第5話 事故番
「はぁ……はぁ……」
苦しい息の合間に、レオンハルトの動きを追う。
「……っ!」
彼は僕を横抱きにしたまま立ち上がり、鉄柵に沿って森の奥へと歩みを進めた。
火照った体に、夕暮れの風が心地よく触れる。
チュリー、チュルチュル、チュリリリ、チュリチュリ――。
巣へ帰るコマドリが、頭上をまっすぐに飛び抜けていく。
「……もうすぐだ。我が屋敷がある」
「ぇっ……」
レオンハルトの屋敷が近くにあるという噂は聞いていたが、学院の森と地続きになっているとは知らなかった。
彼は僕を抱えたまま軽々と低い柵を越え、裏門から中へ入っていく。
「ま、待ってください」
抱かれたあと森に置き去りにされると思っていた僕は、驚きを隠せなかった。
宮殿のように立派な館の裏口から入っていくレオンハルト。
学院にいる間も、彼はこの自宅に戻っていたのだろうか。
「私の寝室は三階の奥だ。誰もいない。安心してくれ」
「……っ」
やさしい声音。
それだけで胸の奥がざわつく。
高ぶる気持ちを抑えようと、僕は歯を食いしばった。
パタン。
宣言どおり、誰にも会わずに寝室へたどり着いたレオンハルトは、豪華な寝台の上に僕をそっと横たえた。
壊れ物を扱うような慎重な手つきに、胸の奥がくすぐったくなる。
「……はぁ……」
落ち着かない気持ちが胸の内で渦巻き、シーツを強く握りしめる。
「こちらへ」
「……っ!」
寝台に乗り上げたレオンハルトが、シーツをつかんでいた僕の手を取り、自分の首の後ろへと導く。
ハシバミ色の瞳が近づいてくる。
「……レオンハルト……」
その瞬間、胸の奥にあった理性が、フッとほどけていくのを感じた――。




