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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第10章 レオンハルトへの疑惑

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第57話 レオンハルトの懺悔

「レオンハルト、あの……ノルディア領主に地下牢から助けてもらったのは本当のことなの?」


「本当だ。アーロンたちが誘拐された。監禁場所はおそらく、国境沿いにある例の軍部の建物だ」


レオンハルトは僕を抱きしめ、そう告げた。


「……っ!」


ノルディア領主アーヴィン・ロウとその部下たちは、いつの間にか姿を消していた。

領主に与えられた広い部屋には、僕とレオンハルトの二人だけだ。


アルファであるオスの匂いが僕を包み込む。

冷静な判断ができない。

レオンハルトの言いなりになるしかないのだろうか。


「あの……レオンハルト。僕に……何か言うことはないの?」


おそるおそる切り出す。

何かあるなら、レオンハルトの口から告白してもらうしかない。


「リオネル……? 何のことだ? まさか」


レオンハルトの顔が蒼白になる。

やはり、ヴォルン院長の話は正しかったのか。


「六年前のことか?」


「ぇっ? う、うん」


レオンハルトが口にしたのは四年前の汚職事件ではなく、カーヴェル副院長との件らしい。


ちょうどいい。

すべてをはっきりさせよう。

不確かな噂話や人づてより、元夫の口から聞くのがいちばん正しい。


「リオネル! 本当に申し訳なかった。アーロンが仕組んだ事とはいえ、どうしても告白できなくて……リオネルに、嫌われたくなかった。君に軽蔑されたらと思うと……。結婚生活の二年間、リオネルの発情期のときしか家に帰らなかったこと、そして君にそっけない態度を取り続けた理由が、それだ。アーロンに聞いたのか?」


レオンハルトが真っ青な顔で説明をはじめる。

心から申し訳ないという想いが伝わってくる。

こんなに焦ったレオンハルトを見るのは初めてだ。


「い、いいえ……人の噂で」


ヴォルン院長から聞いたことは伏せておいた。


「そうか……どうして漏れたのかはわからないが……リオネル、どうか私を許してほしい。君のことがとても好きで……初恋だった。ルクス神学院で君をひとめ見た瞬間、恋に落ちた。それを知ったアーロンが……そのころ彼が冗談めかして、くだらない計画を話していたので、すぐにピンときた。しかし、欲望にあらがえなかったのは私だ。リオネル……どんな罪でも受けよう。本当に申し訳なかった」


レオンハルトが僕の前に額ずく。


「…………」


レオンハルトが僕を――昔から好きだった?

ひとめぼれ? 僕に?

僕を――愛していたということなの?


あらためてレオンハルトを見る。

僕の前にひざまずき、顔を伏せたままだ。

では、僕たちは昔から相思相愛で――。


だけど、僕とレオンハルトはもう夫婦じゃない。

いまさら謝られても過去の話だ。

いや、ヴォルン院長によると、カーヴェル副院長とは昔からずっと続いている関係だと――。


「あの……今も、その……」


「離宮の回廊の小部屋で行われた魔術はアーロンじゃない。彼はその前に僕たちに警告していただろ?」


「警告? あの、カーヴェル副院長とは……」


「カーヴェル副院長? 彼女は私が子供の頃……私の遠い親戚の婚約者だったことがある。そのころ話したことはないが、一族の集まりに顔を見せていた時期があったから、顔はおたがい認識していた。カーヴェル副院長とフェルナー法務官は現在、恋人同士だ。婚約破棄する前から付き合っていたらしく、それが原因でいまだに結婚が許されない」


「…………」


カーヴェル副院長の婚約破棄の原因がフェルナー法務官だった事は、ヴォルン院長の説明どおりだ。

ピクニックのときに話しかけてきたご令嬢が言っていた“カーヴェル副院長はレオンハルトの遠い親戚”という噂も本当だった。

この点も、ヴォルン院長の話と一致する。


「リオンは? 神父さまのところにいるのかい?」


レオンハルトが不思議そうに訊いてきた。


「リオンなら一緒に……ぇっ?」


リオンがいない。

どうしたんだろう。


「リオン! リオン、どこ! まさか、領主に……?」


いやな予感がする。


「リオンがいなくなったのか? 領主! どちらにいらっしゃいますか!」


レオンハルトが呼ぶと、アーヴィン・ロウはすぐに姿を見せた。


「二人のために席を外していたのだが、どうかしたのか」


「リオンという男の子がリオネルと一緒に来たはずです。彼はどこですか。リオネルがここにあいさつに来たとき、連れていた子供です」


レオンハルトが尋ねると、アーヴィン・ロウは不思議そうな顔をした。


「リオネルは一人で来たぞ。男の子は見ていない」


「えっ?」


「……っ!」


あまりの衝撃に、頭が真っ白になる。


リオン――どこへ行ってしまったの。

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