第54話 連行の朝、崩れゆく日常
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
「レオンハルト・ヴァルター! 謀反の容疑で連行する!」
「……っ!」
レオンハルトが帰宅してすぐ、リオンを交えた三人で食事をしている最中、家の扉が激しく叩かれた。
気づけば、家は憲兵たちに包囲されていた。
「い、いつの間に……!」
僕は急いでリオンを抱き上げる。
「リオネル! リオンと一緒に二階へ隠れろ。私が連行されてしばらくしたら、神父さまのところへ行け。今いちばん信用できるのは、あの方だけだ。教会にいれば、末の王太子も手出しできないはずだ」
「……わかりました」
レオンハルトは拘束される覚悟なのだ。
悲しみと絶望が一気に押し寄せてくる。
不安と恐怖が交錯する中、僕はリオンを抱いたまま静かに二階へ避難した。
扉を叩く音は止まらない。
僕が二階の寝室へ入ったのと同時に、レオンハルトが静かに扉を開ける気配がした。
ダダダダーッ――。
大勢の憲兵たちが雪崩れ込む音が響く。
僕はリオンを抱きしめたまま、寝室のクローゼットの中で恐怖に身を縮めた。
大声でレオンハルトの罪状が読み上げられる。
レオンハルトはすぐに連れ去られた。
彼らは全員、歩いてこの家に来たようだ。
行進していく音が遠ざかっていく。
入ってきたときと同じぐらい唐突に、家の中が静まりかえった。
「…………」
クローゼットの中でリオンを抱きしめたまま、僕は震えていた。
悲しみと恐怖で、しばらく動けなかった。
「ママ……?」
「リオン……ごめんね。また……教会へ行くよ」
リオンの呼びかけで我にかえった。
彼を腕の中からおろし、立ち上がる。
「うん……わかった」
リオンはすぐに異変を察したようだ。
例のコマドリの砂糖菓子だけを握りしめ、素直に僕についてくる。
二人で一階へ下り、外の様子をうかがいながら扉を開けた。
「……よかった。誰も見張っていない」
家の外には誰もいなかった。
目的はレオンハルトだけだったようだ。
僕はリオンの手を引き、誰にも見つからないよう裏道を通って教会へ向かった。
胸の中は不安でいっぱいだ。
「レオンハルト……どうか無事でいて。神さま……どうか彼を助けてください」
祈りながら、リオンと二人で慎重に歩みを進めた。
***
教会に着くと、僕とリオンは神父さまに事情を話し、かくまってもらった。
「レオンハルトさまほど清廉潔白な役人はおられない。なにかの間違いだ。神に祈りながら、帰りを待ちましょう」
「……はい」
当初、カーヴェル副院長が言った言葉――
『王家が分裂を始めた今、誰も信用できないわよ。私たちも例外じゃないわ』
――が、現実になってしまった。
「うぅ……」
激しい悪寒が走る。
「ママ……?」
「リオン、大丈夫だよ」
不安そうに見上げるリオンをしっかりと抱きしめる。
だけど、僕の心に射した暗い影を振り払うことは――どうしてもできなかった。




