第37話 北方ノルディアの影 ― 廃教会に潜む真実
僕とレオンハルトはその後も、リオンを連れて四年前の財務監査報告書の裏付けを取るための調査を続けた。
報告書に記載されている北方領ノルディアのさまざまな教会を、泊まりがけで訪ね歩いた。
「レオンハルト、この教会も、もう機能していないの?」
「そのようだな。ここは十年以上前に廃村になっている。名前だけが残っていたようだ」
僕とレオンハルトは、ボロボロに崩れた廃教会の前に立ち、壊れた尖塔を見上げていた。
リオンは馬車の中で眠っている。
神父さまの承諾を得て、リオンはレオンハルトから騎士の訓練を受けている。
今日も朝から特訓を受け、疲れてしまったようだ。
「昨日視察した教会も、隣村と合併して空き家になっていたよね」
「ああ。それも十年以上前の話だ。この四年前の報告書に記載されている献金を受けた教会はおそらく、すべて……潰れているだろう。これ以上、見てまわる必要はなさそうだ。明日の朝、帰途に就こう」
「ひどい不正だ……。辺境の管理が行き届かない教会に、ニセの献金をしていたなんて」
「戦争のあと、管理がずさんになっていたようだ。そのころ発覚した教会と官僚による有名な巨大汚職事件で、王国監査院の注意は首都セラフィオンに集中していた。その隙を突いて、北方領ノルディアの僻地にある廃教会を利用した献金詐欺が繰り返されていたのだろう」
「レオンハルトは匿名の献金者が末の王太子一派だと考えているんでしょ? 王太子派の官僚で、首都セラフィオンの王国監査院院長エルンスト・グレイヴの筆跡以外に、証拠はあるの? その証拠も、今は魔法で消えてしまっているけれど」
ずっと気になっていたことを、思い切って訊ねた。
「リオネル、実は……今回の調査は王命なんだ。ヴォルン院長たちは、そのことを知らない。私は首都セラフィオンで監査官としての腕を買われ、密命を受けた」
「そ、そうだったんだ」
そんなに重大な使命だとは思わなかった。
だからレオンハルトは、僕が名誉を取り戻せるかもしれないと言っていたのか。
「リオネル、私を信じてついてきてくれ。決して後悔はさせない」
「レオンハルト……」
ハシバミ色の瞳が、真摯な光を宿して僕を見つめる。
でも、僕は――アーロンやカーヴェル副院長と、レオンハルトを共有する気はない。
リオンだけは、彼にふさわしい地位につかせてあげたいけれど――。
僕の心は複雑に揺れていた。
***
「リオネル、実は……末の王太子がノルディアに視察に来たそうだ。歓迎の舞踏会が今夜開かれる。宿を出るとき、伝令が知らせに来た」
「ええっ!」
翌日の早朝。ノルディアの中心地へ戻ろうとしていた馬車の中で、レオンハルトから驚くべき情報を伝えられた。
疑惑の人物が、なぜ今、こんな僻地に?
僕がこの地にいた四年間、王家の人間が訪れたことは一度もない。
「私たちが調査の旅に出ている間に突然、来訪したそうだ……偶然だろうか。帰宅を早めなければ、今夜の舞踏会には出られなかった」
「でも、僕たちの調査は極秘でしょ? 家族旅行を装っていたのに?」
「この前もそうだ。私とリオネルが四年前の財務監査報告書を見た直後に、魔法で改ざんされた」
「僕たち……見張られているの?」
「わからない。でも、用心しよう」
「うん……」
馬車の中で眠るリオンを抱きしめる手が震える。
「リオネル……大丈夫だ。私がいる。君とリオンを、全力で守り抜く。騎士の名誉にかけて」
「レオンハルト……」
僕の手を強く握りしめるレオンハルト。
そのあたたかさは――四年前とまったく変わっていなかった。




