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北の監査官は別れたオメガ妻に未練があるらしい  作者: 茉莉 あまね
第9章 揺らぐ真実と疑惑

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第50話 レオンハルトの沈黙

「リオネル……」


「あっ……よかった。無事で」


一時間ほどすると、レオンハルトが戻ってきた。

リオンの隣に腰を下ろし、息子を膝にのせる。


「パパー! 僕、パイをぜんぶ食べたよ」


「おお、えらいぞ、リオン」


リオンの頭をやさしく撫でるレオンハルト。

うれしそうに胸を張るリオン。


「パパにも食べさせてあげるね。はい!」


「ありがとう……うん。おいしいな」


「でしょー?」


レオンハルトにパイを食べさせ、満面の笑みを浮かべるリオン。

彼のことが本当に大好きなのだ。


「リオネル……そろそろ宿へ行こう」


「なにかあったの?」


レオンハルトの真剣な目つきに、僕は異変を察した。


「まさかそんなことが……厳重に処罰されたはずだ。見間違いだといいが……リオネル、私は夜、また出掛ける。それまで宿でゆっくりしよう」


「うん……」


僕はそれ以上追及しなかった。

レオンハルトは憶測でものを言う人ではない。

確信が持てたら、きっと僕に真相を話してくれるだろう。


僕たち家族は、しばらくしてその場を離れた。


***


「追っ手はないようだ。安心した。私たちの行動は敵に知られていない。森の中にも祭り会場にも、不審な人物の影はなかった」


「レオンハルト……」


馬車の中で、遊び疲れて眠るリオンを膝に抱えたまま、後方を気にするレオンハルトに、僕は困惑した。


「リオネル、大丈夫だ。万が一のときは、私が命懸けで君たちを守る。すぐに帰りたいところだが、それではかえって怪しまれる。明日も祭りを楽しみ、予定どおり明後日の朝、帰途に就こう」


「……わかりました」


僕の手を強く握りしめ、ハシバミ色の瞳に力を込めるレオンハルト。

彼を信じてついていくと決めたから、怖くはない。

けれど、その裏にどんな真実が隠されているのだろう。


僕が知ればショックを受けるような内容なのだろうか。

レオンハルトの様子から、それが察せられた。


結婚していた頃、彼はもっと僕によそよそしかった。

だが、触れる手や向けられるまなざしは、やさしさと温かさに満ちていた。


三か月に一度しか会えなかった。

でも、僕を大切にしてくれている気持ちは十分、伝わってきた。

そこに恋愛感情があったのかどうかは、わからないけれど――。


レオンハルトはとにかく、紳士で思いやりのある人だ。

だからこそ、彼が黙っているということは、僕への気遣いの表れなのだ。


「…………」


静かな空気の中、リオンの規則正しい寝息だけが聞こえてくる。

窓の外を流れる見慣れない田舎の風景に、不穏な影が混ざっているような気がした。

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