第56話 静かに動き出す運命
馬車が静かに、ルミナリア王国で最も古い建物である王国監査別院の前に停車した。
「最上階にお連れしろ」
「はっ!」
ヴォルン院長は憲兵にそれだけ告げると、僕とリオンに馬車から降りるよう促した。
「リオン……レオンハルトに会えるよ」
「わーい!」
レオンハルトの名を聞いた途端、リオンはぱっと表情を明るくし、はしゃぎ始めた。
本当に、彼はレオンハルトが大好きなのだ。
リオンは喜んで馬車を降りていく。僕もそれに続いた。
目を覚まし、さっきまで雰囲気を察して縮こまっていたリオンだが、レオンハルトの名を聞いて安心したようだ。
「稽古!」
「ん? ああ、そうだね。しばらく騎士の訓練をしていなかったよね」
僕を見上げ、うれしそうに手を上げるリオン。
レオンハルトの稽古を受けてから、歩き方もずいぶんとたくましくなった。
腕や脚も太くなり、よく食べるので背丈や体重が伸びた。
「リオン……レオンハルトと暮らすほうが、君はしあわせだ。だけど……」
この先、どうすればいいのだろう。
レオンハルトに会ったら、何を話したらいい?
ヴォルン院長の告白を伝えるべきなのか。
「あの、ヴォルン院長……?」
いつまでも馬車から降りない院長に声をかけた。
「私はアーロンたちを捜しに行く」
「たち?」
「アーロンとカーヴェル副院長、フェルナー法務官の三人が行方不明だ」
「ええっ!」
「この意味……君ならわかるな」
ヴォルン院長が馬車の中から意味深な視線を寄こした。
「おや? この菓子はリオンのかな?」
「ぼくのー!」
院長がコマドリの砂糖菓子を見せると、リオンは馬車に戻ってそれを受け取り、すぐに僕のそばへ戻ってきた。
「リオネル、よろしく頼む。ルミナリア王国の運命は君の判断にかかっている。過去と決別し、息子の未来を考えろ」
「えっ……?」
それだけ言い残し、ヴォルン院長の馬車は走り去っていった。
「どういうこと……? リオンが僕の息子だと……知っている?」
遠ざかる馬車を見送りながら、僕は途方に暮れた。
***
憲兵に案内され、僕は役所の最上階――ノルディア領主アーヴィン・ロウのもとへ連れてこられた。
「リオネルさまをお連れいたしました」
「リオネル? どうしてここに?」
アーヴィン・ロウが僕を見てびっくりしている。
「えっ? ヴォルン院長が教会に迎えにきたので……レオンハルトが僕に会いたいからと」
「ヴォルン院長が? いつの間に……憲兵、ヴォルン院長は?」
「馬車で出発しました」
「すぐに追え! 絶対に見失うなよ」
「はい!」
「国境付近の軍部周辺の包囲は完璧か?」
「はい。いまのところ動きはありません」
「よろしい。彼らはそこに監禁されているはずだ。王令よりも人質の奪回を優先しろ。くれぐれも先走るなよ」
「はい!」
ノルディア領主と憲兵が物騒な会話を交わしている。
ヴォルン院長を徹底的に追い詰めるつもりらしい。
“人質”とは、アーロンとカーヴェル副院長、フェルナー法務官の三人ことだろうか。
「レオンハルトは奥の部屋だ。私が地下牢から奪回した」
ノルディア領主アーヴィン・ロウが僕に向き直り言った。
レオンハルトが地下牢に監禁されていただって?
ヴォルン院長がやったことだというのだろうか。
それをノルディア領主が救出した?
ヴォルン院長の話と、まるで真逆じゃないか。
いったい、どうなっているんだ。
「……わかりました」
僕はとりあえず返事をした。
憲兵が、部屋の奥にある扉をノックしてから開けた。
「リオネルじゃないか! どうしてここに?」
レオンハルトが扉の奥から飛び出してきた。
僕を見て、びっくりしている。
「レオンハルト……!」
僕は彼に、どう接すればいい?
何を、どう話せば――。




