第57話 レオンハルトの懺悔
「レオンハルト、あの……ノルディア領主に地下牢から助けてもらったのは本当のことなの?」
「本当だ。アーロンたちが誘拐された。監禁場所はおそらく、国境沿いにある例の軍部の建物だ」
レオンハルトは僕を抱きしめ、そう告げた。
「……っ!」
ノルディア領主アーヴィン・ロウとその部下たちは、いつの間にか姿を消していた。
領主に与えられた広い部屋には、僕とレオンハルトの二人だけだ。
アルファであるオスの匂いが僕を包み込む。
冷静な判断ができない。
レオンハルトの言いなりになるしかないのだろうか。
「あの……レオンハルト。僕に……何か言うことはないの?」
おそるおそる切り出す。
何かあるなら、レオンハルトの口から告白してもらうしかない。
「リオネル……? 何のことだ? まさか」
レオンハルトの顔が蒼白になる。
やはり、ヴォルン院長の話は正しかったのか。
「六年前のことか?」
「ぇっ? う、うん」
レオンハルトが口にしたのは四年前の汚職事件ではなく、カーヴェル副院長との件らしい。
ちょうどいい。
すべてをはっきりさせよう。
不確かな噂話や人づてより、元夫の口から聞くのがいちばん正しい。
「リオネル! 本当に申し訳なかった。アーロンが仕組んだ事とはいえ、どうしても告白できなくて……リオネルに、嫌われたくなかった。君に軽蔑されたらと思うと……。結婚生活の二年間、リオネルの発情期のときしか家に帰らなかったこと、そして君にそっけない態度を取り続けた理由が、それだ。アーロンに聞いたのか?」
レオンハルトが真っ青な顔で説明をはじめる。
心から申し訳ないという想いが伝わってくる。
こんなに焦ったレオンハルトを見るのは初めてだ。
「い、いいえ……人の噂で」
ヴォルン院長から聞いたことは伏せておいた。
「そうか……どうして漏れたのかはわからないが……リオネル、どうか私を許してほしい。君のことがとても好きで……初恋だった。ルクス神学院で君をひとめ見た瞬間、恋に落ちた。それを知ったアーロンが……そのころ彼が冗談めかして、くだらない計画を話していたので、すぐにピンときた。しかし、欲望にあらがえなかったのは私だ。リオネル……どんな罪でも受けよう。本当に申し訳なかった」
レオンハルトが僕の前に額ずく。
「…………」
レオンハルトが僕を――昔から好きだった?
ひとめぼれ? 僕に?
僕を――愛していたということなの?
あらためてレオンハルトを見る。
僕の前にひざまずき、顔を伏せたままだ。
では、僕たちは昔から相思相愛で――。
だけど、僕とレオンハルトはもう夫婦じゃない。
いまさら謝られても過去の話だ。
いや、ヴォルン院長によると、カーヴェル副院長とは昔からずっと続いている関係だと――。
「あの……今も、その……」
「離宮の回廊の小部屋で行われた魔術はアーロンじゃない。彼はその前に僕たちに警告していただろ?」
「警告? あの、カーヴェル副院長とは……」
「カーヴェル副院長? 彼女は私が子供の頃……私の遠い親戚の婚約者だったことがある。そのころ話したことはないが、一族の集まりに顔を見せていた時期があったから、顔はおたがい認識していた。カーヴェル副院長とフェルナー法務官は現在、恋人同士だ。婚約破棄する前から付き合っていたらしく、それが原因でいまだに結婚が許されない」
「…………」
カーヴェル副院長の婚約破棄の原因がフェルナー法務官だった事は、ヴォルン院長の説明どおりだ。
ピクニックのときに話しかけてきたご令嬢が言っていた“カーヴェル副院長はレオンハルトの遠い親戚”という噂も本当だった。
この点も、ヴォルン院長の話と一致する。
「リオンは? 神父さまのところにいるのかい?」
レオンハルトが不思議そうに訊いてきた。
「リオンなら一緒に……ぇっ?」
リオンがいない。
どうしたんだろう。
「リオン! リオン、どこ! まさか、領主に……?」
いやな予感がする。
「リオンがいなくなったのか? 領主! どちらにいらっしゃいますか!」
レオンハルトが呼ぶと、アーヴィン・ロウはすぐに姿を見せた。
「二人のために席を外していたのだが、どうかしたのか」
「リオンという男の子がリオネルと一緒に来たはずです。彼はどこですか。リオネルがここにあいさつに来たとき、連れていた子供です」
レオンハルトが尋ねると、アーヴィン・ロウは不思議そうな顔をした。
「リオネルは一人で来たぞ。男の子は見ていない」
「えっ?」
「……っ!」
あまりの衝撃に、頭が真っ白になる。
リオン――どこへ行ってしまったの。




