第39話 再び回廊へ
「リオネル、すまなかった。部屋が違ったのは私の勘違いだ。出納帳をどうもありがとう」
僕が差し出した、首都セラフィオンの王国監査院院長エルンスト・グレイヴが過去に書いた出納帳を廊下の隅で受け取り、ヴォルン院長が困ったような顔をした。
「ヴォルン院長、出納帳を持ち歩くのが不安でしたら、私が預かります」
「もしくは、おれが魔法をかけて守ります」
レオンハルトとアーロンが申し出た。
「大丈夫だ。重要な予算の冊子ではないからな。万が一失くしても問題ない」
ヴォルン院長は二人を安心させるように微笑んだ。
では、ヴォルン院長は何を心配しているんだろう。
僕は少し不思議に思った。
「ヴォルン院長、アーロンが今説明した、四年前の財務監査報告書に毎日かけられていた魔法の件ですが……」
「レオンハルト、その話は舞踏会が終わってからにしよう。カーヴェル副院長とフェルナー法務官には私から話しておく。軍部や教会の視察報告も、明日以降にしてくれ」
「はい。わかりました」
「では、おれたちは失礼させていただきます」
レオンハルトはアーロンと連れ立ち、舞踏会場へ歩いていった。
「…………」
四年前まで、レオンハルトの隣は僕の特等席だった。
こうして二人を見送ると、あらためて差を感じる。
これでよかったんだ。
リオンには申し訳ないけれど、虐待されて育った僕は――レオンハルトにふさわしくない。
天才レオンハルトは、アーロンのように明るく光り輝く人間と一緒にいるべき人物だ。
わかっているのに、自然と涙が浮かんでくる。
「……僕も失礼させていただきます」
このような場所に長時間いると怪しまれる。
神父さまのもとへ戻ることにした。
「リオネル、すまないが」
「はい?」
廊下を戻ろうとすると、ヴォルン院長に呼び止められた。
「回廊の途中に小部屋がある。そこに書類を置き忘れた気がするんだ。重要な物だから、見ればわかる。取ってきてくれるか。私は舞踏会場で、グレイヴ院長とノルディア領主アーヴィン・ロウの動きを見張る」
「はい。わかりました」
ヴォルン院長はそそくさと、舞踏会場である大広間へ向かっていってしまった。
僕はしかたなく、回廊を目指して再び歩き始めた。
レオンハルトには、回廊付近は暗いので近づかないよう注意されていた。
もし再び行くことがあれば、自分が護衛するとまで言われている。
「でも……メアリーたちメイドも、あの回廊を通って行き来している。ヴォルン院長の頼みだ。アーロンと踊っているレオンハルトを呼びに行く口実も見当たらないし」
僕は深く考えず、もう一度回廊へ戻った。
そして暗がりの中、ヴォルン院長に言われた部屋を探し始めた。




