↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第10章 レオンハルトへの疑惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/72

第55話 揺らぐ真実の馬車

僕の予感は当たった。

安寧な日は、訪れなかった。


「リオネル、ヴォルン院長がお見えだ。二人を保護してくださるそうだ」


「え……っ」


教会に身を寄せてすぐ、ヴォルン院長がやって来た。

事情を何も知らない神父さまは、僕たちを彼に託した。


ヴォルン院長は憲兵を大勢連れていた。

僕たちに逃げ場はなかった。


「ヴォルン院長、リオンは関係ありません。彼は置いていきます」


「いや……調査に利用された子供だ。参考人として連れて行く必要がある」


「でも!」


「リオネル、すまない。これは私の意向ではない。ノルディア領主アーヴィン・ロウの決定だ」


「なんですって!」


そうだった――。

北方領ノルディアの領主アーヴィン・ロウは、目の前の男、ヴォルン院長と末の王太子の仲間に違いない。


しかし大勢の憲兵に囲まれては逃げ場もなく、神父さまに迷惑をかけるわけにもいかない。

僕は仕方なく、コマドリの砂糖人形をぎゅっと握りしめたリオンを抱いたまま、馬車に乗り込んだ。

荷物を持っていくことは許されなかった。


だが驚いたことに、僕らと一緒に馬車に乗り込んできたヴォルン院長は、意外な事実を打ち明けてきた。


「レオンハルトは私のことを、裏切り者だと言っていたろう」


「……っ!」


いきなり核心に触れてくる、ヴォルン院長。

思わず、膝の上のリオンをギュッと強く抱きしめた。


「リオネル……それこそが陰謀だ。すべてはノルディア領主アーヴィン・ロウが企てたことだ。レオンハルトに命を下した王は完全に騙されている」


「えっ……?」


ヴォルン院長は、レオンハルトが王の密命で動いていることを知っているみたいだ。どうして?


「リオネルは知らなかったのか? レオンハルトは王の命令でこの北方領ノルディアに来た。末の王太子とノルディア領主アーヴィン・ロウの不正を暴くためにな。しかしアーヴィン・ロウは狡猾な男だ。首都セラフィオンの王国監査院長グレイヴを抱き込み、レオンハルトを取り込んだ」


「彼は簡単に懐柔されるような人間ではありません」


僕は即座に否定した。この期に及んで、レオンハルトに罪をなすりつけるなんて。


「リオネル……レオンハルトのかつての妻である君の気持ちは理解できる。しかし彼はアルファだ。同時に何人も愛することができる」


「どういう意味でしょうか」


「知らないのか? レオンハルトとカーヴェル副院長は、将来を誓い合った仲だった。その関係は、君と結婚した間も続いていた。今もだ」


「……っ!」


衝撃的な内容だ。

まさかとは思っていたが、面と向かって権威ある人物から聞かされるとショックが大きい。

動揺で、手が足が、身体全体が小刻みに震える。


「で、でも! カーヴェル副院長はフェルナー法務官と恋人関係にあります。それに、レオンハルトにはアーロンという婚約者が」


「恋人なのはアーロンとメアリーだ」


「えっ……?」


ヴォルン院長の口ぶりは確信に満ちていた。

そういえばアーロンは、メアリーを過度に気にかけている。

恋愛感情と言われれば納得できる。


「二人は身分差があるから、アーロンの実家フェルステッドの人間や周囲には伏せているようだがな。レオンハルトの家が没落したあと、メアリーがアーロンの家に働きに行き、親しくなったようだ」


「で、ではなぜ、レオンハルトはアーロンと婚約を?」


「世間への目くらましだ。レオンハルトは王命もあったが、カーヴェル副院長のそばに行きたいがゆえに、この北方領ノルディアという僻地にわざわざやってきた。婚約者がいればカーヴェル副院長との仲を隠せる。


カーヴェル副院長はレオンハルトよりかなり年上だ。現時点では結婚はできない。それに、君という妻がいるときから関係していた。いまでも繋がっていると発覚すれば出世の妨げになる。

