第46話 決意と揺らぎのあいだで
「ママーッ!」
「リオン?」
僕の発情は一週間も続いてしまった。
その間、レオンハルトと寝台をともにした。
そして発情期が明けた今日、彼はリオンを自分の部屋へ連れてきた。
寝台に横たわる僕を見るなり、コマドリの砂糖人形を握りしめたまま泣きながら抱きついてくるリオン。
彼とこんなに長く離れたのは初めてだ。
どれほど心細かったことだろう。
「リオン……ごめんよ。寂しかったろう」
「ううん。パパが……レオンハルトが毎日来てくれたの」
「そう……なの?」
寝台の横に立つレオンハルトにたずねる。
「ああ。子供たちの面倒を見ていた。神父さまにもすべて了解済みだ」
「…………」
意味ありげな目配せをするレオンハルトの返答で、すべてを理解した。
神父さまは、僕とレオンハルトの仲を認めてくれたのだ。
「あの……じゃあ、僕は神父見習いから」
「保留にしてもらっている。リオネルはあまり出歩いていないから、神父さまが黙っていれば周囲は誤魔化せるそうだ。彼は私たちに理解がある」
「あの……神父さまは他に何か」
「いいや。何かあるのかい?」
「ううん」
よかった。
神父さまはリオンの父親のことも、リオンが髪と瞳の色を魔法で変えていることも、秘密のままにしてくれたようだ。
ホッとしたのも束の間、僕はこの新しい体制の“間違い”を正さなければいけないことに気づいた。
「あの……レオンハルト。この一週間のことは、本当にどうもありがとう。だけどアーロンが……僕は、この地を離れようと思います」
リオンは、レオンハルトの手元に置いていこう。
リオンの将来のために、それがいちばんいい。
僕は他国の教会へ行き、そこからリオンを見守る。
身を切られるような想いだけれど、そうするしかない。
「リオネル? 何を言っている? 皆の了承は得た。君はリオンとここにいればいい」
「レオンハルト……でも、僕たちは」
当然のように告げるレオンハルトを、リオネルを抱いたまま、
あらためて僕は見上げる。
「北方領ノルディアに、私たちの素性を知る者は少ない。心配なら、また髪と瞳の色を黒に変えるといい。ピクニックのときの設定にしよう」
ハシバミ色の瞳が、やさしい光を帯びる。
「レオンハルト……」
僕がレオンハルトの部屋に住むことは、もう決定事項のようだ。
どうしてなのか。
レオンハルトとの関係はいつも、僕が思っていたのとは違うところで進んでいく。
「ママー!」
「リオン……」
無邪気にはしゃぐリオンを抱きしめたまま、ハシバミ色の瞳に見守られ、僕は呆然としていた。




