第50話 レオンハルトの沈黙
「リオネル……」
「あっ……よかった。無事で」
一時間ほどすると、レオンハルトが戻ってきた。
リオンの隣に腰を下ろし、息子を膝にのせる。
「パパー! 僕、パイをぜんぶ食べたよ」
「おお、えらいぞ、リオン」
リオンの頭をやさしく撫でるレオンハルト。
うれしそうに胸を張るリオン。
「パパにも食べさせてあげるね。はい!」
「ありがとう……うん。おいしいな」
「でしょー?」
レオンハルトにパイを食べさせ、満面の笑みを浮かべるリオン。
彼のことが本当に大好きなのだ。
「リオネル……そろそろ宿へ行こう」
「なにかあったの?」
レオンハルトの真剣な目つきに、僕は異変を察した。
「まさかそんなことが……厳重に処罰されたはずだ。見間違いだといいが……リオネル、私は夜、また出掛ける。それまで宿でゆっくりしよう」
「うん……」
僕はそれ以上追及しなかった。
レオンハルトは憶測でものを言う人ではない。
確信が持てたら、きっと僕に真相を話してくれるだろう。
僕たち家族は、しばらくしてその場を離れた。
***
「追っ手はないようだ。安心した。私たちの行動は敵に知られていない。森の中にも祭り会場にも、不審な人物の影はなかった」
「レオンハルト……」
馬車の中で、遊び疲れて眠るリオンを膝に抱えたまま、後方を気にするレオンハルトに、僕は困惑した。
「リオネル、大丈夫だ。万が一のときは、私が命懸けで君たちを守る。すぐに帰りたいところだが、それではかえって怪しまれる。明日も祭りを楽しみ、予定どおり明後日の朝、帰途に就こう」
「……わかりました」
僕の手を強く握りしめ、ハシバミ色の瞳に力を込めるレオンハルト。
彼を信じてついていくと決めたから、怖くはない。
けれど、その裏にどんな真実が隠されているのだろう。
僕が知ればショックを受けるような内容なのだろうか。
レオンハルトの様子から、それが察せられた。
結婚していた頃、彼はもっと僕によそよそしかった。
だが、触れる手や向けられるまなざしは、やさしさと温かさに満ちていた。
三か月に一度しか会えなかった。
でも、僕を大切にしてくれている気持ちは十分、伝わってきた。
そこに恋愛感情があったのかどうかは、わからないけれど――。
レオンハルトはとにかく、紳士で思いやりのある人だ。
だからこそ、彼が黙っているということは、僕への気遣いの表れなのだ。
「…………」
静かな空気の中、リオンの規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
窓の外を流れる見慣れない田舎の風景に、不穏な影が混ざっているような気がした。