この醜聞は、首都セラフィオンでも、このノルディアの官僚の間でも公然の秘密だ」


「……っ!」


僕の胸に衝撃が走った。

だとしたら、レオンハルトはどうして僕に愛を語ったのだ――。


いや、彼は僕を守ってくれているだけで、告白は受けていない。

体の関係も、やむを得ずだ。


「レオンハルトとアーロンの婚約は双方に都合がよかった。二人は婚約するとすぐに、うるさい親戚がいない北方領ノルディアへ一緒に赴任にした。メアリーをカーヴェル副院長の家に置いておけば、それを口実に、二人とも堂々と彼女の家に出入りできるからな」


目の前が暗くなる。

何も知らなかったのは、僕だけなのか。


「リオネル……頼れるのは高潔な君だけだ。どうか、助けてほしい。彼らは全員グルだ。この北方領ノルディアを拠点に反乱を起こそうとしている」


「……何のためにですか。末の王太子やノルディア領主アーヴィン・ロウ、首都セラフィオンのグレイヴ王国監査院長はともかく、レオンハルトに得はありません。アーロンやカーヴェル副院長、フェルナー法務官にも動機が……」


レオンハルトが悪人だとはどうしても思えない。

だが、一度に流れ込んできた情報量が多すぎて、思考が追いつかない。


誰が敵で、誰が味方なのか。

今の僕には判断がつかない。


だいたい、国境沿いの軍部施設で反乱の準備をしていたのは、目の前のヴォルン院長だ。

それもレオンハルトの嘘だというのか。


「かわいそうに……君は利用されているのだ。

四年前……君の父上は、グレイヴ王国監査院長と共謀して汚職を行っていた。レオンハルトの父親――当時の宰相も共犯の可能性がある。それを告発したのは私だ。彼らは私を恨んでいる」


「それは本当ですか。では、四年前の財務監査報告書にかけられていた魔法は?」


「アーロンがあとからかけたのだろう。彼はルミナリア王国最高の魔法使いだ。その彼が、財務監査報告書にかけられた簡単な魔法を解けないわけがない。アーロンはレオンハルトの親友だ。メアリーの件もあるから協力しているのだろう」


「……っ!」


次々と衝撃的な事実が語られていく。

どこまでが真実なのか――。


「しかし、フェルナー法務官は? 彼は末の王太子を諫めた人物として有名です」


「だからこそだ。王太子の敵という印象を与え、北方領ノルディアへわざと左遷されたのだろう」


「彼も最初からグルだと? しかし、フェルナー法務官とカーヴェル副院長は……」


「恋人関係にあると、レオンハルトが言ったのだな? たしかに、彼女はそういう女だ。カーヴェル副院長がアルファであることを忘れてはならない。彼女の昔の話を知らないのか」


「とても真面目そうな女性に見えますが」


「アルファは女性でも、同時に複数の相手をすることができる。彼女は昔、レオンハルトの遠い親戚の婚約者だったが、フェルナー法務官と浮気して婚約破棄された。そしてカーヴェル副院長は……レオンハルトの最初の女だ。彼女はそういう意味で有名な女アルファだ」


胸が大きく跳ねた。

ドキドキ、ドキドキ――鼓動が止まらなくなる。


リオンは腕の中で眠っている。

子供に聞かせていい話ではない。


「で、でも……!」


だけど、やっぱり信じられない。

あの、清廉潔白なレオンハルトが?


「レオンハルトは幼い頃から真面目な神童として有名だった。しかし、カーヴェル副院長に誘惑され、彼女の魅力から離れられなくなったのだ。リオネル、わかるよ。私も最初は信じられなかった。しかし、皆が知っている話だ。ウソだと思うなら……レオンハルトに直接、聞いてみるといい」


「ぇっ……? レオンハルトに会えるのですか? それも……ノルディア領主の指示ですか?」


罠だろうか。身を硬くする。


「いや。レオンハルトが会いたがっているそうだ。つまり……ノルディア領主アーヴィン・ロウは、レオンハルトの言いなりということになる。一連の流れを見れば、聡明な君なら真相がわかるだろ? レオンハルトは謀反の罪で連行されたんじゃない。最初からノルディア領主とグルで、謀反を企んでいるんだ。頼む。助けてくれ。私は完全にはめられた。頼れるのは君しかいない」


「ヴォルン院長……」


院長の顔は蒼白で、額にびっしりと汗をかいていた。

彼は本当に追い詰められているように見える。


このさき、誰を信じればいいのか――。


真相を何もつかめないまま僕は無言で――膝の上で眠り込んだリオンをギュッと抱きしめたまま、馬車の揺れに身を任せていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。