第58話 消えた幼子
「う、うそだ! 僕はリオンと一緒に馬車を降りて……領主! リオンはどこですか!」
目の前に立つノルディア領主アーヴィン・ロウ――。
銀髪に近い淡い金髪、氷のような青い瞳。その目は常に笑っていない。
僕は彼に詰め寄った。
「リオネル、落ち着いて。領主はリオンを隠したりしない。彼は我々の味方だ」
アーヴィン・ロウに詰め寄る僕の肩を、レオンハルトがそっと後ろから押さえる。
「で、でも、レオンハルト……」
僕は振り返り、ハシバミ色の瞳に訴えかけた。
アーヴィン・ロウが味方ってどういうこと?
だって、僕らの子供がいなくなったんだよ。
心配で、居ても立ってもいられない。
僕はいったい、誰を信じればいいんだ。
「子供を見たか? 三歳くらいの男の子だ」
アーヴィン・ロウが、部屋の外に控えていた憲兵に尋ねる。
「いいえ。リオネルさまお一人だけを建物の中へお連れしました」
「そんなわけありません!」
僕は必死で抗議した。
「外にいた者、全員に聞け。黒髪の男の子を見なかったか?」
「確認して参ります!」
アーヴィン・ロウが命じると、憲兵が玄関へ向かって走り出した。
「リオネル、私たちも行こう!」
「はい!」
レオンハルトに手を引かれ、一緒に走り出す。
アーヴィン・ロウも後ろからついてくる。
一階のエントランスに到着すると、憲兵たちが大勢集まっていた。
「アーヴィン・ロウ領主さま! こちらの男が、馬車の中へ戻っていく子供を見たそうです」
憲兵の一人が前に進み出る。
「リオンです! コマドリの砂糖菓子を取りに戻りました!」
興奮して叫ぶ僕の手を、レオンハルトがしっかりと握ってくれている。
「そのあとリオンはすぐに僕のもとへ戻ってきて、一緒に王国監査別院の建物に入りました」
「しかしリオネル、憲兵は馬車から再び出てくる子供を見ていない」
アーヴィン・ロウが代わりに答える。
「そんなはずはありません。僕はたしかにリオンと……ぁっ!
皆、魔法をかけられていたのでは? だからリオンの姿が見えなくて」
「リオネル……魔法にかけられていたのは君の方だ。グレイヴ院長は由緒ある魔法使いの家系出身者だ。世間は知らないことだが、彼はかなり高度な魔術が使える」
アーヴィン・ロウが静かに告げる。
「ぇっ……では」
「君たちの息子は今……ヴォルン院長とともに国境沿いへ向かっているはずだ」
「……っ!」
最愛のリオンがさらわれた――?
アーヴィン・ロウの言葉に、僕は激しく動揺した。
レオンハルトが僕の手をしっかりと握っていてくれなかったら、きっと気を失っていた。




