第41話 月影の侵入者
「はあっ……だ、誰だ? ぁっ……」
現れたのはメアリーだった。
舞踏会へ向かって歩いてきたところらしい。助かった。
僕は、彼女が目の前に来た瞬間、声をかけた。
「はあぁーっ……メアリー」
「リオネルさま……ですか?」
メアリーは大きく目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
しかしすぐに、僕が発情していることを悟ったようだ。
「リオネルさま、鍵をかけて部屋の奥に隠れていてください。すぐにレオンハルトさまをお呼びして参ります」
「はあっ……でも、レオンハルトにはアーロンが……」
「大丈夫です。すぐに行って参ります」
メアリーは迷いなく、舞踏会場へ向かって駆けていった。
僕は急いで扉を閉め、鍵をかけると、部屋の奥の暗がり――棚の横へ身を潜めた。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
「……っ!」
複数の靴音が近づいてくる。
レオンハルトかと思ったが、音の方向は舞踏会場のある大広間ではなく、メアリーたちメイドの詰め所の方角からしてくる。
しかも、男の靴音――。
僕は息を殺し、緊張で体を強張らせた。
ガガッ!
「鍵が掛かっているぞ」
「この部屋は、中からしか掛けられません」
「では……獲物が掛かったということだな」
「……っ!」
低く残酷な声音。
僕は荒い息が漏れないよう、両手で口を押さえた。
「どうにかして開けろ! 上質なオメガの匂いがプンプンする」
「はい、ただいま!」
ガンッ! ガーンッ!
「ぅっ……」
剣の柄で扉の鍵を叩き壊そうとしている。
全身が汗でびっしょりだ。
このままでは襲われるのは時間の問題。
必死に体を縮め、棚の陰に隠れる。
そんなこと、無意味だとわかっているのに――。
リオンの笑顔が脳裏に浮かぶ。
最悪、もう二度と会えなくなるかもしれない。
ガキンッ! ドンッ!
「王太子さま、開きました」
「しーっ! 名前を呼ぶでない」
「……っ!」
どうしよう。
アーロンが注意しろと言っていた、末の王太子だ。
彼が魔法で罠を仕掛け、オメガを狙っていた――。
「ぅぅっ……」
王家の、それも王太子に襲われたら、生きて帰れるはずがない。
僕は死を覚悟した。
リオン、レオンハルト……ごめんなさい――。
目をつむり、神に祈る。
「フフ……発情の匂いだ。おや? 部屋の奥に誰かいるな」
「わたくしめが連れて参ります」
「待て。かなり弱っているようだ。私が行く。フフフフ……フフ……」
「……っ!」
恐怖で体が凍りつく。
そのとき――突然、風が吹き込み、月光が射し込んだ。
扉の前に立ち塞がったのは、
金色の長い巻き毛と、青い瞳を持つ美丈夫だった。




