにレオンハルトの家に知られているということだ。
「家の問題は父親同士で話し合ってもらう。私は兄妹がいないし、君の妹たちは離縁した継母と帰国しているそうだ。報告は控えることにした」
驚きの連続で、頭が追いつかない。
父上が継母とすでに別れていたことも初めて知った。
父上とは幼い頃から距離があったため、どこか他人事のように聞こえる。
「リオネルの背中の傷……継母の仕業か? 婚約が決まったら、従業員たちを処罰して総入れ替えする。アルヴィオン公爵を通して元継母にも抗議するつもりだ」
「……っ!」
背中の傷を見られたのだ。
こんなに醜い傷を抱えた自分を、レオンハルトは拒まず受けとめてくれた。
そのうえ、復讐のようなことまで考えてくれているなんて――。
まるで現実とは思えない。
僕だって、甘い夢を見ていた時期がある。
いつか白馬の王子さまが現れて、継母の暴力や従業員たちの虐待から救ってくれるのだと。
それが本当に現実化したなんて。
「…………」
そういえば、処置がどうとか言っていた。
発情期の記憶は途切れ途切れだが、メイドの姿は見ていない。
まさか、僕の世話をすべてレオンハルトが……?
羞恥で全身が熱くなり、言葉が出ない。
愛想も可愛げもない僕に、彼も呆れているだろう。
それでもレオンハルトは寝台のそばを離れず、一日中、僕の手を握り続けてくれた。




